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十歳最年少の特級魔法使い、魔法を解析しながら勇者の旅についていく!  作者: 赤松勇輝
第五章 フォーゼルの街 黒幕との戦い

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4、ライズの秘密

 執務室に案内された私は、差し出された紅茶を一口すする。


 執務室には大きなテーブルが一つ、そのほかには本棚や応接用のソファーが置いてある、ごくありふれた部屋だ。


 紅茶に毒は入れられていない——まぁ、入っていたとしても効かないけれど。


 私は紅茶をすすりながら、目の前のカイドに扮している、神聖力に当てられて衰弱している、低俗な魔物を見据える。


 ……なるほど、衰弱した魔物がこの人に寄生したようね。


 カップを置いて、私は言う。


「具合がお悪いようですが、見て差し上げましょうか?」

「い、いえ……聖女様のお手を煩わせるほどではありません」

「あら、遠慮しなくていいんですわよ?」


 魔物は激しく首を振っている。もしも、私が神聖力をこの魔物に使えばひとたまりもない。


 だけど、それは私の仕事じゃない。


 ……レイちゃんとライズくんの仕事を奪うわけにはいかないわね。


 さっき、ライズくんの魔力も感じた。レイちゃんと合流できたと思う。クスッと笑って私は腰を上げる。


「まぁ、大丈夫と言うことでしたら、不穏な魔力も私の勘違いのようでしたので、こちらで失礼しますわ」

「そ、それは何よりです!」


 露骨に安堵した様子の魔物を少しからかいたくなったけれど、余計なことをしてあの二人に迷惑はかけられないわね。


「それでは、失礼しますわ」


 頭を下げる魔物を尻目に、私は一人で屋敷を出る。直後に、屋敷から禍々しい魔力の奔流を感じた。


「レイちゃん、ライズくん、あとは任せたわよ」


 そんな風につぶやいてから、私は通信用の魔道具を取り出して連絡を入れる。


「もしもし、アストリア? 久しぶりに連絡をよこしたかと思ったら、妙な魔物の相手をさせられるなんて思わなかったのだけれど」

『ごめんごめん。でも、楽しかったんじゃないの?』


 笑い混じりのアストリアの言葉に辟易しつつも、否定はできない。


「昔を思い出すわね」

『それだけ、私たちも歳をとったってことね』

「まだ二十代でしょうに……。でも、年下の子達が頑張っていると、応援したくなっちゃうわ」


 勇者のレイちゃんはもちろんだ。神聖力も落ち着いてきて、ライズくんを助けるという目的を達成した。覚悟の力をあの魔物に向けることができれば、勇者として一枚剥けると思う。


 でも、目を見張るのはライズくんだ。


「ねえ、ライズくんは本当にアストリアの弟子なの? どう見積もっても、あなたよりすごい魔法使いじゃない」


 ライズくんはアストリアでも解けなかった、聖剣を守っていた結界を最も簡単に解いて見せた。


『……まぁ、あの子は世界最強の魔法使いの孫だからね』

「本当にそれだけ?」


 訝しむ私の声に、通話の奥のアストリアが言葉に詰まったように感じる。


 どうせはぐらかすのだろうと思っていたけれど、アストリアのため息まじりの声が聞こえる。


『あの子の家系は、大昔、勇者と共に旅をした魔法使い——エストの末裔だからね』

「……それ、本当?」

『大真面目よ!』


 アストリアの必死な声が聞こえた。どうやら、内容は本当みたいだ。


『でも、あの子ってば、魔法が好きで研究ばっかりして引きこもって外を知らないのよ! だから、レイちゃんの旅に同行させたの。それが、自然な流れでしょ?』

「そうね——あの二人、息ぴったりだったもの」

『……セリスの目から見ても、大丈夫そう?』

「えぇ、全く問題ないわ。レイちゃんの魔法の制御も、ライズくんの実践経験もね」


 見た通りの感想を言った。まだあら削りな部分はあるけど、屋敷に巣食う魔物程度ならレイちゃんとライズくんで倒せる。


『それならよかったわ』


 安堵するアストリアの声を聞くと、からかいたくなる。


「これは、貸し一つね。今度私の手伝いでもしてもらおうかしら?」

『わ、私は宮廷魔法使いとして忙しいから……』


 焦る様子のアストリアの声が聞こえたから、溜飲も下がる。ライズくんに外に出なさいと言っておきながら、引きこもってるのはアストリアの方じゃない。


 クスッと笑ってから、私は言う。


「この話はまた今度——またね」

『……またね』


 通話を切り、魔道具をしまう。


 背後の屋敷からは禍々しい雰囲気を感じる。


 ……大丈夫よ、レイちゃんにライズくん。女神様はいつでもあなたたちを見守ってるから。



 聖女の来訪は好機だった。聖女の神聖力に当てられたカーズ様の力は抑え込まれ、勇者とライズくんは合流することができた。


 だけど、聖女の匂いが屋敷から消えた途端、カーズ様の魔力の奔流が屋敷を包み込んだ。


 聖女様ならカーズ様の呪いを解いて、カイド様を助けられるかもしれないと思ったけれど、聖女様は神ではない。


 人であり、なんでも助けてくれるような存在ではない。


 私のような人と魔物の混じった存在のことは。カーズ様の命令とはいえ、勇者やライズくんを傷つけたのだから、当然の報いだろう。


「……シンよ。貴様、自分で何をしたか分かっているな」


 地下室へと続く部屋の前に立っていると、二階からカーズ様が邪悪な魔力を放出しながら降りてきた。


 覚悟はしている。


「あの女のせいで力が弱ってる間に、勇者を手引きしたな」

「申し訳ございません。……私の力では抑えることができませんでした」

「嘘をつけ」


 私の言い分をカーズ様は即座に否定した。


「お前は宿主のために裏切らんと思っていたが、その罪は——」


 カーズ様が手を突き出し握ると同時、私の首輪がギュッと締め付けられていく。


「……か、はっ」


 苦しい。息が……。


「——死をもって、償ってもらうしかないな!」


 カーズ様が手をギュッと握る。


 首に熱がこもる——だけど、ほんの一瞬だけだった。すぐに、首輪が緩んでくる。


「なぜだ!? なぜ引きちぎれんのだ!」

「……えっ?」


 締め付けられていた首が急に楽になった。何が起きたのか分からない。カーズ様の命令を無視して、勇者を招き入れた。


 死を覚悟していたのに、どうして?


 意識が途切れそうな中、まるで太陽のように温かい声が地下へと続く階段から聞こえてくる。


「俺がおまじないをかけてたからね! シンさんは死なないようにって!」


 ライズくんの眩しいばかりの笑顔を見て、私の意識は暗転した。

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