2、すれ違う思い
俺たちは、クレープを食べ、街で泊まる宿を決めた。その後で、俺はベッドに腰をかけ、レイは椅子に座ってくつろいでいる。
「レイ、これからどうする?」
「……聖杯の場所、わからないんでしょ?」
「そうなんだよね、いくら探知しても何かで隠されちゃってるのか、見つけられないんだ」
魔法の聖杯の魔力はダブトの村の洞窟で知ってるから、探知すれば分かるはずだ。いくら人が多いとはいっても、街中で探せないほどじゃない。
それなのに見つけられないのは、敵も俺を警戒して力を隠しているのかもしれない。
「……お手上げね。敵が動くのを待つしかないわ」
「そっか」
そうなると、時間がある。
「じゃあさ! 宿のおじさんに聞いたんだけど、この街に女神様を祀る神殿があるから、そこに行ってみない?」
女神様、と言う言葉にレイが少し顔をしかめたような気がするけど、俺は続ける。
「神殿には、勇者にまつわる品も展示してあるんだって。レイの魔法の解析に必要になると思うんだ!」
俺が言うと、レイの表情が冷たい雰囲気に変わったような気がした。そのまま、レイは首を振る。
「……私は、行かない」
首を振るレイの手はギュッと握られている。
「えー、でもさ、レイの魔法の——」
「……行かないって言ってるでしょ」
今までに見たことないくらい、レイの冷たい表情を見てしまって、俺は怖くなった。
「……ご、ごめん。俺、一人で行ってくる!」
怖くなって、俺は逃げるように部屋を飛び出した。
◆
飛び出して行こうとするライズの背中に、声をかけようと思ったけど、涙を流していたし、どんな言葉をかけたらいいかもわからなかった。
ライズは何も悪くない。
ただ、私が弱いだけなのに、何も知らないライズのことを傷つけてしまった。
「……子ども相手に、何してるんだろう、私」
私は、女神様に会わせる顔がない。
どうしても、身体が——気持ちが拒否反応を示してしまって神殿に足が向かない。女神様の姿を見てしまうと、あの時の——六年までのあの時の惨劇を思い出してしまう。
今代の勇者として覚醒したにも関わらず、私は女神様から授かった魔法もろくに使えないのも負い目になって——
それなのに、魔王討伐の旅に出るように言われて旅をして——アストリアさんの差金とはいえ、十歳の少年に何度助けられたことか。
宮廷魔法使いのアストリアさんでさえ難しかった、私の魔法の解析、制御を無茶をしているとはいえ、やり遂げてみせているライズの顔を思い浮かべる。
魔法が好きで、困っている人のことを放っておけない、無邪気なライズの顔を思い浮かべると、込み上げてくるものを感じる。
ライズがいなかったら私はここまで来れなかったと思う。
そんなライズを傷つけてしまったことは、最低だ。
私の勝手な理由で女神様に会いに行きたくないだけなのに、冷たい声でライズを泣かせてしまった。
「……戻ってきたら、しっかり謝らなきゃね」
涙を拭いて、賑わう外に目を向けて、私はため息をひとつついた。
★
俺は一人でトボトボと、この世界を創造したと言われている女神様が祀られているという神殿に向かってる。
「どうして、レイはあんなに行きたくないって言ったんだろ?」
顔をグシッと拭いながら俺は考える。
宿のおじさんから、この街には女神様を祀っている神殿があって、そこには、大昔に魔王を倒した勇者にまつわる展示物があるって話を聞いた。
女神様のことや勇者にまつわるものがあるんだったら、レイの魔法の解析が捗るかもしれないって俺は思ったから、一緒に行ってみようと思ったんだけど、レイには断られた。
すごく冷たい声で言われて、怖くてちょっと泣いちゃった。泣いてるところを見られたくなかったし、一緒にいるのが怖くなって、宿を飛び出してきちゃった。
……レイにはバレてないかなぁ。
ため息をついた後で、俺は腕を組む。
……あんなに怒るってことは、絶対に行きたくない理由があったんだと思う。それを気にしないでレイに言っちゃったのは完全に俺が悪い。
「……宿に戻ったら謝らなきゃ」
それに、神殿に行ってレイの魔法の解析が捗ったら、レイもきっと喜んでくれるはずだ!
「よーっし、頑張るぞ!」
俺はジャンプして、神殿まで走って向かおうとして、ふと振り返る。誰かに見られているような気がしたけど、妙な気配はしない。
気を取り直して、俺は神殿まで走って向かった。




