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『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第1章:「泥水と残飯のフルコース」

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第6話:「招かれざる強者と、匂いに釣られた狂犬」

「ふぅ……っ」


 一切れの肉を平らげ、レナは至福の吐息を漏らした。

 バフによる全能感と、胃袋が満たされる圧倒的な幸福感。だが、彼女の手元にはまだ、綺麗に下処理を終えた半分の肉塊と、内臓が残っている。


「次は、ハツの串焼きにしよう。血抜きは完璧だし、絶対に美味しいはず――」


 弾むような声で呟き、肉を串に刺そうとしたその時。


 ザッ、という重い足音が、廃屋の入り口で止まった。


 レナはビクリと肩を揺らし、振り返る。

 そこに立っていたのは、雨に濡れた漆黒の外套マントを羽織る大柄な男だった。手には、身の丈ほどもある禍々しい大剣が握られている。


(……プレイヤー?)


 視界の端に映った男の頭上のマーカーを見て、レナは息を呑んだ。


『エド:Lv(計測不能)』


 レベル表示が機能していない。それは、現在のレナと相手との間に、天と地ほどのステータス差があることを意味していた。スラムのような初期エリアに、なぜこれほどの高レベルプレイヤーがいるのか。


「……おい」


 低い、地を這うような声が響く。

 男――エドは、外套のフードの奥から、ギラギラと飢えに血走った双眸でレナを睨み下ろしていた。


「なんだ、この匂いは……システム上の『料理』とは違う。本物の、肉を焼いた匂い……」


 彼のHPバーは、最大値の半分を切っていた。さらにその横には、レナも先ほどまで苦しめられていた【極度の空腹】のバッドステータスが点滅している。

 この究極のVR世界では、どれだけレベルを上げようと、どれだけ強大な装備を持とうと、等しく「飢え」がプレイヤーを襲う。適当なシステム料理では決して満たされない、狂おしいほどの空腹感。


 エドは重い足取りで一歩、レナへ近づいた。

 大剣の切先が石畳を擦り、火花を散らす。


「それを、よこせ」


 一切の感情を排した、殺意だけが込められた要求。

 相手はレベル計測不能の化け物だ。最弱アバターのレナなど、瞬きする間に首を跳ね飛ばされるだろう。普通のプレイヤーなら、恐怖のあまり持っている肉をすべて差し出して命乞いをする場面だ。


 しかし。


「…………嫌」


 レナは、泥にまみれた細い腕で、残った肉の塊を強く抱きしめた。


「これは、私のお肉。絶対に、誰にも渡さない」


 灰色のゼリーしか知らないディストピアで、狂気的なまでに焦がれた『本物の食材』。

 例え相手が最強のトッププレイヤーであろうと、この肉を奪われることだけは、絶対に許容できなかった。レベル差という絶対的なゲームのシステムすら、彼女の「食への執念」を上回ることはできない。


「……あ?」


 エドの目が、信じられないものを見るように細められた。

 餓死寸前の最弱の子供が、殺気を放つ自分に対して、肉の塊を抱き抱えて睨み返してきているのだ。


「ふざけるな。なら、お前ごと切り刻んで奪うまでだ」


 大剣が振り上げられる。

 圧倒的な死の気配。だが、レナは逃げない。彼女の脳内では、迫り来る大剣の軌道よりも、「どうすればこの男を追い払って、残りの肉を落ち着いて食べられるか」という思考だけが猛烈な勢いで回転していた。


「……待って!」


 レナは叫び、即席の石窯の上に、残っていた肉の脂身を乱暴に叩きつけた。


 ジューーーーーッ!!


 再び、強烈な音が廃屋に響き渡る。

 熱された石板が脂を瞬時に気化させ、先ほどよりもさらに濃密で、抗いようのない「焦げた肉の香り」が爆発的に広がり、エドの顔面に直撃した。


「が、ぁ……っ!?」


 振り下ろされようとしていた大剣が、ピタリと止まる。

 最強のプレイヤーの胃袋が、その香りを受けて、雷鳴のような盛大な腹の虫を鳴らした。

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