5、VSカーズ
シンさんのそばにカーズが近づいているのを感じたから、聖剣とのやりとりに緊張しているレイを地下の洞窟に残して、俺だけいったん上の階に行った。
セリスさんの魔力は屋敷の中からは感じなかった。多分帰っちゃったんだと思う。手助けしてくれたお礼が言いたかったのに、残念だ。
……シンさんはとりあえず大丈夫だね。
スリーツで会った時に、少し首輪に触れた時に首を絞めつける死の呪いだけは解除していたけど、カーズにはバレてなかったからよかった。
今は、自分の心配をしないと。明らかにカーズは怒ってる。身体を震わせながら俺のことを睨み、荒く息をしてる。
「……小僧、貴様の仕業か!」
「その通りだよ! ほら、俺のだってもうとっちゃった……って、うわっ!?」
答えた瞬間に紫色の雷を撃ってきたから、レイと合流するために、急いで階下に駆け戻った。
「ちょこまかと、逃げるな小僧!」
「そんなこと言われて、立ち止まるわけないだろ!」
階段を急いで降りて、洞窟に戻る。レイはまだ剣と向き合ったままだ。レイのそばまで駆け寄って俺は叫ぶ。
「レイ! 急いで、カーズが来るよ!」
俺が叫んだ瞬間に、洞窟内にカーズもやってきた。俺とレイを交互に見つめて、魔力の奔流を巻き起こした。
「袋の鼠だ、小僧に小娘! 憎たらしい二人まとめて、あの世に送ってくれるわ!」
「……えっ、この魔力」
カーズの魔力を感じた瞬間、レイがひゅっと息を呑むと同時にポツリと呟いた。禍々しい魔力を感じて驚いたのかと思ったけど、違った。
今まで見たことないくらいに、レイの表情がこわばって見える。怒ってるようにも、怖がっているようにもどっちにも見える。
「レイ、どうしたの?」
レイはまっすぐとカーズを見て、震える声で口を開く。
「……あいつが、あいつが、私の故郷を襲った魔物を率いていた魔族よ」
「なんだって!?」
カーズを見ると、ニヤリと口角を釣り上げた。
「あの時暴走したお前の魔法で、私は肉体を失い、魔力だけの存在となった——だが、この身体を借りて、お前に復讐をするために暗躍していたのだ!」
叫んだ後で、カーズは高笑いを浮かべた。
レイは村が滅ぼされた時のことを思い出してしまったのか、震えてしまっている。せっかくのレイの覚悟をこんなところで打ち砕かれてたまるか!
「ふざけんなよ! お前のせいでどれだけの人が傷ついたと思ってるんだ! レイやシンさんが、どれだけ、悲しい思いをしたか……」
二人のことを考えたら、カーズに叫んでる間にも涙がポロポロと溢れてくる。レイが故郷を滅ぼされてどう思ったか、シンさんがカイドさんの体を乗っ取られてどう思ったか……。
俺には完全に理解することはできない。でも、悔しい、悲しい、そういう気持ちがあることは想像できる。
俺は腕で顔を拭いてからカーズを睨む。
「……お前だけは、絶対に許さないからな」
ローブから杖を取り出して、カーズに向ける。
「ハッ、お前のような小僧が私に楯突くか! 聖剣を破壊できなかったお前が!」
「お前にだってできなかったじゃないか!」
俺はできなかったんじゃなくて、しなかったんだ。聖剣の——レンさんの気持ちを知りたかったから。人の気持ちを踏みにじるカーズには絶対にわからない。
「生意気な小僧めッ!」
俺とカーズの魔法がぶつかり合い——そして爆ぜた。
あれ?
「……小癪な、これならどうだ!」
カーズの背後に無数の紫色の魔法陣が出現。そこから、大量の雷の槍が猛スピードで飛んでくる。
「そんなの、効かないよ!」
風と水の魔法陣を融合させた魔法で壁を作って、カーズの攻撃を防ぐ。
「じゃあ、こっちの番! 使う魔法は水と風——それから雷!」
三つの魔法陣が融合して、杖の前に眩しく輝く金色の魔法陣が浮かび上がる。
「いくぞ、水雷風撃!」
「グアアアァァァ!?」
炎がカーズを包み込み、激しく爆ぜた。爆炎が消えると、目の前でカーズは苦しそうに息をしながら膝をついていた。
元々、魔法の力はそれなりにはあったと思ってる。レイと旅をして色々な経験をした。戦闘の経験だって積んできた。
今までは禍々しい魔力を感じて、気持ちで負けていた部分もあった。でも、レイと合流できて安心して戦える今俺は本気で戦える。
そう考えると——
「……お前、弱くないか?」
「なっ……」
カーズは怒りでだろう、ピキッとこめかみに血管が浮かび上がっている。同時に、顔もどんどん赤くなっていく。
今までの敵は、俺の実践経験の無さから勝手に負けちゃうと判断していた。アークゴブリンもダークスライムも、実戦経験のない俺からしたら恐怖しか感じなかった。
だけど、ナイツさんと戦ったアサシンビーの女王との戦いでは俺一人で挑んだ。怖くても、やり切らないといけないと思ったから。
そのことを踏まえて考えると、カーズは魔法しか使ってこない。他の人からすれば脅威なのかもしれないけど、俺からすれば魔法をメインに使ってくる敵は怖くない。
「人間の小僧ごときが……調子に乗るな——ッ!?」
カーズの撃とうとした魔法を、魔力の流れを滞らせて暴発させた。
「お前が俺をここに連れてきたのは、俺が魔法の解析に優れてるからだろ? 忘れたわけじゃないよな」
へへっと笑いながら言うと、カーズは魔力の奔流を巻き起こしてうめき散らしている。魔力を無駄に放出すれば、消耗するだけだ。
「……ライズ」
レイがそばで声を漏らす。レイの方を向きたいけど、相手から視線を逸らしちゃダメだ。それで何度失敗したことか……。
俺はカーズを見たまま言う。
「俺には、カーズに故郷を滅ぼされたレイの気持ちを全部は分からない。でも、色々な人を傷つけてきたカーズを倒さなきゃいけないって気持ちは一緒だよ!」
でも、俺にはカーズを抑えることはできるけど、倒すことはできない。解析魔法でカーズを見据える。
体内にカーズの魔力が侵食してしまっていて、後少しで完全に一体化してしまいそうな状況だ。ここまで、侵食が進んでしまった状況で無理やり分離させちゃうとカイドさんまで……。
神聖な力でカーズだけを倒す。それが唯一の方法だ。
「小僧、お前は確かに強いのかもしれん……だが、この男がどうなってもいいのか? シンが悲しむのではないか?」
カーズがカイドさんの首を絞めるように手を添える。笑いながらもカイドさんの顔色はどんどん苦しそうに赤くなっていく。
「……そんなの、わかってるよ!」
わかっててカーズは笑ってるから、本当に狡猾だ! でも、このままじゃ、カーズは倒せてもカイドさんを助けることができない。
それができるのは……。
「レイ……これはレイにしかできないことなんだ」
「……無理よ、怒りで頭がはち切れそう。あいつが憎い。憎くて、そんな状況で制御なんてできないわ」
「でも……」
時間がない。このままじゃ、カイドさんが……。
レンと一緒に旅をしていたエストさんは、レンさんが迷った時にどういう言葉をかけてたんだろう。
レンさんはエストさんをすごく信頼していたように思う。だから、迷いなく剣を振るえたのかもしれない。
それに比べると……。
「……俺なんてまだまだ子どもだし、全然頼りにならないかもしれないけどさ。でも、レイの隣にいることはできる。これからも、だから……」
俺がレイに気持ちを伝えると、そばでレイが笑ったような気がした。でも、スクッと立ち上がって俺の手を取る。レイのあったかい手の感覚が伝わってくる。
「れ、レイ?」
「……ライズの気持ち、すごく伝わったわ。だから、こうしてもいい? 怒りで支配されそうな気持ちが、ライズと繋がってたら落ち着くの」
「わ、分かったよ」
ちょっと恥ずかしいけど、レイが落ち着くんだったら仕方ない。だって、レイの手の震えが止まったんだもん。
それから、レイが深呼吸を一つ、膝をついて聖剣に触れる。
すると——
「……共鳴、できた」
聖剣が眩しく輝いた。解析しなくてもわかる。レンがレイを受け入れてくれたってことが! それに、魔力だって安定してる。
手を通して、レイの覚悟が伝わってくる。
「な、なにぃ!?」
カーズが呻き——
「忌々しい勇者め……だが、その力で果たして私を倒せるかな? あの時のように、暴走させてお終いだ!」
「うるさいぞ! これ以上レイを苦しめるのは俺が——」
カーズがまだレイを苦しめるようなことを言っているから、許せない気持ちが溢れ出したけど、隣のレイが首をふる。
「私は大丈夫——ライズがいれば」
「……うん」
俺が頷くと、レイが聖剣の切先をカーズに向ける。
「あんたは、私だけじゃなくて、ライズやシン……色々な人を傷つけた。その報い——」
聖剣の切先に透き通る水色の魔法陣が出現した。魔力は全然乱れてない。これなら問題なく成功する。
「——受けてもらうわよ」
「……クソがあああぁぁぁ!」
カーズが魔法で抵抗するけど、レイの勇者の聖雷の魔法の前では俺たちに届く前に霧散した。
「喰らいなさい——雷帝、制裁」
一直線に突き進む光がカーズを覆った。すると、邪悪な魔力だけがカイドさんの体から溢れ出した。
「……く、くそぉ、また新しい宿主を……クックック、ここには素晴らしい魔法使いがいるじゃないか!」
邪悪な魔力は一直線に俺に向かってやってくる。
だけど——
「……そんなこと、させるわけないでしょ」
レイが俺に向かって飛んできた邪悪な魔力体のカーズを一刀両断。断末魔の悲鳴を上げるカーズを切り伏せた。




