3、女神と聖女
神殿の前に立って、俺は建物を見上げて思わず声を漏らす。
「おっきい建物だ……それに、すごく神聖な魔力を感じるぞ!」
白を基調とした建物に、神聖な感じのする水が流れていて、気持ちが落ち着く。そして、強い神聖な魔力は、神殿の中から感じる。
神殿に参拝する人の中に俺も入って、神殿の中に入る。
神殿の中は外よりも、一層神聖な雰囲気を感じる。中でも、入り口正面に聳え立つ女神様の石像からは一番の魔力を感じる。
解析魔法を目に宿らせて、女神様の石像を見る。
「……やっぱ、女神様を祀ってるだけあってすごい魔力だ。しかも、神聖な魔力の質がレイと一緒だぞ」
それなのに、石像から感じる魔力は安定している。魔力からは、揺るぎない力を感じて、なんだか安心感を覚える。
俺は腕を組んで石像を見つめる。
「どうしてこんなに安定してるんだろ? ……逆に、どうしてレイの魔力はあんなにこんがらがっちゃってるんだろ?」
『ふふっ、どうしてだろうね』
「それが分からないんだよ……えっ!?」
いきなり頭の中に声がしてびっくりして、思わず大きな声を出すと周りの人から睨まれたから慌てて口を塞ぐ。
声のした方には、石像がある。そして、その前にはうっすらと光るレイと同じく水色の髪をした髪の長い綺麗な女の人がいた。笑顔からは安心感を覚える。
それに、魔力からは神聖な力を感じる。
……というか。
「石像の女神様と顔が一緒?」
『すごい魔力を感じ取っちゃったから、思わず顕現しちゃった。ご明察、私はこの世界の女神ブレスよ』
「め、女神様!?」
まさか、目の前に女神様が現れるなんて!
俺は、腰を抜かしちゃって、その場にへたり込んだ。周りの人が俺のことを見てくるけど、今は気にならない。それよりも、女神様を見てしまった衝撃の方が大きい。
「……すごい」
『すごいのはライズくんよ、その歳で魔力解析を熟練の魔法使い以上にできるんだもの。私の姿が見えるのも君くらいだわ』
「へへっ、俺、魔法が大好きなんです!」
あれ?
「俺の名前、どうして?」
『レイちゃんを通して、ライズくんの魔力を感じ取ってたからね。だからこそ、ライズくんがここに来た目的も分かるわよ』
俺が神殿に来たのは、レイの魔法の解析のためだ。女神様なら、レイの魔法の制御に必要な情報を知ってるかもしれない。
「女神様、俺、レイの魔法の解析をしたいんです。でも、なかなかうまくいかなくて……どうしたらいいですか?」
まっすぐ女神様を見つめると、女神様は顔を赤くしてほっぺたをおさえる。
『……あぁ、ライズくんになら教えてあげたくなっちゃうけど、女神としてそれを教えるわけにはいかないの。これは、レイちゃんの問題だから。それに、そろそろ顕現するのも限界なのよ』
「……そ、そんなぁ」
ガックリと肩を落とすと、女神様のシルエットが薄くなっていく。そんな中で、女神様は人差し指を立ててウインクをした。
『でも、ひとつだけヒント——ライズくんは今のままレイちゃんを支えてあげて、そうすれば彼女の心も安心して、ライズくんを信じてまっすぐ突き進めるから』
女神様が言ってることは正直わからない。でも、今のまま支えて欲しいって言う気持ちからは、嘘偽りのない気持ちを抱いた。
だから、消えゆく女神様に俺は笑って見せた。
「はい! 任せてください!」
『頼んだわよ、ライズくん』
女神様の笑みを見て、俺は手をギュッと握った。レイのことを信じて、俺も今まで以上にレイの力になれるように頑張るぞ!
立ち上がって、天井に拳を突き上げると不意に背後から声がかかる。
「……きみ、さっきから大丈夫? 挙動不審で、お姉さん心配になっちゃったのだけれど?」
「うわっ、今度は本当の人か!」
またいきなり話しかけたられて、俺は飛び上がった。
神聖な強力な魔力は感じるけど、女神様じゃない。この神殿の神官の人だろう、黄緑色の神官の服に身を包んだ、眼鏡をかけたお姉さんがいた。
「私はこの神殿の聖女セリスよ」
「俺はライズです!」
自己紹介をした後で、セリスさんが下唇に伸ばした人差し指を当てた。
「女神様の石像とジーッとにらめっこして、急に笑ったり悲しそうな表情をして……そんなに気になった?」
「あっ、は、はい」
女神様と会話をしてたなんて言っても多分信じてくれないと思うから、俺は曖昧な返事をする。すると、セリスさんが俺に笑いかけて、俺の手を握る。
「殊勝な心がけね、それじゃあこの神殿にはある、もう一つの神聖なものを見に行きましょう! 案内するわ!」
この神殿は女神様を祀っているだけじゃなくて、古の勇者が使用していたと言われる品が展示されてるって話だ。
そっちも気になる!
「ありがとうございます!」
セリスさんの案内で、神殿の奥に進んで行くと、ガラスケースの中に茶色く錆びた棒状のものが展示されていた。
「これが、古の勇者が使用したとされる聖剣よ!」
「……聖剣」
解析してみると、神聖な雰囲気を感じるけど、かなり弱々しい。錆びてしまって、斬れ味は店に売ってる剣よりもなさそうだ。
それでも、しっかりと結界魔法で保護されて持ち出されないようにしてある。
「まぁ、錆びてしまって威厳もないし、本物かどうかもわからないのだけれどね」
「……ううん、この錆びた剣は本物だよ。錆びちゃって、本当の力は解放できないみたいだけど」
「どうしてそんなことが分かるの?」
セリスさんが首を傾げて質問してきたから、俺はここぞと言わんばかりに特級魔法使いの資格証をセリスさんに見せつけた。
「俺は、特級魔法使いだからな!」
「嘘っ! ただの子どもじゃないと思ったけど、特級魔法使いさんだったのね!」
「はい!」
あぁ、なんだかこういう反応をもらえると、すごく嬉しい。レイは未だに俺が特級魔法使いで、すごい人間だってことを分かってくれてない。
子ども扱いしてバカにしてくるんだもん。
嬉しいから、ちょっとだけ格好つけてみる。腕を組んで俺はセリスさんに言う。
「魔法で解析したところ、錆びついちゃってますけど、神聖な力を感じるから間違い無いと思います」
「……そっか」
でも、古の勇者が使っていたってことは、今の勇者のレイも使えるってことじゃないか?
「セリスさん、俺、一緒に勇者と旅をしてるんです。この剣をもらうことって出来ませんか?」
お願いします、と俺は頭を下げた。
チラッと顔を上げると、セリスさんは腕を組んでいたけど、天を見上げたかと思うと手を合わせて頷いた。
「……ブレス様も、渡すべきって言っているわ! うん、本来の持ち主に渡るのがベストってことね」
「じゃあ!」
「でもね……」
と、セリスさんの顔が曇る。
「この剣、崇高な魔法使いの人たちがこぞって研究のために取り出そうとしたんだけど、結界魔法を解くことができなかったのよ。あの、アストリアですらも」
「アストリアでも解けなかったのか!」
セリスさんは呆気に取られてしまった様子だけど、俺は燃えてきた。
アストリアでも解けなかった結界を俺が解析できれば、王宮に帰ったら自慢してやる!
「俺も挑戦してみます!」
「頑張ってね!」
俺は、結界をじっと見据えた。
よーっし、絶対に解いてみせるぞ!




