3、森の奥の異変
ナイツさんと一緒に森の奥に進んでいく。ナイツさんは冒険者で、大剣を使っている。小さな魔物は一振りで薙ぎ払っていて、すごくかっこいい。それに、大きなナイツさんには大剣がすごく似合ってる。
ナイツさんが魔物を倒して、背負った鞘に剣をしまった。その後で、振り返ったナイツさんに俺は目を輝かせる。
「ナイツさん、すっごくかっこよかったよ!」
「……そ、そうか?」
ナイツさんは照れてるのか、ほっぺたをかいている。でも、俺は剣なんて重たくて使えないから、剣を使ってるナイツさんの姿はかっこよく見える。
俺は笑顔で頷く——そんなナイツさんの背後にゴブリンが出現したから、俺も魔法でいいところを見せるぞ!
懐から杖を取り出して、素早く魔法陣を展開させる。実践経験を経て、魔法も素早く撃てるようになった。
これも、旅に出ろって言ってくれたアストリアのおかげかな?
「使う魔法は火属性——」
火属性の魔法は攻撃力がある。敵を攻撃するにはうってつけだ!
杖の先端に赤い魔法陣が広がり——激しく輝く。
「——くらえ、火炎弾ッ!」
魔法陣から出現した炎が収束して、大きな火球になる。そして、火球が猛スピードでゴブリンに襲いかかる。
「グギャアアアッ!」
炎に包まれたゴブリンが、悲鳴をあげる。炎が消えた時には、黒焦げになったゴブリンがドサッと地面に倒れた。
「坊主、やるな」
「へへっ、魔法は得意だもん!」
笑いながら鼻の下を指でこすっていると、ナイツさんが俺の頭をポンポンとしてから、歩き出したから隣に並ぶ。
「薬草の群生地のそばにはトロールという魔物がいるが、その実力なら俺と同行しても問題なさそうだな」
「トロール……」
旅に出てまだ一度も会ったことのない魔物だ……。でも、図鑑では読んだことある。
「確か、怪力で大きな魔物だよね……」
「ただ、動きは鈍い。坊主が魔法で翻弄してくれたら、俺がトドメを指す」
動きが鈍いなら、魔法でナイツさんのサポートをすることはできそうだから、俺は頷いた。
「わかった!」
並んで歩いていると、不意にナイツさんが足を止めた。
「そろそろ群生地なのだが……」
「そうなの!?」
俺は薬草が採取できると思って、飛び上がったけど、ナイツさんは腕を組んで顔をしかめている。
「どうしたの?」
「おかしい……群生地に近づいたのに、トロールの気配が全くしない。……あまりにも静かすぎる」
「寝てるのかもしれないよ! 今のうちに薬草を採取しちゃおう!」
俺はそんなふうに考えて、考え込んでいるナイツさんを置いて森の奥に進もうとして——
「なんだこの音……坊主待て!」
「えっ? ……うわっ!? なんだ、いっぱい蜂が飛んでるぞ!」
道の先にはたくさんの黒い蜂が飛んでいて、羽音も相まって雷雲のようにも見える。
しかも、その蜂の奥には大きな魔物が転がっている。こいつがトロールだ。でも、身体を蜂に侵食されていて、ところどころ骨が見えて、死んじゃってる。
怖くなった俺は慌てて、ナイツさんの元まで駆け寄る。
「……なるほど、トロールがいないと思ったら、危険な魔物が出現していたからか」
「この蜂、そんなに危険なの?」
「あぁ、奴らの毒は危険だ。刺されれば痺れて動けなくなり、数時間で全身に毒が回る。動けぬまま死に至ることから、アサシンビーと呼ばれる危険な魔物だ。この森にはいないはずなのだが……」
そんな魔物がたくさん出現して、目の前に立ちはだかっている。
「坊主、諦め——」
「嫌だ! この先にレイの具合をよくする薬草があるのに、俺は絶対に戻らないぞ!」
日が落ちるのも時間の問題だ。ここで、戻るわけにはいかない。
こうなったら一人でも戦ってやる!
俺は杖を構えて、アサシンビーに向ける。解析魔法で見ると、弱点は炎系統の魔法だから、火属性の魔法で相手をしてやる!
「全く……本当に、坊主は危なっかしくて放っておけん」
そう言って、ナイツさんは大剣を引き抜いて、構えた。
「坊主は、サポート、頼むぞ」
「ナイツさん!」
ナイツさんが手伝ってくれることが嬉しくて、声をかけると、ナイツさんは真剣な表情で言う。
「ただし、危険だと判断したら坊主を抱えてでも逃げるからな」
「……わかった」
逃げるようなことは、絶対にするもんか!
時間がない。レイを助けるために——俺は杖を構えて、アサシンビーを睨みつける。
「薬草のために、お前らを絶対に倒してやる!」
俺たちとアサシンビーとの戦いが始まった。
◆
私は平穏な家庭に生まれた、ごく普通の人間だと思っていた。あの日——六年前、魔物の大群が故郷を襲うまでは。
魔族が引き連れた魔物によって、故郷は焼け野原と化した。お母さんやお父さん——大切な人たちが次々と殺されていく中、女神様の声と共に、私は勇者としての力に目覚めた。
だけど、女神様から授かった魔法の制御はできなかった。怒りに任せた私の魔法の暴走で、村もろとも魔物は退けたけれど、魔物を率いていた凶悪な魔物だけは煙となって逃げていった。
大切な人は、私の目の前で私を守るために死んでいった。
その時の光景も、焼けた故郷の匂いを今でも鮮明に覚えている——
「……夢、か」
全く、嫌な夢を見たものね。
滅ぼされた故郷で、一人泣きじゃくっていた。そこへ、追撃としてやってきた魔物から、アストリアさんが助けてくれた。
その後、宮廷で六年間、魔法の制御や剣術の指南を受けて最近旅立った。
「……というか、ここは?」
起きあがろうとしたけれど、激しい頭痛に襲われて私はまた寝転んだ。見覚えのある光景は、ライズが作った家にいるようね。
顔だけ動かしても、ライズの姿は見えない。ふと、枕元に手紙が置いてあるのに気づいて、封を開けると、ライズが書いたものだった。
『レイを元気にする薬草を採ってくるから、レイは安心して待っててね!』
拙い字でそんな風に書かれていた。魔法使いで頭がいいとはいえ、年相応の男の子らしい字で。
確か、私たちは森の中を歩いていた。森には魔物だっているのに、ライズはどうして無茶ばかりするのよ。
起きあがろうとするけど、体に力が入らない。
「……あんたが無茶ばかりするから、安心してなんて、待てないわよ」
だけど、体が言うことを聞かない。
私は、魔物が嫌いだ。人の大事なものを簡単に奪って、笑っていられるような存在を許してはおけない。
勇者としての力を手に入れて、私のように悲しむ人をこれ以上出したくない。だから、女神様からの信託を受け、宮廷で力をつけて、魔物を統べる魔王を討伐するために旅をしている。
だけど、魔法の制御が、ライズの力を借りないと成功したことがない。ライズがいないと私は……。
頭痛で意識が朦朧としてきた——
「お願いだから、私を、一人にしないで……」
呟いたけど、ライズの屈託のない笑顔が見えることはない。
復讐のことばかり考えていた私に、初めて勇者として守りたいと思った、あの白髪の少年の笑顔は——
「……私は、あんたを、守りたいだけなのよ」
家の外から爆音が聞こえてきたけど、私の視界は暗転した。




