4、VSアサシンビークイン
アサシンビーの弱点は炎だ。ナイツさんの剣の威力はすごいけど、近接戦闘をしないといけない。毒にやられちゃうと危険だから、遠距離攻撃ができる俺がサポートしなきゃ。
火属性の魔法と土属性の魔法を混ぜ合わせて、深紅の魔法陣を杖の先に作り出す。
「ナイツさん、アサシンビーから離れて!」
ナイツさんがアサシンビーに大きな一振りを入れて、離れた後で魔法を発動させる。
「くらえ、火炎爆撃!」
魔法陣が深紅に眩しく輝くと、アサシンビーの群れの中心で火球が出現し、火球が激しく爆散した。爆発に飲み込まれて、雷雲のように群れていたアサシンビーの数が激減した。
「申し分ない威力だな」
ナイツさんが褒めてくれたけど、森の奥からアサシンビーがやってきて、また雷雲が形成される。
「ま、まだ、いるのか!?」
「坊主、気を引き締めろ。……何かおかしい」
ナイツさんの声が、低くなった。森の奥を、何かを警戒するように睨みつけるように見ている。
解析魔法で道の奥を見てみると——全身がゾワっとするのを感じた。道の奥に、アークゴブリンやダークスライムと同じくらいに凶悪な力を感じる。
……でも、それを言ったらナイツさんにここから連れていかれちゃう。
それは、嫌だ。
時間がない……このままじゃレイが。
「……くそ、じゃあ、今よりも強力な魔法でぶっ飛ばしてやる!」
火属性の魔法と土属性の魔法に、今度は風属性の魔法も掛け合わせる。さっきよりも深い紅色の魔法陣を作り出す。
「三重魔法陣か……特級魔法使いの名は伊達じゃないようだな」
「へへっ、ナイツさん見ててよ!」
襲いかかってくるアサシンビーに、杖の先を向ける。
「いくぞ! 獄炎爆撃!」
アサシンビーの群れの中心に、さっきの火球よりも真っ赤に燃え盛る火球が出現。次の瞬間には、火球が膨張して激しく爆発を巻き起こした。
爆発に飲み込まれたアサシンビーは全て霧散した。
……ふぅ、ちょっと疲れた。
でも、こうしちゃいられない。膝に手をついて、息を整えていると、ナイツさんが叫ぶ。
「坊主、よそ見するな!」
ナイツさんの叫び声が聞こえた瞬間、俺はナイツさんに突き飛ばされて、地面を転がった。いきなり突き飛ばしてきて、どうしたんだ?
顔を上げて、ナイツさんの方を見て、俺の全身から血の気が引いた。
「な、ナイツさん……」
「……女王、だな。坊主、無事か?」
さっきまで俺が立っていたところには、さっきまでいたアサシンビーの何倍もある大きさの蜂がいた。
そして、尻尾の針をナイツさんのお腹に刺している光景が見えたから。
苦しいはずなのに、ナイツさんは振り返って俺に笑いかけている。
「坊主、お前だけでも、逃げろ……」
ナイツさんはそう呟くと、地面に崩れ落ちた。
「あっ、あぁ……」
アサシンビーの毒には、動きを止めやがて死に至らせる効果があるという。さっきのアサシンビーよりもでかい女王の力だと、すぐになんとかしないといけない。
でも、俺は回復系統の水属性の魔法を使うのが苦手だ。攻撃魔法として使う分にはいいけど、回復に使おうとするとうまくいかない。
「……俺のせいだ。危険な魔物が奥にいるって分かってたのに、連れ戻されることを心配して……。そのせいで、ナイツさんが……」
アークゴブリンと戦った時と一緒じゃないか。勝手についていって、レイがピンチでも怖くて何もできなかった。
……俺は何も成長してない。
悔しくて、俺は大声で叫びながら泣くことしかできない。泣きながら俺はその場にへたり込む。
「俺は人を助けたいだけなのに、どうしていつも人に迷惑をかけちゃうんだ! 何が特級魔法使いだ! 大事な時に、何もできないじゃないか!」
悔しさを押さえつけるために、俺は握った拳で地面を殴りつける。痛くて、血が出てくるけど、ナイツさんの痛みはこんなもんじゃない。
「レイも、ナイツさんも助けられないで、俺は……」
「お前は!」
ナイツさんの叫びが聞こえたから、顔を上げる。すると、ナイツさんが真っ直ぐ俺のことを見つめていた。
「お前は、特級魔法使いなんだろ!」
「…………」
俺が何も言えないでいると、ナイツさんはにっこりと優しく笑う。
「……自分の力を信じろ」
それきり、ナイツさんは力尽きてしまった様子で、荒く息を吐きながら気を失なってしまった。
「ナイツさん!」
俺の力を信じる……。
「俺は……」
いつも人に迷惑しかかけてない。
でも、魔法で人を助けたいっていう気持ちは本当だ。だからこそ、頑張って特級魔法使いになったんだ。
……ナイツさんを助けて、レイだって助ける。それが今、俺のやるべきことだ。
「……諦めるもんか」
顔を腕で拭って立ち上がる。それから杖をギュッと握って、アサシンビーの女王を睨みつける。
アークゴブリンの時とは状況が違う。俺のことを助けてくれる人はいない。
でも、そんなの関係ない。
俺が招いたことだ。俺が責任を取る。
「……お前は、俺が絶対に倒してやる!」
杖を片手に俺は女王に向かって駆け出すと、女王も俺を見据えてけたたましく鳴き叫んで、猛スピードで飛んでくる。
その間に、解析魔法で女王を解析する。弱点は他のアサシンビーと同じく、火属性だ。でも、能力値は他のアサシンビーとは全然違う。攻撃も、防御も、素早さも——毒の力も。
攻撃を喰らったら、俺なんかひとたまりもない。
それでも、ナイツさんを助けるには女王を倒さないといけない。とりあえず、弱点の炎属性の魔法で攻撃していくぞ。
魔力を込めて、杖の先端に火属性の赤い魔法陣を展開させる。
「使う魔法は火属性——」
ただ、生半可な攻撃じゃ倒せないから、出し惜しみしてる場合じゃない。魔法陣をいじって、女王の防御を貫通できるように最適化させる。
「——行くぞ、滅蜂烈火!」
戦いながら、解析して魔法を放ったことなんてないけど、うまくいったぞ! 女王は炎に包まれた——だけど、燃えているのは外殻だけみたいだ。
ダメージはちょっとは負ってるとは思うけど、怯まず、炎をまとったまま俺に突進してくる。
「よっと」
俺は身を屈めて、女王の尻尾の針を突き刺す攻撃を避ける。
「へへっ、攻撃の瞬間にお腹が突き上がるからしゃがめば避けられるんだよね!」
しゃがみこめば、いくら素早くても攻撃を避けることはできる。
でも、これくらいじゃ女王を倒すことはできない。女王は激しく羽ばたいて、炎を吹き飛ばした。
俺にもっと魔力があれば、今の攻撃で倒せてたかもしれない。
「くそ……でも、何度だってやってやる!」
「キエエエェェェ!」
女王が激しく羽ばたくと、突風が巻き起こり、風の刃が飛んできた。素早い攻撃だったから、魔法で防ぐことが出来なかった。
ローブを突き破って、腕や足が切れていく。じわっと血がにじんでくる。
……痛い。
でも、目を逸らしちゃダメだ。目を逸らしてる間に攻撃されちゃう。杖をギュッと握って痛みを堪える。
「……やってくれたな! ……もう一度食らえ! 滅蜂烈火!」
女王が素早く避けるから、何度も魔法を撃つ。でも、女王は素早く動いて、なかなか当たらない。
「くそ……」
焦って、血の気が引いてくる。
……駄目だ、無駄に撃つと、倒す前に俺の魔力が切れちゃう。
魔力が切れちゃったら、女王を倒しても、ナイツさんを助けるために必要な魔力がなくなる。
焦るな、落ち着け……。
無駄に撃つんじゃなくて、よく動きを見てチャンスを待つんだ。解析魔法に集中する。一番得意な魔法だ。
……自分の力を信じよう。
解析魔法で、女王の動きを見据える——と、思ったとおりだ。相手の動きを見ることにも使えた。
こんなこと……旅をしなかったら分からなかった。
女王の動きが見える。素早く襲いかかってくるけど、動きが分かるから、攻撃を交わすことができる。
「……その後、尻尾を振り上げて、俺を突き刺してくるんだろ!」
俺は女王の攻撃をしゃがんで避ける。
その後で——
「食らえ、滅蜂烈火!」
「ギエエエエェェェ!」
落ち着いて放った俺の魔法が、女王に決まった。
「よし! もう一度——」
魔法を畳み掛けようとしたけど、女王が炎を振り払うために激しく羽ばたいた。女王も余裕がなくなったのか、見境なしに暴れている様子だ。無差別に風の刃が飛んでくる。
「——し、しまった!」
杖が無差別に飛んできた風の刃で飛ばされた。
「ギエエエエエエエッ!」
急いで杖を採りに走るけど、荒れ狂う女王の素早さに勝てるわけがなく——
「ギ、ギギャアアアアア」
「……えっ?」
涙目で、女王を見上げると、腹から血を吹き出している。何かが貫通したのか、腹には手のひらくらいの大きさの穴が空いている。
もしかして、ナイツさんが助けてくれたのかと思ったけど、ナイツさんは苦しそうに寝ているだけだ。
……誰が?
ガッと音がした方を見てみると、短剣が木に突き刺さっていた。
あれは——いや、今は考えてる場合じゃない!
女王が痛みで苦しんでる間に、俺は杖を拾い上げる。
「トドメだ! 食らえ、滅蜂烈火ッ!」
俺の叫びと共に打ち出された、女王を倒すだけに生み出した魔法が炸裂し、女王は燃え盛りながらその場に崩れ落ちた。
女王が動かないことを確認して、俺はすぐさまナイツさんのそばまで駆け寄った。
「ナイツさん! 大丈夫、俺が今助けるから!」
お腹には女王の針で刺された傷、それから、毒が体を駆け巡っていて、ナイツさんはすごく苦しそうだ。
そんなナイツさんの様子を見てると、勝手に涙が出てくる。泣いてる場合じゃないのはわかってるけど、勝手に出てきちゃう。
腕で拭いながら、俺は杖をナイツさんのお腹に当てる。
「ナイツさん、俺のせいで、本当にごめんなさい!」
使う魔法は水属性の回復魔法。魔法の解析はできてる。後は、今のナイツさんの傷と毒を取り除くことに特化した形に書き換えればいい。
スリーツでセリスさんの回復魔法を見ておいてよかった。イメージがすんなりと思い浮かぶ。
……でも、今までだってここまではできた。魔法陣の構築はできる。あとは発動させるだけだ。
「お願い……成功して」
魔法陣に魔力を込める。魔法陣が青く光り輝く——でも、ナイツさんの怪我は治らない。苦しそうな表情も変わらない。
「……諦めないぞ。もう一回だ!」
もう一度同じ魔法を使うけど、魔法陣は間違ってないはず。それなのに、魔法陣は光り輝くだけで、魔法が成功することはない。
「どうして、どうしてなんだよ! 魔法は——魔法陣は間違ってないはずなのに、どうして発動してくれないんだ!」
泣き叫んでも、魔法は成功しない。
「お願い、お願いだから、成功してよ……」
それでも、俺の回復魔法は発動しない。
「……あ、れ?」
一気に魔力を使い過ぎたからか、視界がぼやけて、俺はその場に倒れ込んだ。起きあがろうとするけど、力が入らない。
「……こんなことしてる場合じゃない。俺のせいで、ナイツさんはこんなことになったんだ! 回復させるまで、倒れちゃダメだ……」
俺はどうなってもいい。だけど、ナイツさんだけは絶対に助けなきゃ。
「……俺みたいな奴を助けてくれた人を、絶対に死なせてたまるか!」
叫んだ、その瞬間——空から声が聞こえたような気がした。スリーツの神殿で出会った、女神様の声が。
『ライズくんなら、大丈夫よ』
そんな声が。
……気のせいかもしれない。
でも、不思議とすんなり身体を起こすことができた。焦りの気持ちはない——むしろ、すごく今の気持ちは落ち着いている。
今なら、成功する気がする。
もう一度、回復魔法の魔法陣を展開する。さっきと魔法陣の形は同じだ。それなのに、魔法陣の色が白っぽくなっている。
「……そっか、俺に足りてなかったのは、そういうことだったんだ」
魔法陣に魔力を込めると、優しい光がナイツさんの全身を包み込んだ。傷が癒え、苦しそうな表情が落ち着いたものへと変わっていく。
「よかった……成功、した、ぞ……」
疲れ果てた俺は、ナイツさんの上に覆い被さるようにして、倒れ込んだ。




