prologue
どうもお初お目にかかります
この世界には沢山の種族が溢れかえっている。
悪魔、竜種、亜人種、精霊、異形種、それから霊長類人科の人類。
今現在、この世界の強者カーストに於いてトップに立っているのは体格的にも、身体能力や魔法能力的にも最下位に位置する人類だ。
勿論、人類の全てが皆人外のような強さを持っているわけでも無く、寧ろB~Sランクの冒険者を除けば最下位に位置するほど人類はか弱く、脆い。
冒険者とは、一般的にモンスターを倒した時に残される、小さくて2センチ、大きいもので30センチほどの箱を鑑定士と呼ばれる人に渡す事でランクが上がっていく仕組みである。
最低ランクはGで、最高ランクはSなのだが例外のランクも存在し、今のところは3人の冒険者のSXランクが最高だ。例外のランクに上がった者は人々に畏怖と崇拝から、【オーバーランク】と呼ばれており、その戦闘能力は最早人類の其れでは無い。
SXランクには其々異名が付けられている。
一人目が
オラクル・イリネウス
異名は【激流】
どのような技を使うのか、はたまた魔法を使うのか不明でオーバーランクの中では一番正体不明の人物だ。
現在の所在地は不明。
二人目は
エレナ・ハミルトン
異名は【炎弧】
見た目はとても可憐な少女であると言われているが、戦闘能力については大々的に知られており炎を自由自在に操るという。
オーバーランクの中では一番親しみやすいと言えるかもしれない。
また、オーバーランク三人目の人物と仲が非常に良いという目撃情報が寄せられている。
現在の所在地は東の大国【サンロード】
そして最後の三人目が
ラタン・ティバース
異名は【醒剣】
上記のエレナと仲が良く、共に行動している姿を目撃されることが多い。
朧に関しては情報が多く寄せられていて、オーバーランクの中では一番庶民的であるらしいが真偽は不明。
戦闘能力も情報が多く、大剣や太刀を好んで使用するとされている。また、オーバーランクは国の王よりも立場が上であるため、王の命令を聞く必要はないのだがラタンは頻繁に王の依頼を受け悉く成功してきている。民衆からの人望も厚く、ファンクラブのようなものまで出来ているという報告も出てきていた。
現在の所在地は東の大国【サンロード】
現在この世界には五つの大国が存在し、其々が優秀な兵を揃えている。
北の大国
【イースラン】
非常に環境が凶悪な雪国。
イースラン周辺に住み着く魔物は皆最低でもBランクで、目撃された最高ランクはSランクである。
その為、この国に住む冒険者達は皆強者だ。
西の大国
【ウィンロード】
環境は人類が住みやすく、危険度の高い魔物には滅多に出くわすことはない。
ウィンロードに住む冒険者たちは平均的にD~Cランク程である。
東の大国
【サンロード】
大国の中でも最も安全で栄えている国。
冒険者にこれからなる、という者はこの国からスタートするのが一番妥当であろう。
現在、オーバーランクが二名在住している模様。
南の大国
【パプアケート】
砂漠が多く、モンスター達も相応に強い危険度の高い国。
冒険者達も好き好んではこの国へ行きたがらないが、財政的にはかなり潤っており貧民は存在しないと言われている。
魔の大国
【イービル】
この世に蔓延る悪魔や異形は全てこの大国が原因とされている。
他の四つの国とは違い、王が確認されていない。
この国へ足を踏み入れ調査を行ったのは、オーバーランクのラタン・ティバース。
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「おぉ!!良くぞ来てくれましたな、ラタン殿!!」
「あぁ、そんで、今回は何があったんだ?」
東の大国サンロード
その中心部に聳える巨大な白城。
城の周りには鍛えこまれた体を持つ衛兵が、許可なく入城しようとする者がいないか目を光らせつつ、王への謁見を申仕込む人々への対応に追われている。
そんな衛兵達がピシッと敬礼し、一人の男を丁重に王のいる広間へと案内すると再び役務へと戻っていった。
王への謁見を許されたのは、【オーバーランク】ラタン・ティバース。
王の前へ立ちゆっくりと右手を上げ軽く挨拶を交わす。これが一般の冒険者や庶民であれば不敬罪で最悪の場合打ち首である。
しかしオーバーランクは王を超える権力を握っているのだが、それは何故か?
単純に強さの桁が違うのだ。
例えば、Aランクの冒険者が王へ歯向かい襲ったとしよう。
その場合は即座にAランクの衛兵に取り押さえられる事となる。衛兵を上手く交わしたとしても、【王の右腕】と称される元Sランク冒険者の女性、ルカに即座に無力化されるであろう。
ルカは現在最もSXランクに近いと言われており、その美貌も人間離れしたものだ。
深い海のような藍色の髪を無造作に腰の辺りまで伸ばしており、切れ長の瞳はコバルトブルー、腰にはレイピアを差している。
噂では、発見情報があれば通常A~Sランクの冒険者が数人集まってイービルまで撃退するSランクの魔物【サタン】を、ルカ一人で撃退したと言われている。
その戦果から王の側近になることを許された。
しかしそんなルカを歯牙にもかけないのがオーバーランクだ。
王の命令であっても束縛出来ない、人間でありながら天災のような存在--人々は神と同格とみなしている。
勿論欠点もあるし、幾らオーバーランクと言えど苦戦することは稀にあるようだ。
「ラタン殿、また肉体が逞しくなられましたかな?」
「あー、そうかもしんねえなぁ…最近、ちと頑張りすぎたか。」
ラタンの肉体は凄まじく筋肉質だ。
丸太のように太い腕に、絞り込まれた腹部に背中
それにラタンは顔も整っており、俗にいうワイルドイケメンである。
少し長い髪をバンダナで上へと押し上げただけの髪型であるのに、それが途方もなく似合っていて憎らしい。歳もそろそろお兄さんからオジ様へと変化しそうだ。
顔の右側に大きな切り傷があるが、それもまたラタンの魅力を引き立てているように感じられる。
服装は上半身は基本的に裸で、首元にジャラジャラと魔具をつけ、下に丈の短いダボッとしたズボンを履いている。ようは、カッコいいワイルドおじ様だ。
「あぁ、それで今回は何の依頼だ?」
「…うむ、今回ラタン殿に依頼したいのは討伐でしてな。」
討伐か、とラタンは頭をガシガシと強く掻いた。
オーバーランクのラタンにとって、其処らの冒険者達が利用する依頼所の討伐は余り意味がない。
しかし、王直々の討伐依頼となると、間違いなく国に影響を及ぼす程の魔物が現れたという事になるのだ。それはつまり少なくともAランクより上の魔物である事は間違いない。
「討伐隊は出撃させたのか?」
「目撃情報を得てから、真偽を確認する為に王都騎士団の偵察隊だけ出したのですが…流石にあの魔物となると討伐隊では無駄死になのですよ。」
ラタンは目を少し驚愕に見開いた。
王都騎士団の討伐隊と言えば、リーダーはA+ランクの元冒険者であったはずだし、部隊はAランクの実力者達からなる精鋭のはずだ。
それが無駄死にすると確信しているということは…
「SXランクか?」
「うむ…残念ながら、SXランク伝説の魔物【ヨルムンガンド】がイービル付近の荒れ地に出現し、それを王都騎士団の偵察隊も確認した。まさしく文献通りの姿であったらしい。」
ヨルムンガンド…元々は伝説のようなもので、体長30メートルほどの巨大なドラゴンだという。
曰く、世界の終焉に地上へ姿を現し、全てを破壊する。古い文献にはかつて姿を現したが、その時今は無き神々が集結し大地の奥深くへ封印したのだとか。
そんな存在が本当に姿を現したとなれば、イービルを除く全ての大国から討伐隊が派遣されるはずなのだが、今回は余りにも相手が悪い。
何の情報もない伝説のような存在に、己が国を守る精鋭部隊を簡単には派遣できないのだ。
そこで国々は考えた。
伝説の怪物には、人類の怪物をぶつければいいと
こうして東の国サンロードは他の大国から、国に在住しているオーバーランクに依頼するように脅迫じみた手紙が届く事となった。
「ヨルムンガンド…ねぇ。成程、いいだろう。只、仮に俺が殺られた場合はどうするんだ?」
「その時は…他の大国と連携して何としてでも討伐するしかあるまい。」
「なるほど、そりゃ名案だな?…そんで俺は、いつ出発すればいい?こっからイービルの近郊となると四ヶ月は掛かるぜ」
ラタンは辛くも了承すると、軽口を叩きつつ綿密に頭の中でプランを立てはじめる。
SXランクというのは、只強ければなれるという訳でもない。Sランク以上の敵となると知能が多少なりともあるからだ。
そしてラタンは此処からイービルまで四ヶ月はかかるという、否途中で確実に遭遇するであろうAランク以上の魔物達を相手にすることを考えると、もっと掛かるかも知れないと示唆していた。
「ヨルムンガンドは文献によると目覚めてから一年は特に目立つ活動はしないらしいからの、ゆっくりと準備を整えて万全の態勢で臨んで頂きたい!どうか宜しくお願いいたしますよラタン殿!!」
王は側近を呼ぶと急いで情報紙を町で配るように命令をした。
そしてラタンも自分にもう用は無いと、城から外へと歩きはじめる。
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ルカside
「ラタンさんっ!!」
「ん?あぁ、ルカ嬢じゃねえか!どうかしたか?」
王城の外に出かけていたラタンさんが、私の呼び声に振り向き笑顔で近づいてくる。
やはりこの人の笑顔は人を安心させる何かがある…何て事を考えながらも、頭の中にはもっと大事な事が渦巻いていた。
「ラタンさん…今回の討伐依頼、幾ら国王直々の依頼とはいえ断っても良かったのでは…?」
そういう訳にはいかねえよ、とラタンさんは豪快に笑った。
この人は強い、確かに人智を超えた強さを持っているし負ける姿が想像できない…でも万が一にでも負けてしまったら、殺されてしまったらと考えると…ッ!
「やっぱり…断りましょうよラタンさんっ!こんな無茶な依頼、有りえないです…。」
そうだ、伝説の魔物に人間一人に責任を任せて各国の王達は高みの見物を決め込む…こんな理不尽は許されるわけがない。
ラタンさんは正直、国民全員から好かれている。人望的な意味でも、異性として好いている者も少なくないのだ。王が今回の件を町でビラとして配るのなら、確実に暴動が起こるのではないだだろうか?
特に王都騎士団の中でも精鋭中の精鋭、戦乙女部隊にこの件が伝わればまず間違いなく、彼女たちは動く。あの部隊はラタンに何かしらの恩があるラタン信仰部隊なのだ。
「断るわけにはいかねえんだよ、ルカ嬢ちゃん。ここで俺がやんなきゃ、最悪の場合はこの国どころか世界が終わる。」
いつになくラタンさんが真剣な表情で重々しく口を開いた。
軽口ばかりなのにそれが自然と不愉快にならないラタンさんの、意外な一面。戦う時のような凛々しい表情に私は自然と引き込まれていくのが分かる。
「…なんてな!ま、俺にかかれば伝説の魔獣だろうが何だろうが瞬殺だぜ?」
私に隠すように明るい表情を作ると、いつものラタンさんに戻っていた。
ラタンさんなら大丈夫だと信じたい…でも--
そう考えている間にラタンさんの背中は既に、街の雑踏のなかに消えていたのだった---
次話はヒロインが何人か出る、か?