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『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第2章:「最強の護衛と、夢の食堂の予定地」

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第23話:「始まりの街の怪談と、森の奥の飯テロ」

 レナたちが拠点とする森から、いくつか山を越えた先にある『始まりの街』。

 その中心に位置する冒険者ギルドの酒場は、今日も多くのプレイヤーやNPCたちでごった返していた。しかし、彼らが円卓でヒソヒソと交わしているのは、ボスの攻略法でもレアアイテムの情報でもなかった。


 「……おい、聞いたか? 最近、あの『絶望の森』の奥から、とんでもない匂いが流れてくるらしいぞ」


 戦士風の男が、声を潜めて仲間に語りかける。


 「ああ、掲示板でも話題になってる。『焼けた獣の脂の匂い』だの、『スパイシーな香草の匂い』だの……昨日の夜なんて、『焦げた海鮮とニンニクの匂い』までしたって言うじゃねえか」


 「バカ言え、あそこは海から一番遠い森だぞ!? なんで森の奥から海の生物が焼ける匂いがするんだよ!」


 「だから『新種の罠』だって噂なんだよ! 凶悪な幻覚モンスターが、空腹のプレイヤーを極上の匂いで釣って捕食してるんだって!」


 ギルドの酒場は、今やその「飯テロの怪談」で持ちきりだった。

 VRゲームにおいて、味覚と嗅覚のシミュレートはプレイヤーの精神に直結する。ただでさえ食料の調達が難しいこのゲームで、森の奥から漂ってくる暴力的なまでの「美味そうな匂い」は、ある意味でどんなモンスターよりも恐ろしいデバフとして認知され始めていた。


 「……ふん。馬鹿馬鹿しい」


 そんな騒ぎの中、ギルドの隅の席で立ち上がった一人の男がいた。

 中級プレイヤーの証であるミスリルの剣を腰に下げた、リーダー風の剣士だ。


 「匂いでプレイヤーを釣るモンスターだと? 上等じゃねえか。罠だろうが何だろうが、俺たちのパーティでその正体を暴いて、狩り尽くしてやる」


 彼は三人の仲間を引き連れ、自信満々にギルドの扉を蹴り開けた。


 彼らは知る由もなかった。その匂いの発信源にいるのが、ゲームバランスを崩壊させる「最強の死神」と「最強の女騎士」、そして「規格外の料理人」であることを。


 一方、その頃。


 噂の中心地である森の奥のログハウスでは――。


 「ん〜っ、やっぱりお塩とスパイスがあると、お肉の保存も完璧だね!」


 レナが厨房でご機嫌な鼻歌を歌いながら、エドが狩ってきた大量の熊肉を塩漬けにし、石窯の余熱を利用して『自家製スモーク(燻製)』を作っていた。


 モクモクと立ち昇る、香ばしい燻煙の匂い。


 それがまた風に乗り、森の外へと極上の飯テロとして拡散されていることなど、彼女は微塵も気づいていない。


 「おいレナ。その吊るしてある肉はもう食えるのか?」


 「まだダメだよエド。燻製は時間をかけて旨味を凝縮させるの。明日の朝まで我慢してね」


 「……長いな」


 カウンター席では、エドとセリアが待ちきれない様子で燻製肉を凝視し、ミレがハーブティーを飲みながら苦笑いしている。パピーはすっかりレナの足元が定位置になって丸まっていた。


 外の世界がどれだけ騒ごうとも。

 隠れ家食堂ののんびりとした平和な日常は、今日も極上の匂いと共に過ぎていくのだった。

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