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十歳最年少の特級魔法使い、魔法を解析しながら勇者の旅についていく!  作者: 赤松勇輝
第五章 フォーゼルの街 黒幕との戦い

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3、久しぶりの再会

 フォーゼルの街で、私は手配されて自由に歩くことが出来ない。その話をセリスさんにしたところ、セリスさんは笑って言ってのけた。


「変装すれば良いんですよ!」

「……えっ?」


 ウインクしながらのセリスさんの発言で、私は護衛している騎士の格好になった。兜や鎧を被れば、喋らなければ男か女なのかも分からない。


 兜なんて被ったことがないから、動きづらい。息が反響して息苦しい。……だけど、手配書の私であるとは誰にも分からない。


 その上、セリスさんは自身の用事は後回しにして、フォーゼルの十字架の紋様をあしらった貴族——クロイツ家まで同行してくれた。


「兵士一人で訪問しても怪しまれます。聖女である私が同行すれば、敵も怪しく思わないはずですわ!」

「……は、はぁ」


 気遣いは嬉しいのだけれど、なんだかやり方が強引なところは、どうしてもアストリアさんを思い浮かべてしまう。


 もし、アストリアさんとセリスさんが一緒にいれば仲良くなれる。そんな風に思う。


 屋敷から、灰色の髪をした男が顔を出す。なんだか、セリスさんを見て顔を顰めている。苦しそうに。


 額に脂汗を浮かべながら男が語る。


「……本日は、どのようなご用件でしょうか?」

「別件で訪れたのですが、この屋敷から不穏な気配を感じたものですから。思わず、立ち寄ってしまいましたわ。クロイツ家当主、カイド様」


 隣で、セリスさんがいたずらっ子っぽく笑みを浮かべる。


「……そうですか」


 カイドは明らかに狼狽している様子だ。ライズを連れ去ったり、剣を盗ませたり、暗躍しているのだから無理もない。


「少し、お話をさせていただいても?」


 セリスさんが上目遣いで男を睨むように見つめる。


 カイドは、手をこれでもかと言うほど握りしめている。それは、皮膚を裂いて血が垂れるほどに。


「……どうぞ、お上がりください。……何も、やましいものはありませんので」

「それなら、いいのですが」


 そう言って、セリスさんは手を合わせた。


「お話は内密にしたいでしょうから、兵士は別の部屋で待機させます。よろしいですか?」

「も、もちろんです」


 聖女の頼みは断れない様子で、男が頷く。


 その様子を見て、セリスさんは私に笑みを向ける。


「じゃあ、兵士ちゃんは別室で待機しててね」

 

 声を出さずに、私は頷いてみせた。


「シン、兵士さんを案内しなさい」


 セリスさんと男が二階に上がっていくのを眺めながら、私は後から来た——


「どうしました?」


 ——ライズのことを攫った黒髪の女——シンを見て、思わず飛びかかりそうになった。だけど、その気持ちを必死に押し殺した。


 今ここで騒ぎを起こしたら、せっかくセリスさんがここまでお膳立てしてくれた意味がなくなってしまう。


 今すぐにでも、ライズのことを問いただしたい。ライズが無事なのか。怪我してないか——無茶をしてないか。


 ……だけど、今じゃない。

 

「……いえ、なんでもない」


 シンの後に続いて、私は屋敷の中を歩く。屋敷内は緊張感が漂っている様子で、冷たく静まり返っている。敵の本拠地だから、そのように感じるのかもしれない。


 だけど、本当は無防備に歩くシンの後ろ姿を、今すぐにでも襲って、ライズの居場所を聞き出したい。


 剣に手をかけつつも、硬く手を結ぶだけにとどめる。


 好機を掴むまでは。


「こちらです」


 シンが開けた扉の奥には、地下へと続く階段があった。


 地下で休めということ?


 ……もしかして——


「……あんた、気づいてたのね!」

「あの少年のように魔力を感知する力はないけれど、私は鼻がいいの。あなたの匂いは覚えているわ」


 シンが短剣を振り抜いたから、すかさず剣で応じる。


「ライズは無事なんでしょうね!」

「……それは、あなたが自分の目で確かめなさい」

「えっ? どういうこと?」


 シンと剣を交えていたけど、すぐに膝をついた。


「勇者と差し違える——その事実さえあれば、呪いは発動しないようね」

「……何をしているの?」


 剣を構えて、私はシンを睨みつける。だけど、シンは私にうっすらと笑みを浮かべているばかりだ。


「聖女様がいらっしゃっる今が、ライズくんを助けるチャンスよ——これが、ライズくんを閉じ込めてる牢屋の鍵。受け取りなさい」


 シンが投げつけてきた鍵を反射的に掴む。


「……ライズは無事なの?」


 頷く女を見て安心すると同時に、疑問が湧いてくる。この女は敵だ。ダブトで聖杯を盗み、スリーツで聖剣を盗み、フォーゼルに向かう道中でライズを攫った。


 それなのに……。


「……どうして? あんたは敵でしょ?」

「ぐずぐずしている場合じゃないわ。今は私のことを気にするより、先に進みなさい」


 シンが階段の先を指し示す。階段を降りればライズに会える。あの屈託のない、暖かくて希望に満ち溢れた笑顔に。


「……後で、説明してもらうわよ」

「生きて、いられればね」


 シンが言っていることの意味はわからない。何か思うところがあるようだけれど、今は一刻も早くライズの元に急ぐ気持ちが勝る。


 シンを一瞥した後で、私は階下へと向かった。



 結界があるから、外の様子は分からない。まぁ、こんな結界すぐに解析できるけど、今は結界を解析するよりも先にやることがある。


 レイが来るまでに聖剣に機嫌を取り戻してもらわないといけない。大事な時に、使えないんじゃ意味がない。


 俺はジッと聖剣を見つめる。


「そろそろ、本気で解析させてもらうぞ!」


 目に魔力を集中させて、解析魔法を使う。神聖な魔力によって俺の解析は拒まれている。でも、俺はその壁を強引に突き破る。


 頭がズキッと痛む。


「……いつまでも、不貞腐れるな! いい加減、機嫌直せよ!」


 俺の魔力が強引に聖剣の魔力とぶつかり、バチバチと閃光がほとばしる。


 だけど、拮抗はすぐに崩れた。パリンという音で、聖剣の殻が破けて、レイそっくりな女の人が出現した。多分、この剣を使ってた先代の勇者だ。


 初めて会ったのに、レイと似てるからか、なんだかすごく懐かしい感じがして、勝手に涙が出てくる。


 そんな俺を見て、勇者さんはなんだか分からないけど口を尖らせている。


「……もしかして、怒ってますか?」

『……そうよ! 一度は聖杯、今度は君に勝手に封印を破られたんだから! 私は、勇者を待ってたのに!』


 怒鳴って、勇者さんはプイッとそっぽを向いてしまった。


 そんなこと言われても、と俺は頭の後ろをさする。


 でも、困ったことになったぞ。ここで、勇者さんが怒ったままだったら、レイが助けに来てくれてもうまく聖剣を使えない。


 今のレイなら、上手く聖剣を使えると思うのに……。


 怒らせちゃったのは、俺が悪い。素直に謝るしかない。


「……ごめんなさい、俺、今の勇者のレイのために、どうしても勇者さんの力を借りたかっただけなんです」


 すると、勇者さんはチラッと俺の方を向いて——すぐにまたそっぽを向いた。でも、その耳はなんでだか赤くなってる。


『そ、そんな簡単に謝られても……許せるわけ、ないじゃない』

「……じゃあ、どうすれば許してくれるんですか?」


 俺が首を傾げると、また勇者さんが俺のことを見て、すぐに顔を背けた。


『……レン』

「えっ?」

『私の名前よ。……勇者さんじゃなくて、名前で呼んでくれたら許してあげるわ』


 そんなことで許してくれるんだったら、簡単だ。


「レン、勝手に封印を破ってごめんなさい」


 名前で呼んでもう一度謝ると、レンは顔を赤くして、目尻に涙を湛えている。理由はわからないけど、からかっちゃいけない気がする。


『……許す』


 笑顔で頷くレンの顔を見ていると、俺の目からも勝手に涙が出てきた。


「あれ? なんで、悲しくもないのに涙が出てくるんだ?」


 わけがわからない。俺は腕で顔を拭ってレンに視線を移す。


「許してくれてありがとう!」

『……どうして急に敬語を使わなくなるのよ?』

「えっ? なんかこっちの方がいいかなって思ったんだ。ダメなら戻すけど……」

『もう……別にいいけど』


 そんな風にため息を漏らしていたけど、レンはそれ以上追求してこなかった。


『……あんた、名前は?』

「俺はライズだ! 最年少特級魔法使いなんだぞ!」


 俺が胸を張っていうと、なんだかまたレンの目がうるうるしてるように見える。


「どうしたの?」

『……あんたが、昔一緒に旅をした魔法使いにあんまりにも似てるもんだから、ちょっと昔を思い出しただけよ』


 レンは魔法使いと一緒に旅をしてたのか。なんだか、今の俺とレイみたいだ。


 ……って、話に夢中になってる場合じゃない。


「それよりさ、レンはレイの力になってくれる?」

『それはあの子次第ね。……あ、あんたの力になら、なってあげるけど』

「どうしてさ?」

『……そ、それは』


 言い淀んでいるレン。だけど、息を大きく吸うと大声で叫ぶ。


『……残り滓みたいなものだけど、この牢屋の鉄格子ぐらいなら切り裂いてあげるわ』

「本当!」


 俺が目をキラキラせて言うと、レンは顔を真っ赤にした。頭から煙が出そうな感じだ。


『……だ、だから最後にもう一度だけ、名前を呼んでくれない?』

「もちろん!」


 魔力の残滓であるレンには触ることはできない。でも、俺は見ることができる。だから、俺はレンを抱きしめるように腕を回す。


「俺をここから出してくれ、レン」

『……任せて、エスト』


 俺の名前はエストじゃない。昔、一緒に旅をした魔法使いの名前だと思う。


 レンが剣を握る。


『いくわよ!』


 レンが剣を一振りすると、鉄格子は跡形もなく吹き飛んだ。


『どう、これが勇者の力よ』


 そう言う、レンの姿が薄くなっていく。魔力の残滓が消えて、実体化できなくなったみたいだ。そんなレンに俺はサムズアップをする。


「ありがとう、レン!」


 笑顔を湛えて消えゆくレンを見て、俺の目からはまた涙が出てきた。


 俺は顔を腕で拭ってから、キッと前を見る。解析魔法で結界を解除して、魔力を辿って、俺は急いで洞窟の大きな扉へと駆け出した。


 走ってる間に魔力を感じた。


 この扉の奥には——


「レイ!」


 ——いつもと格好は違うけど、魔力ですぐに分かる。


 レイが助けに来てくれたんだ!


 俺はレイに抱きついた。


「……ライズ、助けに来たわよ。何よ、鍵なんていらないじゃない」


 レイのため息混じりの声に安心して、俺はレイに抱きつきながら大号泣した。

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