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第0話:「泥水すらご馳走に変わる底辺からのログイン」

前書き:プロローグ

『すべてが効率化され、「味」を失った世界。一人の少女が求めたのは、ただ腹いっぱいの『本物のご飯』だった。』

挿絵(By みてみん)

 二〇七X年。人類は食事から「無駄(料理)」を完全に排除した。カロリー、ビタミン、ミネラル。生命維持に必要な栄養素だけを圧縮した完全栄養食。そこに味覚や嗅覚を刺激する要素は一切ない。ただ、泥を固めたようなそれ(完全栄養食)を胃に流し込むだけだ。


 レナは感情のない瞳で、灰色のブロックを口に運んだ。

 粘土のような食感が舌にへばりつく。吐き気を水で強引に流し込みながら、彼女の視線は目の前の空間モニターに釘付けになっていた。


『――それでは、両面にこんがりと焼き色がつくまで中火で熱していきます』


 画面の中で再生されているのは、旧時代の「料理動画」のアーカイブ。

 分厚い肉の塊が鉄板の上で弾け、ジュージューという暴力的な音を立てている。滴り落ちる肉汁、焦げた脂の匂いが画面越しに漂ってくる錯覚すら覚える。


「……食べたい」


 無意識のうちに呟いた声は、震えていた。


「本物の肉を。焼きたてのパンを。熱いスープを。……お腹がいっぱいになるまで、食べたい」


 本物の食材など、生まれた時から一度も見たことがない。

 それでもレナの頭の中には、数千に及ぶ古代のレシピと、スパイスの調合、食材の熱反応メイラードの知識が狂気的なまでに詰め込まれていた。知れば知るほど、現実の灰色の食事が耐えられなくなる。飢えにも似た妄執が、彼女の正気を削り取っていた。


 だからこそ、彼女はすべてを懸けた。

 味覚、嗅覚、胃袋の満腹感から、痛覚に至るまで。現実の物理法則を完璧にシミュレートする、究極のVR仮想世界。天文学的な倍率を勝ち抜き、ようやく手に入れた最新ダイブ機器が、レナの頭部に装着されている。


「ログイン」


 電子の海へ飛び込む。

 視界が白く染まり、次いで――強烈な『腐臭』が鼻腔を殴りつけた。


「……えっ?」


 甘い匂いでも、香ばしい香りでもない。

 目を開けたレナの視界に飛び込んできたのは、泥と汚物にまみれた薄暗い裏路地だった。冷たい雨が降り注ぎ、肌を刺すような寒さが全身を襲う。


 自身の体を見下ろして、息を呑んだ。

 骨と皮だけのように痩せこけた、幼い少女の手足。ステータス画面には無情にも『種族:人間(最弱)』と表示されている。


 直後、視界のど真ん中に真っ赤な警告がポップアップした。


【警告:空腹度が限界(0%)に達しました。これよりHPが継続減少します】

【※注意:本タイトルは死亡時『アカウントロスト』となります。再度のプレイは不可能です】


「は……?」


 胃袋が、雑巾のように内側からギュウギュウと絞り上げられる。

 究極のリアルを追求したVRMMOは、餓死寸前の『飢餓の苦痛』すらも完璧に再現していた。立っていることすらできず、レナは泥水の中に膝をつく。


 美味しいご飯を食べるどころの話ではない。

 あと数分で、彼女の夢は「餓死」という最悪の形で永遠に絶たれる。


「ふざけ、ないでよ……っ!」


 泥にまみれた細い指が、地面を強く掻きむしった。


「こんなところで、死んでたまるか……絶対に、死ぬほど美味いご飯を食べてやる……!」


 究極の絶望から這い上がる、血みどろの料理サバイバルが、今ここに幕を開けた。

後書き:

理想と現実の圧倒的な落差。次回、餓死寸前の状態から生き残るための「最初の食材調達」が始まります。

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