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『餓死寸前の最弱アバターからのサバイバル料理 ~現実世界での完全栄養食に絶望したので、VRゲームで失われた「本物の味」を再現して夢の食堂を開きます!~』  作者: ゆっきー
第2章:「最強の護衛と、夢の食堂の予定地」

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第11話:「暴食の巨大猪と、石窯の極上ロースト」

 ズシンッ、と重い地響きを立てて、森の更地に巨大な肉の山が投げ出された。


「……これで文句はないだろう」


 息一つ乱していないエドの足元に転がっているのは、軽トラックほどもある巨大な猪だった。

 漆黒の剛毛に覆われ、口元からは鋭く反り返った巨大な牙が突き出している。頭上に浮かぶマーカーは『暴食の剛猪グラトニー・ボア:Lv35』。この森の生態系の頂点に君臨する、中ボス級のアクティブモンスターだ。


「すごい……! これだけ大きければ、脂もたっぷりのってるはず」


 レナは恐怖を感じるどころか、目を輝かせて巨大猪の腹の肉をつついた。


「エド、そのまま解体もお願い。私のステータスじゃ、ナイフが皮を通らないから」


「俺に解体までやらせる気か……」


「システムドロップさせたら、ただの『ボアの肉塊』になっちゃうよ? 一番美味しい部位を残すためのナイフの入れ方を教えるから、その通りに動かして」


 もはや最強プレイヤーの威厳など欠片もない。エドは渋々ながらも大剣をインベントリにしまい、レナの指示通りに解体用の短剣を握らされた。


 血抜き、皮剥ぎ、そして内臓の処理。

 レナの持つ古代の解体知識と、エドの精密かつ圧倒的な筋力が合わさることで、巨大猪は瞬く間に「極上の食材」へと姿を変えていく。


「よし、この一番分厚い胴体の部分を丸ごと焼くよ。さっきむしってきたハーブを、お肉の裏側と、脂肪の切れ目にたっぷりと擦り込んで」


 レナは石窯のかまどに薪をくべ、火力を最大まで引き上げた。

 石窯の内部はすでに恐ろしいほどの熱を帯びており、近づくだけで肌が焼け焦げそうになる。しかし、この『圧倒的な超高温』こそが、分厚い肉の旨味を閉じ込めるための絶対条件だった。


 巨大な鉄串(エドの予備武器)を肉の中心に突き刺し、石窯の中にセットする。


 ジリッ……ジリジリジリッ!!


 肉の表面が超高温の石窯に触れた瞬間、悲鳴のような音を立てて脂が弾け飛んだ。

 分厚い脂肪の層が熱で溶け出し、肉の表面を伝って焚き火の上に滴り落ちる。その度に、ジュワァァッと濃密な煙が立ち上り、ハーブの爽やかな香りと獣肉の濃厚な匂いが混ざり合って森中に拡散していく。


「……おい。もういいだろう、食わせろ」


 エドが石窯の前で膝をつき、血走った目でローストポークを凝視している。彼の口元からは、ダラダラと涎が滝のように流れ落ちていた。


「まだダメ。表面は焼けても、中はまだ生焼け。……はい、ここで火から少し離して、余熱でじっくり火を通す」


 レナは串の位置を巧みに調整し、肉の内部のタンパク質が最も美味しく変化する温度帯(メイラード反応の最適温度)をキープし続けた。現実世界で暗記した熱力学と調理理論が、このゲームのシミュレート環境で完璧なシンクロを見せている。


 そして、小一時間が経過した頃。


「……完成」


 石窯から引きずり出された巨大な肉塊は、表面が黄金色に輝き、パリパリに焼き上がっていた。

 レナがナイフを入れると、サクッという心地よい音と共に、中から美しい薄紅色の断面が顔を出す。そして、閉じ込められていた熱い肉汁が、堰を切ったようにドクドクと溢れ出した。


「さあ、食べて」


 レナが切り分けた分厚い一枚を差し出すより早く、エドは獣のように肉塊へとかぶりついた。


「――ッ!!」


 エドの瞳孔が限界まで開く。

 パリッと砕ける香ばしい表面。その直後、歯を押し返すような弾力のある赤身から、脳髄を直接揺さぶるほどに濃厚な旨味と甘い脂が爆発した。臭みなど一切ない。ただ純粋な『生命の味』が、味覚シミュレーターを通じて最強プレイヤーの理性を完全に焼き切った。


【料理名:『暴食猪の極上石窯ロースト』】

【品質:EX(神の領域)】

【効果:HP・MP上限値の恒久的な増加(小)。全ステータス+80%(72時間継続)。物理ダメージ無効化バリア付与】


 システムがまたしてもバグじみた数値を弾き出している。

 一時的なバフだけでなく、ついに『ステータス上限の恒久的な増加』という、このゲームにおいてあり得ない効果まで引き出してしまった。


「おいしい……っ、はぁ、これ、本当に私が作ったの……?」


 レナ自身も、切り分けた肉を口に運び、あまりの美味しさにその場にへたり込んで涙を流していた。

 完全栄養食しか知らない彼女にとって、自分が組み上げた石窯で焼いたこの肉の味は、まさに一生の夢が叶った瞬間でもあった。


 最強の護衛と最弱の料理人が、一心不乱に肉を貪る。

 その抗いがたい極上の匂いが、森のさらに奥深くに眠る『何か』を目覚めさせてしまったことにも気づかずに――。

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