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十歳最年少の特級魔法使い、魔法を解析しながら勇者の旅についていく!  作者: 赤松勇輝
第三章 スリーツの街 神殿での戦い

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1、綺麗なお姉さん

 俺はあくびを一つ、雲ひとつない空に太陽がさんさんと輝く心地よい空の下を、レイと並んで歩いている。


 ダブトの村を出発して、俺たちはスリーツの街に向かっているところだ。


「……あんた、もっと寝た方がいいんじゃないの?」

「でも、魔法の聖杯が悪用されたら大変じゃないか」


 魔法の聖杯は、魔法の効力をかき消すことができるという。盗んだ人が何に使うのかはわからないけど、悪いことに使われたら大変だ。


 結界魔法を破ることや、補助魔法の効果だってかき消すことだってできる。


「誰が盗んだかも、何に使うかもわからないんだから、急いで取り戻した方がいいじゃん」

「……それは、そうだけど」


 そう言って、レイはため息を漏らす。


「……あんた、あの後三日も眠ったままだったじゃない」


 俺は、ダブトの村側の洞窟でダークスライムと戦ったり、精霊さんの力を取り戻すため、レイの魔法の制御と魔力を大量に使って、三日間も寝てしまっていたようだ。


「だからさ、俺が三日も寝ちゃった分、急いで取り戻さないと!」


 叫んですぐにふらついたけど、レイが腕を掴んで支えてくれた。そして、そのまま——


「お、おい! 俺は子どもじゃないぞ! おんぶなんてするな、放せ!」

「……じゃあ、抱っこの方がいい?」

「もっと嫌だ!」


 暴れるけど、ガチッと掴まれていて、俺の力じゃレイを引き剥がすことができない。


「くそー、なんでおんぶなんてするんだよ」

「あんたが強情だからでしょ……」


 俺の力じゃどうすることもできない。このままレイから離れようとすることで、余計に疲れてくる。仕方ないからこのままにするしかない。


「……急いで行くのは賛成。だけど、あんたが眠くて大事な場面で動けなかったらどうするの?」

「それは……」


 レイの言う通りだ。急いでも、俺の体調が万全じゃなかったらできることもできなくなっちゃう。急ぐだけがいいってわけじゃない。


 俺がうまく答えられなくて大人しくなったからか、レイがフッと笑う。


「私は、あんたと違って体力はあるから。急ぐんだったら、こうした方が合理的でしょ?」

「そうかもしれないけど、誰かに見られたら恥ずかしいよ! 俺だって、もう十歳なんだからな!」

「……まだまだ子どもじゃない」


 レイが振り向いて、何を言っているんだと言うような目で俺のことを見てくるから、腹が立つ。


「俺は、子どもじゃない! 俺は世界中でも十人もいない特級魔法使いなんだぞ! そこら辺の子どもと一緒にするな!」

「……どこが? 寝言でお腹いっぱいとか言ったり、寝相が悪くてお腹だしたり、そこら辺の子どもと全く変わらないじゃない」

「そ、それは……!?」


 まさか、寝言でそんなことを言っていたなんて! 


 恥ずかしさで、身体が熱くなってくる。


「子どもは子どもらしく、年長者の言うことを聞きなさい」

「くそー……」


 恥ずかしくて、穴があったら入りたい。


 でも、久しぶりにおんぶしてもらった感覚は、あったかくて心地よかった。



 スリーツの街は、オーネスやダブトの村よりは賑わっている。お店も沢山あって、ところどころから甘いいい匂いが漂ってくる。


「うまそうな匂いだなぁ」

「……やっぱり、子どもじゃない」

「う、嘘だよ。俺は別に甘いものなんて……」


 無意識に出てしまっていたよだれを腕で拭いながらも、どこからか漂ってくる甘い匂いの方向をつい見てしまう。


「……ふーん。いらないなら、私だけ買おうかしら」

「えっ、ずるい! 俺も食べたい!」

「……素直に言いなさいよね——買ってくるから、噴水の縁にでも座って待ってなさい」

「分かった!」


 レイに笑みを向けると、足早に買い物に行ってくれたから、俺は言われた通りに噴水の縁に座って待つ。


 早く戻ってこないかなぁ。


 …………。


「って、こんなことしてる場合じゃない! 魔法の聖杯の居場所を確認しないといけないんだった!」


 漂ってくる甘い匂いですっかり忘れてたけど、俺たちの目的は魔法の聖杯を取り戻すことだ。のんびりしてる場合じゃない!


 噴水の縁に腰をかけながら、魔力を集中させる。


 とはいえ、スリーツの街は人が多くて、いろいろな魔力が入り混じっている。こんな場所で特定のものを探すのは難しいんだよなぁ。


 人が少ない場所とか、特定のすごい魔力を持っていればすぐに見抜ける。洞窟で魔法の聖杯の魔力は感じているから探すのは簡単なはずなんだけど、何かで保護しているのか魔力を感じ取れない。


「……な、なんだ」


 なんだか邪悪な魔力を感じとった。しかも、どんどん俺の方に向かってくる。魔力で感じ取ったのがバレたのかもしれない。すぐに、魔力を感じ取るのをやめる。


 冷や汗がブワッと額から頬を伝ってくる。なんだ今の魔力は。アークゴブリンやダークスライムなんて可愛く見えるくらいに邪悪な魔力だ。


 こんな街中にどうして?


 魔物かもしれないけど、こんな邪悪な魔力を持ってる相手に、俺一人じゃ太刀打ちできない。


 というか、逃げないと襲われるかもしれない。レイがいない中で襲われることを考えたら、怖くなってきた。


 急いで、レイのところに行こう。


 慌てて立ち上がって、走り出そうとすると何かにぶつかった。目を開けると、女の人だった。


「……きみ、顔が真っ青だけど大丈夫?」

「えっ……」


 顔を上げると、黒い外套を身に纏った、黒い髪に黄色い目をした女の人が立っていた。綺麗なお姉さんだけど、その顔には不釣り合いな太い首輪をつけている。


 その首輪から、さっき感じ取った邪悪な気配を感じる。呪いのような、とっても邪悪な魔力だ。それに、俺のことを見る目はなんだか俺のことを推しはかるような感じだ。


「一人なの?」

「…………」


 怖くてうまく喋れない。それに、身体が固まっちゃって逃げることもできないから、俺は黙り込むことしかできない。


 それが、お姉さんにとっては俺が一人だという認識に取られてしまったようで、ほっぺたに手を当てている。でも、目は俺のことをしっかりと捉えている。


「……もしかして、迷子なの? 一緒にお家の人、探すわよ」


 お姉さんが俺の手を取ってくる。


「……うっ」


 すごく邪悪な感じがしたから、反射的に魔法で防いで、思わず声を漏らした。でも、それは一瞬だけだった。


 すぐにお姉さんの手から伝わってくる邪悪な感じは消えて、暖かい温もりのある手の感覚に変わった。


 お姉さんの顔を見ると、冷や汗をかいて、なんだか苦痛を堪えているように見えた。


 ……どうしたんだろう?


 怖いと思うと同時に、困っているんじゃないかって思えてくる。首輪からは邪悪な感じを受けるけど、お姉さんの手からは暖かさを感じる。


 そんな風に思えてくると、俺の震えがスーッと止まっていく。


「……お姉さん、俺は大丈夫です。それより、お姉さん大丈夫ですか? なんだか——」


 俺が最後まで言い終える前に、お姉さんは人差し指を立てて、俺に黙るようにジェスチャーをした後で俺の頭に手を乗せてきた。


「やっぱり、きみはすごいのね」

「えっ?」


 お姉さんが何を言ってるのか分からない。でも、俺に向けられている笑みには全く敵意を感じない。むしろ、あったかくて優しく感じる。


 ……やっぱり何かに困っているように見える。それも、人に言えないような困り事を。その要因はおそらく首につけている似合っていない首輪が原因だと思う。


 もしかしたら、この人は何かに縛られているのかもしれない。


 今のお姉さんの仕草から、解析魔法を使うと首輪から感じる邪悪な力の存在に、解析してることがバレちゃうかもしれない。


 だから、一瞬だ。一瞬に集中するぞ。


 俺はニシシと笑うと、お姉さんの首輪にわざとらしく手をかけた。


「お姉さんだって、綺麗なのに、この首輪全然似合ってないぞ!」

「そ、そう? お気に入りなのだけれど」


 お姉さんは苦笑いしている。


 すごい呪いだ。余計なことをすると、かけた相手に俺が何かしたかわかっちゃいそうだ。すぐにどうにかすることはできない。


 だけど、ひとつくらいなら……。


 ひとつだけ、お姉さんを縛る呪いを解くことができた。でも、それを口にしちゃうといけない。呪いをかけた人に伝わっちゃうかもしれないからね。


 頭の後ろで手を組んで、もう一度お姉さんに笑いかけた。


「おまじない! 優しいお姉さんが死なないでねって!」


 女の人は首輪に手を当てて、目を見開いた後で笑みを浮かべた——そのタイミングでレイがクレープを両手に戻ってきた。


「……お待たせ、その人は?」

「ん? 俺を迷子と勘違いしたお姉さん」


 キョトンとしているレイを置いて、俺はお姉さんにお辞儀をして手を振る。


「心配してくれてありがとうございました! 仲間も戻ってきたので、もう大丈夫です!」

「そう……またね」


 またね、なんて言われたけど、どこの誰かもわからない人だ。でも、不思議とまたどこかで会えるような気がした。



 標的の白髪に赤目の少年と分かれて、私は宿に戻った。魔力を隠蔽する外套を脱ぐ。すると、私は人間と魔物を掛け合わせた『魔人』として、耳が横に尖り、瞳孔が縦に伸びる。


 外套をラックにかけて、ベッドに倒れ込む。


 ……できなかった。


 今夜、神殿への侵入の前に不穏因子として、カーズ様から言われた勇者を支える白髪の少年に呪いをかけて殺すように言われていた。


 単身で、カーズ様の配下のダークスライムを撃破してしまったあの少年を。


 でも、子どもを相手にどうしてもためらってしまった。命令の背いた罰で身体に激痛が走ったけど、それでも……。


『シン……今夜の神殿からの奪取任務、問題なく執り行えるのだろうな』


 首輪から声が聞こえてくる。カーズ様のものだ。


「……問題ありません」

『魔法をうまく使えない勇者よりも、勇者の傍にいる子どもの方が厄介だ。消せと言ったではないか!』


 カーズ様の怒りの声と共に、首輪を通して激痛が走る。でも、痛みには慣れているから痛みを堪えながら私は言う。


 それに、さっきの少年の笑顔を思い出すと、いつもよりも痛みが弱いように感じる。


「……相対しましたが、それほどではありません。私を見て怯えていました。それに、彼は殺すには惜しい存在です。懐柔できれば、我々にとっても有益となるでしょう」


 一瞬の沈黙の後、カーズ様は口を開く。


『……まぁ良い、人間と魔物のハーフである奴隷のお前は、私の命令を聞いていればいい。聖杯の力を使い、勇者にまつわる物を盗んで来い!』

「承知いたしました」


 それきり、カーズ様の声は聞こえなくなった。


 寝転びながら、机の上に置いてある魔法の聖杯に目を向ける。今夜、この街の神殿に盗みに入る。


 目を瞑ると、どうしてもあの少年の顔を思い浮かべてしまう。無邪気で、困っている人を放っておけない、そんな少年の純粋な笑顔を。

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