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十歳最年少の特級魔法使い、魔法を解析しながら勇者の旅についていく!  作者: 赤松勇輝
第三章 スリーツの街 神殿での戦い

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4、聖剣の判断

 部屋でくつろいでいたけれど、一向にライズが帰ってこない。椅子に座って本を読んで気持ちを落ち着けようと思ったけれど、内容が一切頭の中に入ってこない。


「……どこをほっつき歩いてるのよ」


 窓の外に目をやると、橙色の夕陽があたり一面を照らしている。あの食いしん坊が、昼ご飯も食べないで、帰ってこないなんて……。

 

 いや……帰ってこない理由は一つしかない。


 私が、ライズのことを考えないで発言してしまったことが原因だ。泣いて飛び出して行って、そのまま私に愛想を尽かして、王宮に帰ってしまったのかもしれない。

 

 でも、私はもとより一人で旅をしていた。魔法が暴走して、また周りの人を巻き込みたくないから。


 そう考えると、別にライズはアストリアさんから強制的に任されて、勝手について来ているだけだったのだから、気にする必要はない。


 今、気にするべきことは、聖杯の行方を探すことだけだ。


 ライズのことなんて……どうでもいい。どうでもいいはずなのに、胸が苦しくなる。このままでいいと思えない私がいる。


 私が傷つけたのに、何も謝らないでいいわけがない。六歳も年下の子どもを、私が勇者として至らなくて泣かせてしまったのだから。


「……行くしかないわね」


 もしかしたら、まだ女神を祀った神殿にいるかもしれない。


 ……本当はまだ行きたくない。


 だけど、私のわがままで傷つけたライズに謝りに行くのは勇者として——いや、人としてやらないといけないことだ。


 拳を強く握りしめて、私は剣を片手に宿を飛び出して神殿へと駆け足で向かう。


 橙色に染まる道を私は駆ける。スリーツの街は神殿などの観光できる場所でもあるから、夕方でも人通りは多い。


 急いでいる私を見て、街の人は訝しんでいるけれど、ライズに謝りたい私の気持ちの方が強いから気にならない。


 それに、まだ顔を合わせられない女神様を祀っている神殿に行くことも、私にとっては大きなプレッシャーだ。


 だけれど、私が傷つけてしまったライズに謝りに行かない理由にはならない。


 急いで走っていると、あっという間に神殿の前に到着してしまった。


 膝に手を当てて呼吸を整えながら、神殿を見やる。


 アストリアさんと一緒に王宮に行ったことはある。その王宮よりもずっと小さい建物なのに、私には王宮よりも大きく、聳え立つ山のように見えてしまう。


 それでも……。


「……行かなきゃ」


 深く息を吸ってから、神殿の中に入る。神殿内には参拝をしている人が多いけど、ほとんどが大人だから、この中に白髪の子どもがいればすぐに目につく。


 足早に神殿内を歩いていると、すぐに女神様の石像が見えたけど、ライズの姿が見えなかったから足早に立ち去る。


 奥に進むと、錆びついた剣のような展示物の前に辿り着いた。どうしてだろう、錆びついた剣を見ていると、見たことないのになんだか胸が熱くなって、懐かしい気持ちになる。


 そして——錆びついた剣を展示しているケースの台座を背もたれにして、眠っているライズを見つけた。


「……あの馬鹿、こんなところで」


 思わず出てきた言葉は悪いものだけど、私はすごく嬉しかった。もしかしたら、神殿にもいないで本当に王宮に戻ってしまったかもしれないと思っていたから。


 ライズのそばに歩み寄ろうとすると、ライズの隣にしゃがんで笑みを浮かべている女性が目についた。服装から神官だと思う。


「……あなたは?」


 ライズのそばまで歩み寄って女性に声をかけると、スッと立ち上がった。


「私は、この神殿の聖女セリスです。……なるほど、あなたがライズくんの言っていた勇者さんですわね」


 頷いてから、私はライズに視線を移す。


「……この子はどうして寝てるんですか?」

「錆びていますが、古の勇者が使ったとされる、聖剣を守っている結界の解析をしていたんですよ——勇者に渡すんだ、って」

「……えっ?」


 セリスさんの思いがけない言葉に、私は眠っているライズを見ていると、視界が涙でぼやけてくる。


 冷たい言葉を吐いてしまったのに、ライズは私のためにまた無茶をして頑張ってくれていた。それなのに、私は少しでもライズが王宮に戻ってしまったなんて考えて、本当に恥ずかしい。


「……私なんて、勇者失格よ」


 静かに呟くと、ライズの小さな手が私の足を掴んだ。


「……あれ? 俺、寝ちゃったのか?」


 あくびをした後で、寝ぼけ眼で私のことを見据える。


「って、あれ、いつの間にかレイがいるぞ! ……泣いてるの?」

「……あくびをしただけよ」


 ライズから顔を背けて、私は目を指で拭った。


 強がっている場合じゃないわね。私がここに来たのは、ライズに謝らないといけないからだ。ライズに顔を戻すと、首を傾げて私のことを見ている。


 全く、警戒心がない様子で。


「……さっきは、ごめんなさい。少し、言いすぎたわ」

「ううん、俺も……ごめん」

「……どうして、あんたが謝るのよ?」


 問い詰めるように聞いてしまったからか、ライズの目は心なし潤んで見える。


「……だって、レイのこと、何にも考えてなかったんだもん」

「……全く」


 それはこっちの台詞なのに、ライズは私のことを気にしてくれていた。なんて、優しい子なんだろう。


 私はライズの頭の上に手を乗せて、フッと笑う。


「……あんたの気持ち、嬉しいわ」

「うん! レイと仲直りできてよかった!」


 ライズのいつもの人懐っこい笑顔を直視できなくて、私は顔を背けた。



 レイと仲直り出来て良かった。俺のことはもう怒ってないみたいだから、一安心だ。俺はブランケットをセリスさんに渡して立ち上がる。


 ただ、ちょっと疲れてるからあくびが出てきちゃった。


「……あんた、また無茶したんだって?」

「へへっ、やっぱ難しい解析をすると疲れちゃうんだよね」


 頭の後ろの手を当てて笑うと、レイがため息をつく。


「……結界の解析をしてたんですってね」

「あぁ、そっちは簡単だったんだよ」


 それよりも、俺としては剣にかけられている封印の方が問題だと思っていたんだけど、驚いた様子のセリスさんに肩を掴まれた。


「アストリアでも解けなかった結界を、解いたの!?」


 俺は頷く。


「アストリアは宮廷魔法使いとして有名だけど、専門は攻撃系の魔法だ。緻密な魔法の解析に関しては、俺の方が得意なんですよね」


 胸を張って言うと、セリスさんは感心した様子で声を漏らしている。


「……へぇ、やるじゃない」

「このくらい簡単だよ——それより、問題はこっちの錆びた剣にかけられた封印の方だ」


 改めて解析魔法で剣を見る。


「結界を解いたから、剣をよく解析できるようになったんだけど、この剣、ただ錆びてるってだけじゃないんだ」

「……というと?」


 レイが聞いてきたから、俺は続ける。


「ある程度の封印の解析は出来たんだけど、最後の鍵が足りなくて封印が解けないんだ——この剣、まるで誰かを待ってるみたいなんだよね」


 それであれこれ考えてたら、いつの間にか寝ちゃってたのは恥ずかしい。


「でも、誰のことなんだろう。くそー、どんな封印でも解ける魔道具があれば、簡単に封印が解けるんだけどなぁ」


 俺が呟くと、セリスさんがパンッと手を合わせた。


「待ってる人なんて、一人しかいないじゃないですか!」


 そう言って、セリスさんはレイの方を向いた。


「現勇者のレイさんです! レイさんの魔力か何かと共鳴すれば封印が解けるんじゃないですか!」

「そっか!」


 俺も思わず指を鳴らした。


「待ってる人なんて、レイしかいないじゃないか! なんで早く気づかなかったんだろう! レイが触れば——」


 でも、レイを見ると表情は暗い。女神様の祀られている神殿に行こうって言った時と同じ顔をしてる。


 勝手に興奮して、またレイを傷つけることになっちゃうのは嫌だ。


「……でも、レイがやりたくないんだったら、無理にしなくてもいいよ」

「……大丈夫よ。まぁ、結果は知れているけれど」


 レイが台座の前に立ち、恐る恐るといった様子で錆びた剣に手を触れた。


 セリスさんはドキドキしている様子で、手を胸の前で組んでいる。


 俺もドキドキしている。でも、セリスさんとは別の理由だ。今のレイの言い方だと——


「あれ? レイさんが触ったのに、何も起きないですね。これは……一体どういうことなんでしょうか?」


 首を傾げるセリスさんだけど、レイは俺の方を見て渇いた笑みを浮かべた。


「……要するに、まだ勇者として剣に認められていないってことでしょ」

「レイ……」


 レイの表情はすごく悲しそうに見える。手も震えている。


 魔法が制御できないから勇者じゃないってこと?


 今までレイは、怪我をしても勇者として戦っていた。


 それなのに……。


「……あんた、どうしたのよ? は、恥ずかしいでしょ。……離れなさいよ」


 俺はレイに抱きついていた。泣いちゃって顔を隠したい気持ちもあったけど、なんだか今のレイには優しい言葉をかけたい気持ちになったのが一番の理由だ。


「レイは勇者だよ。俺は危ないところを何度も助けてもらった! でも、何か足りないって言うんだったら、俺がレイが魔法を使えるようにする。だから、俺を信じて!」


 女神様が言ったことを思い出して、俺はレイに言った。


「……あんた」


 レイが呟くと、俺の頭の上に手を乗せた。


「……頼りに、してるから」


 レイの優しい言葉に、俺は腕で顔を拭ってから顔を上げた。


「任せてよ!」 


 レイはそっぽを向いていたけど、耳は赤い。


 もしかしたら、照れてるのかもしれない。

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