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『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第1章:「泥水と残飯のフルコース」

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第4話:「最弱アバターによる、初めての『食材調達(解体)』」

 バフによる全能感が、レナの細い身体を満たしていた。

 ステータス画面で光り輝く『基礎ステータス+30%』という数字。それは、最弱の種族である彼女の運動能力を、一時的に上位プレイヤー並みへと引き上げていた。


 泥水をすすった裏路地を抜け、雨の降る廃墟エリアへと足を踏み入れる。

 本来なら、初期装備すらないレベル1のプレイヤーが絶対に来てはいけない危険地帯だ。だが、今の彼女を突き動かしているのは、恐怖ではなく底なしの食欲だった。


 不意に、瓦礫の陰から低い唸り声が響いた。


「グルルルル……」


 現れたのは、全身を薄汚れた体毛で覆われた、虎ほどもある巨大な獣。

 頭上には赤いマーカーで『腐肉喰らいの野犬スカベンジャー・ハウンド:Lv5』と表示されている。初心者プレイヤーを幾度もアカウントロストに追い込んできた、序盤の難敵だ。


 鋭い牙から涎を垂らし、野犬がレナを獲物と認識して飛びかかってくる。

 しかし、彼女の目に映っていたのは「恐ろしいモンスター」ではなかった。


(……肩ロース、バラ、モモ。それに、内臓も)


 完全に「歩く肉の塊」として値踏みしていた。

 バフによって加速されたレナの視界では、野犬の動きはひどく緩慢に見えた。飛びかかってくる顎を最小限の動きで躱し、その側面に回り込む。


 手には、ゴミ山から拾い上げた刃こぼれしたナイフ。

 武器としては最悪のなまくらだが、今の彼女には古代の解体知識と、バフによる超人的な腕力がある。


(肉にストレスをかけない。一撃で、頸動脈を)


 レナは躊躇うことなく、野犬の首筋の最も皮が薄い部分へナイフを突き立てた。


「キャインッ!?」


 悲鳴は一瞬だった。

 脳への血流を絶たれた野犬は、痙攣することもなくその場に崩れ落ちる。


【戦闘終了。経験値を獲得しました】

【レベルが2に上がりました】

【ドロップアイテム:『野犬の肉(低品質)』を獲得しましたか? YES/NO】


 システムが自動で肉をアイテム化しようとするポップアップ。

 だが、レナは血走った瞳で即座に『NO』を選択した。


 システム任せのアイテムドロップでは、最も美味しい部位が失われるか、血液が肉に回って臭みが出てしまう。最高の味を引き出すには、素早い血抜きと、適切な部位ごとの切り分けが必須なのだ。


「ダメだよ、システムなんかに任せたら。せっかくの新鮮なお肉が、台無しになっちゃう」


 雨が降りしきる中、小さな少女が巨大な獣の死骸に馬乗りになる。

 彼女は欠けたナイフを巧みに操り、手際よく動脈から血を抜き始めた。生温かい血が彼女の手を、顔を真っ赤に染め上げていく。


「まずは血抜き。それから皮を剥いで……ああ、脂が乗ってて美味しそう。このモモ肉は絶対に焼いて食べよう。内臓は……洗えばスープの出汁に使えるかも」


 ブツブツと狂気じみた調理計画を呟きながら、レナは笑顔で獣を解体していく。

 その光景は、もはやどちらが真のモンスターなのか分からないほどに、常軌を逸していた。


 やがて、解体を終えた彼女の目の前に、システムが新たなログを表示した。


【特定の行動を確認しました】

【スキル『解体(初級)』を獲得しました】

【アイテム作成に成功しました】

【『野犬の特上モモ肉(鮮度:極上)』を獲得しました】

【※システム警告:プレイヤーの解体技術が、規定のドロップ品質を大幅に超過しています】


「ふふっ。これで、やっとちゃんとしたお肉が食べられる」


 血まみれの肉塊を大切そうに抱きしめ、レナは至福の笑みを浮かべた。

 彼女の異常な料理知識は、またしてもゲームの常識を一つ破壊していた。

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