第21話:「山の王者と、海のクリーチャー」
ログハウスの厨房では、レナとミレが戻り、ミレが見つけた『痺れ木の実(野生の黒胡椒)』を石臼ですり潰していた。
爽やかでパンチのある、挽きたてのスパイスの香りが真新しい木の壁に染み込んでいく。
「わんっ!」
足元でパピーが吠えた直後、地響きと共にログハウスの扉が開け放たれた。
「……戻った」
エドだ。彼は漆黒の外套に白い粉――岩塩の粉を被り、片手には拳大の純度の高い『岩塩の結晶』を、そしてもう片方の手には、自分よりも巨大な『洞窟熊:Lv30』の死体を引きずっていた。
「おかえりエド! すごい、綺麗な岩塩! ……それに、立派な熊さん!」
レナが駆け寄る。
「……洞窟の奥に、塩の鉱床があった。熊はその守護者だ。肉は脂が乗っている」
エドは無表情に熊の死体を更地に放り投げ、岩塩の結晶をレナに手渡した。
山の王者の肉と、純度百パーセントの岩塩。これ以上ない、無骨で完璧なお土産だ。
「ありがとうエド! これなら、挽きたての痺れ木の実と合わせて、最高にワイルドなローストができるよ!」
レナが目を輝かせた、その時。
「あああああもうッ!! なんだこの忌々しい生き物は! ヌメヌメしていて、吸盤が鎧にくっついて……離れろ! この無礼者めッ!!」
森を薙ぎ払うような轟音と共に、セリアがログハウスに転がり込んできた。
彼女の白銀の鎧は粘液でドロドロに汚れ、片手には海水の滴る壺(海塩)を、そしてもう片方の手には――自身の身長の数倍はある、十本の足を持った巨大な『大海イカ(グランド・スクイッド):Lv32』を引きずっていた。
「セ、セリアさん……? その、後ろの……」
ミレが顔を引きつらせて後ずさりする。
「レナ! お塩は持ってきたぞ、最高品質の海塩だ! だが、海にいたこのクリーチャーが私の鎧に絡みついて離れなくてなッ! 気持ち悪いッ! なんだこれは、食べられるのか!? 毒ではないのか!?」
セリアは壺をカウンターに叩きつけ、巨大なイカの足を大剣でベシベシと叩きながら叫ぶ。
トッププレイヤーにとって、見た目がクリーチャー寄りのイカは、単なる「嫌悪すべきモンスター」でしかないようだ。
だが、レナの反応は違った。
「――ッ!! セリア、すごいッ!! これ、最高級のシーフードだよ!!」
レナはセリアの鎧の汚れなど気にせず、イカの巨大な胴体に抱きついた。
現実世界のディストピアでは、魚介類など文字通りの絵空事だ。それが今、目の前に、弾力のある新鮮な巨大イカとして存在している。
「海の丸焼き! 挽きたての痺れ木の実と海塩を振って、石窯で焼いたら……絶対美味しいッ!!」
「えぇ……? このヌメヌメしたものが、美味しい……?」
セリアが信じられないという表情で、自分の鎧についた粘液を見つめる。
【食材名:『カヴェン・ベアの肉』『グランド・スクイッド』】
【品質:A(極上)】
【用途:食用。それぞれ異なる食感と旨味を持つ】
システムログもまた、この二つの巨大食材が「極上の食材」であることを無機質に告げていた。
「よし! 今夜は山の王者(熊)と海の覇者、二つの味を楽しむ『山海の宴』だよ!!」
エドの持ち帰った岩塩、セリアの持ち帰った海塩、そしてミレが見つけた痺れ木の実。
すべての調味料と最高の食材が出揃い、レナは歓喜の声を上げながら、巨大な熊とイカに向けてナイフを構えた。




