彼氏と一緒に乙女ゲーム!(後編)
オチなんて無かった。
個別ルート5 天才型毒舌猫系killkill病人
不治の病に倒れた青年。
千月流はその病に抵抗がある為、専属看護を申し出る。
祖母の薬を飲ませるものの、数が圧倒的に足りず、恐らく気休めにしかならないだろう。
病気の青年の口の悪さは、実兄の毒舌に比べれば大した事は無かった。
小さい頃から発作のせいで入退院を繰り返していた千月流に、実兄は容赦無く罵倒し、こきおろし、それでも最後の最後で手を差し伸べない事は一度たりとも無く、彼女はその事を良く知っていた。
どうにか言い負かせてやろうと鍛え上げた舌鋒は、病人の毒舌にも負ける事無く、いつしか心地良ささえ生み出していた―――
千月流が携帯音楽プレイヤーを眺めていると、青年がやって来た。
今日は気分がいいらしい。
動かなくなってだいぶ経つが、今でもお守りの様な物。
戦地に向かうなら荷物は少ない方が良い。
捨ててしまおうか思案している千月流に、彼はそれを自分に寄越せと言って来て―――
夜叉の一族の襲撃。
“千都留”に間違われた千月流を庇い、病人青年は重傷を負ってしまう。
そこへ“千都留の実兄”が現れ、誤解を解く間もなく病人青年は吸血鬼の血を飲まされてしまい―――
一時的な健康を取り戻した青年は、北上する隊を追って北の果てへと辿り着く。
そこへやって来たのは夜叉の頭領と千都留の実兄。
特殊部隊VS夜叉の一族の、2対2の決闘が始まった―――
乱入する不死の軍団に、混戦状態の戦場。
千月流を庇い、青年が深手を負った。
そこへ聞こえて来たのは、時を超える“兄”の声。
「お兄ちゃん助けて!!この人を助けて、お兄ちゃん!!」
傷付き倒れた青年を抱きかかえ、涙を流しながら叫ぶ千月流の前に奇跡が起こる。
『龍』の力に導かれ、まるで桜の木の中から現れる様に小柄な青年が姿を現わした。
その姿は“千都留の兄”そっくりで―――
「御都合ー」
「いいっじゃん、丸く納まったんだからさー」
「この桜がタイトルの桜?」
「まあね」
「つくづくファンタジーだよなー。タイムスリップから始まって、歴史で伝奇で最後にファンタジー…」
「文句あるなら見ない」
「女子ってこういうの好きなの?」
「……趣味は人それぞれ、だと思う」
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混ぜるな危険も多々あるが、これは成功した例だと思う。
兄(と龍)の助力で現代にやって来た青年。
病気も完治する見込みだと告げられた。
また、千月流のキメラの血も龍の奇跡によって消されており、発作や寿命の心配ももう無いという。
いまだに本人とは会えないが、その兄は毎日の様に顔を出す。要らないひと言も必ず添えて。
動かなくなっていた携帯音楽プレイヤーは充電され、彼は初めて彼女の生きて来た世界を知る。
覚えなければならない事が多すぎて疲れた青年は、気晴らしに病院の屋上へと足をのばす。
高層ビル群、空を飛ぶ鉄の鳥。
今まで見た事も無いような世界が、眼下には広がっていた。
かつん、と音がして振り返ると、そこには小太刀を持った黒装束の千月流がいて、これから現代の闇にはびこる悪鬼を退治すると言う―――
「え?これハッピーEDか?」
「俺達の戦いはこれからだ!!みたいな?でもこれは許せるっていうか、千月流ちゃんカッコカワイイよね」
「……まあ」
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『ブラックOック千月流ちゃん』の次回作にご期待下さい!
個別ルート6 黙っていれば、のダルデレ副隊長
千都留と間違えられたまま夜叉の頭領に拉致られそうになる千月流。
別にかまわなかった。このまま“千都留”の代わりとして生きて行くのだとしても。
しかしそこへ副隊長が現れる。
かろうじて撃退した副隊長は、何故抵抗しなかったのかと問う。
『お前は監視対象だ。めんどくせーが、ここから出す訳にゃいかねーんだよ』
最終的にそんな言葉を残し、彼はその場を去った。
未来に生きるという事は、過去を知る事。
千月流は、このままではこの戦に勝てない事を知っていた。
世話になった恩人を生かす為、彼女は奔走するが、その先には夜叉の頭領が待っていて―――
守ろうとして守られて、結局誰も救えなかった彼女は決意する。
同胞を敵に回すと、未来を捨てるのだと。
『あたしは“ツキヨミ”!“冠位第十三位、月鬼冥府”!!』
目の前で息絶えた恩人の小太刀を抜き取り、夜叉としての名乗りを上げながら、自身の小太刀と合わせる。
小太刀二刀流。
それが彼女の、本気。
「お、結構カッコいいじゃん。この流れ」
「いやいやいや、キマシタワァ。これがあったから某狩りゲーで双剣使ってるんだよねー、私」
「そうなんだ?………ん?」
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乙女ゲーだからと侮ってはいけない。
しかし良く考えなくてもやっぱり厨二。
海上を進む船の上、男装の少女は独り、小さな板切れを海に放り投げた。
それを知っているのは、彼女の他にただ一人―――
時代や状況に合わせる様に、部隊の制服が変わった。
用事があって副隊長の様子を見に行くと、そこには―――
『……』
『…おい、何か言えよ』
『っあ、…あー、吃驚した。どこぞの“あくまで”執事かと思っちゃった。…でも、口開いたらいつもの副隊長だったよ。こういうのも“残念”、って言うのかな?……何だ、驚いて損した』
『おいこら。その言い方は何だよ、ああん?』
『あーあ。そのガラッパチなとこ早く直せば良いのに。そしたらもっとおねーさんにモテますよ?』
『うるせぇ!余計な世話だ!!』
「あー、これも収録されたか」
「EDクレジット飛ばしてたけど、今回はちゃんと見てみようぜ」
「どうかなー?あったかなー?」
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スペシャルサンクスでHNが載ってました。
千月流の知っている未来では、千都留は副隊長と結ばれるはずだった。
しかし、いつしか千都留は別の人(この場合病人青年)を選んでしまった。
行く場所も、帰る場所も無くした千月流。
中和薬と特効薬を渡し、身代わりとなって時間を稼ぐ為に千都留と服を交換する千月流。
生まれ変わっても必ず君に会いに行く。そう、一方的な約束をして。
私は千都留の代わり。好きになっちゃいけない。ずっとそう思って来た。
でも、本当は本当に、母方の遠い、遠い、親戚の小父さん…みたいなもの。
だから、不自然じゃないよね。こうしても、良いんだよね。…………本当にそうだったら良いのに。
過労で倒れた千月流は、副隊長の腕の中でそう呟いた。
これ以上は危ないと思い、千月流は連れていけないと突っ張った副隊長。
…分かってた。何時か置いてかれるんだと言う事は。
母も千都留も、大切な人はみんなあたしを置いて行くから。
いつか一人ぼっちになる日が来るって、知ってた。
副隊長の有能な部下に頼って、かつて住んでいた家のあった場所、北の国へ。
しかし追い返され絶望しきった千月流は、ある筈の無い自宅の場所に向かい、行きつく前に吹雪になりかけの悪天候の中、桜の木の下で蹲ってしまう。
『もう、疲れちゃった』
今までは、祖母との“どんなに苦しくても自らを殺す事は絶対に駄目だ”と自死をしない約束があった。
自分でも分かっている。これは緩慢な自殺。
凍死であって自殺じゃない、死んだら未来に帰れるかもしれない。
……でもそれは、只の言い訳にすぎない、と。
朦朧として来た意識の隅で、誰かの声が聞こえた気がした。
有能な部下の指摘で、幸いにも千月流を見つけ出す事が出来た副隊長。
看病中、千月流が書いた手記を見て副隊長は激しく後悔する事になる。
ついでに千月流が未来から来た事を知ったが、これは今となってはどうだって良かった。
“苦しい”“これでやっと帰れるかな”
そこには、再会するまでの間の発作に苦しむ姿や、帰れない未来に対する思いが綴られていた。
長く生きても20年と宣告された千月流にとって、嘘は時間の無駄であり、嘘を吐く人は嫌いになる対象だった。
嘘吐きは信用しないと言う千月流に、副隊長はついに―――
『テメエは俺の女だ、文句あっか!!』
「覚醒キターーーー!!!」
「うおっ!?」
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副隊長ルート一番の山場。
夜叉の一族の伝手を頼った千都留から手紙が届く。
手紙には、“幸せ”“有難う”と言う文字が。
滂沱の涙を流す千月流。
『ありがとう、ありがとうっ!!ボクはきっと、君に出会うために生まれて来たんだよ!!愛してるのはボクの方だ!世界で一番、愛してる!これまで生きてて、生まれてきて良かった!!』
(中略)
『俺は?』
『さて、お返事書こっと』
『テメェ……』
「…………なんか既視感あるんだけど」
「え?」
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よくあるよくある(笑)
多くの人が散る激しい戦闘があった。
夜叉の一族頭領との、玄冬桜の前での哀しい決闘があった。
全てが終わり、自ら髪を切った主人公。
『尼寺行く気かお前は!?』
『ここ尼寺あるんですか!?』
その姿は、以前1度だけ見かけた“千都留の実兄”によく似ていた。
「あれ?また巻き戻し?」
「うん、次で最後」
しばしスキップしつつ、同じ章を同じ選択肢でプレイ。
「あ、アニメ始まった」
満開の桜の木の下で、膝枕しながら微笑みあう千月流と元副隊長。
『さくら、きれいですね』
逆光の中ほほ笑む千月流。
『……ああ』
眩しそうに目を細めた元副隊長。
ざあ、と言う音と共に、2人のその姿は塵と消え―――
目を開けると、そこは現代、桜の丘。
不意に、目の前をキラキラした蝶が横切る。
『夢、だったのかな』
―――今までの“夢”は、もしかしたらこの“蝶”が見ていた夢なのかもしれない――
蝶を追いかける様にその場に立ち上がった少女の視線の先には、背の高い、誰かの影が―――
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真ED「胡蝶の夢」
「で?どうだったのー?」
定例会で報告、って言うのもどうかと思うんだけど、話として振られたからには仕方無いと思う。
もしかしてしののん、分かっててやった?
「そーだなあ、まあ、こんなもんじゃないか?他のは知らないけど。読み物としてはそれなりに面白かったと思うよ?設定についてツッコむとキリ無いけど。ただ、ゲームとしてはイマイチどこが面白いのかワカンネ。イケメンがいっぱい出て来て女子がキャーキャー言うゲーム、っていうのは良く分かった」
「最終的にそこかい」
しまった、思わずツッコんでしまった。
「また何かあったらもってこいよ」
何て、妙ににこやかに言う去夜君を思わずジト目で見てしまうのは仕方ないと思う。
「ゲームにかこつけてイタズラ(性的な意味で)とかするの、止めてくれたら考える」
今度は知られない様にこっそりやるもん。
それに、世の中コンシューマだけじゃないもんね。
フリーゲームってものもあるんだよ。
これなら黙ってれば絶対バレないだろうし。くけ。
「何やら無駄な事を企んでいる様だな」
「櫻ちゃん、悪い顔してるのバレてるよ?」
「……」
空条先輩~、まったくいらん事言いやがって。
後友美、悪い顔ってどんな顔だよ。
椿先輩は何かコメントを下さい。
「まあ、楽しめた様で何よりかな」
「熱中するのは良いが、あんまりゲームにかまけ過ぎんようにな」
苦笑する観月先輩の言葉に続いて大寺林先生が口を挟み、東雲君が肩をすくめた。
「やれやれ、だねっ」
参考までに。
千月流の吸血は、指ちゅぱ一択。えr
ネタばれすると、『龍』の召喚条件は都にある聖なる湖か、もしくは北の国の玄冬桜の前で、“陰と陽”2人の巫女が“強い祈り”を捧げる事、だったりします。
ちなみに初回特典は、毒舌猫系病人ルートでのキーキャラである、現代からのトリップ外科医も巻き込んだハロウィンネタ。
『鬼はー外!鬼はー外!』
『金平糖は豆じゃねえ!!』
私信:
“赤玉さん”と“乙女糸”さんの所には本当にお世話に(以下略)
おまけ
FDでのエピソードとして、北の国での元副隊長との生活の断片。
街で女の人に囲まれたイケメン元副隊長を見て、待つ事にした千月流。
ふとかんざし屋を見ていたら、囲まれていた筈の元副隊長がいつの間にか女性達を引き連れたままそばに。
着けて行く場所が無い、これを買うくらいなら食費に回せという千月流が、買う買わないで元副隊長と外野そっちのけで揉めた末、結局選んだのは雪と月と桜の花飾りのついた2本。
『千都留に送ったら喜ぶかな』
『俺はおまえの分しか買うつもりはねぇぞ』
『じゃあボクが買うから良いもん』
『………そういう問題じゃねえだろ。後いい加減“ボク”って言うの止めろ』
『へへー、千都留とおそろい♪』(聞いてない)
『だからなァ……』
やっぱり既視感を覚える白樹君なのでした。