嘘つきの本音
ふと、なんとなく。
わたしは、小さい頃から本音というモノが言えなかった。
何度も言おうとした。
でも言えなかった。
ーーこれ欲しいの?
ーー……いらないもん。
ーーこういうの好きなんだね。集めてるよね、僕も好きなんだ。
ーー……別に好きじゃないわ。きっとたまたまよ。
自尊心が邪魔をするのだろうか。
そして。
代わりに口から出た言葉は本音とは真逆の言葉だった。
そのせいで喧嘩になったことだってある。
けれどやっぱりわたしは本音が言えないままだった。
だからわたしは、本音を込める。
これが精一杯。
本音を、本心を、どうか伝わって、って。
でもやっぱり言葉の意味は逆のまんまで。
みんなじゃなかった。
それでも、ほんの少しだけでも判ってくれる人はいた。
だから。
心を込めてこう言う。
ーーわたしはあなたのことがキライよ。
ーー僕も君のこと好きだよ。
そう返してくれる人が居た。
でも……
ーーわたしはあなたのそういう"判ってる"って感じでいつもニコニコしてるのキライ。 だから別れましょう。
別れたくないって思ったから。
ずっと一緒に居たいと思ったから。
でも本音を言えないこんなわたしじゃいつか愛想を尽かしてしまうかもしれない。
だから、そんな心配はないよ、って否定して欲しくて……
でも彼は……
ーーそう。
ひどく残念そうに、顔を少し俯かせて。
ーーそうか。 それはごめんね。 悪気があったわけじゃないんだよ。 でもそう言うんなら仕方がないよね……。
彼はそんなことを言う。
なんで!? 判ってよ! わたしは……わたしは……
終わってしまう。 このままでは……。
彼が居なくなってしまう。 このままでは……。
「ちょ……ちょっと………」
「……うん?」
「ぁあ……ゎ……す…す……ぅ……ぁぁ……」
心配そうにこっちを見る顔。
それでもとめも真摯な目で、こっちの言うことを絶対に聞き漏らさない、という風に。
その口が動いた気がした。
ーーガンバレ。
わたしの勘違いかもしれなかった。
それでもそうだと思った瞬間に。
「さ…さっきのは嘘!」
ここで少し間が空いて、
何かが溢れ出すように。
「ゴメンなさい別れたいなんて思っていないずっと居て欲しいって思ってるこれで終わりだなんて言わないでまだまだこの先もずっと……ずっと………」
初めはまくしたてるように。
すぐに遅く、弱くなっていって。
泣きじゃくるようなカタチで今度はわたしが俯いている。
その頭に、ポン、って手が乗っけられて。
よしよし、って感じで頭を撫でられて。
「ふふ…よく言えました。 やっと聞けたよ、恥ずかしがり屋さんの君の本音。」
この調子で頑張ろうね、なんてニコニコ笑いながら。
「ぅぅ…で…でも、わたしはあなたのその笑顔は好きじゃないから……。」
嘘が混じった。
でも彼は、じゃあ今度から気をつけるね、って優しそうな目をして一層ニコニコした表情になりながら。
「僕は君のことが大好きだよ。」
「…………うん、私もよ。」
書いてみたら予想より少しばかり長くなってました。