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十歳最年少の特級魔法使い、勇者の魔法を解析しながら魔王討伐の旅に出る  作者: 赤松勇輝
序章 特級魔法使いライズの旅立ち

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冒険にいってらっしゃい!

 目の前で起きた爆弾の爆発の威力を見て、俺は満足して頷いた。


 煙が晴れると、標的として置いていた合金製の盾が跡形もなく消し飛んでいた。


 まぁ、魔法で張った防壁のおかげで部屋の破壊は免れたけど、爆撃の余波で王宮が大きく揺れてしまったのは想定外だった……。


 過ぎたことを考えてもしかたない。気を取り直そう。


 頷いてから背後に目を向けると、王冠を被った王様や兵士たちが呆然と口を開けているから、咳払いを一つして、俺は口を開く。


「どうですかこの魔道具の威力は! これなら、魔物が攻めてこようと木っ端微塵です! 護身用にもなりますよ!」


 俺は魔道具の会心の出来具合に、嬉しさが込み上げてくる。これがあれば、魔物に怯えなくても済む。魔物に不安がってる人が持てば、安心することができるはずだ!


 いやぁ、すごいものを作り上げっちゃったよ。


 頭の後ろをさすりながら王様の顔を見たけど、あまりいい顔をしてない。王様の視線を受けて、血の気が引いていくのを感じる。


「……ライズ! こんなに高火力のものを作り上げても、城では使えないではないか!」

「えっ!?」


 俺は褒めてもらえると思ったのに、怒られたことにびっくりして王様に言い返せない。


「宮廷魔法使いのお前に依頼したのは、安全に使用できる護衛用の魔道具だったはずだ。護身用とは、兵でも民でも誤って使っても死者が出ないことだ。ライズ、お前のそれは、危険なただの兵器だ」

「…………」


 ……そうだった。


 俺が王様から依頼されていたのは、護身用の魔道具だった。近年、魔王を筆頭に魔族の人間社会への侵攻が進んでいるから、それに対抗できるものの作成を頼まれていた。


 だけど、作っているうちに楽しくなっちゃって、王様から言われた目的をすっかり忘れてしまっていた。


 ローブの端をギュッと抑えて、しゅんとする俺に、王様はため息をつく。


「この爆弾の開発で研究室を、何度爆発させて消滅させたことか……。前にも、城の結界の強化をお願いしたが、強化しすぎて街に誰も入れないようにしてしまったことがあったな」


 色々な俺の失態を言われて、胸がズキッとする。


 俺は、困ってる人が喜べるような魔道具を作りたかっただけなのに……。


 特級魔法使いになって宮廷に呼ばれて働き始めたのも、おばあちゃんの弟子のアストリアに誘われたのもあるけど、一番は色々な困った人の手助けができると思ったからだ。


 それなのに、迷惑をかけてしまったら元も子もない。


 王様は額に手を当てて、ため息をつく。


「ライズに魔法使いとしての力量があるのは認めるが、あくまでもお前の立ち位置は宮廷魔法使いだ。私の指示したものを作れないのなら、いくらアストリア殿の推薦であろうと、これ以上ここで働いてもらうことは難しいぞ」


 王様の冷ややかな目を見て、俺の背筋は凍りつく。冷や汗が出てきて、体も震えてくる。


「勇者も旅立ち、魔族との戦いがより激しさを増すであろう状況で、不安定な魔道具を使用するわけにはいかない」


 言い返そうと思ったけれど、王様から睨みつけられて言葉が出てこない。周りの兵士たちの目も今まで以上に冷ややかに見えてくる。


 同じく宮廷魔法使いの人たちからも呆れたような表情や、くすくすと笑うような声も聞こえてくる。


 これ以上この場にいることが俺にはできない。


 もっとここで魔法で役に立ちたいという言葉が出てこずに、俺はギュッと手を握って、必死に涙を堪えて実験室を出るしかできなかった。



 実験室から自分の部屋に戻って、俺はベッドに倒れ込んだ。枕を抱きしめながら、さっきのことを思い出すと涙が止まらない。


「まーた、派手にやらかしたようね、ライズ」


 顔を上げなくてもおちゃらけた声だけで、アストリアだと言うことがわかる。世界最強と謳われた俺のおばあちゃんの弟子で、俺の師匠でもあるけど、しっかり教わったことはない。


 アストリアが魔法を使っているところを、見て奪っただけだ。


「聞いたわよ、あんた王様を怒らせたんでしょ。もう、言われた通りのものを作れってあれほど言ったじゃない」


 非難するような声色に、俺は少し腹が立ってくる。涙を枕で拭いてから顔を上げる。そこには赤い髪に黒い魔道服に身を包んだアストリアが、椅子に足を組んで座っているのが見えた。


「俺は王様が言ったものより、いいものを作ろうとしたんだ!」

「それが人の役に立たないんじゃ元も子もないでしょうが」

「……アストリアまで俺のことを馬鹿にするなんて。……くそ、どうして誰もわかってくれないんだよ!」


 俺はただ魔法で困っている人の役に立ちたいだけなのに。どうして、誰も俺の気持ちをわかってくれないんだ。


 悔しくて、また涙がポロポロと出てきてくる。


「あんたにはまだ早かったようねぇ」

「……何がだよ」


 俺の質問に答えるよりも前に、アストリアはクスッと笑みを浮かべた。


「あんた、冒険してみる気はない?」

「冒、険?」

 

 どうして急にそんな話になるのかわからないから、俺はアストリアのことを見上げるようにして見る。


「そう、冒険。あんたは、白髪に赤目で見た目だけはお人形みたいで可愛いけど、まだまだ世間知らずな生意気な子どもでしょ」

「……俺は子どもじゃない。特級魔法使いだぞ!」

「年齢は十歳の子どもでしょうが——で、今まで部屋にこもって生活してきたでしょ。だから、今度は外に出て色々な経験を積みなさい」

「そんなの必要ない! 俺は、ここでもっと魔法の研究をして、人の役に立てるようになるんだ!」


 アストリアは肩をすくめると、ニヤリと笑う。


「まっ、王様にはもう言ってきちゃったんだけどね。私から、ライズはしばらく魔法の修行の旅に出させることにしましたって」

「なんだって!? 俺に何も言わないで勝手なことするなよ!」


 怒鳴ったけど、アストリアは全然気にしていない様子で続ける。


「もともと、ライズは私の推薦で宮廷魔法使いになれたんだから、私が言えば、どうとでもなるのよ」

「……そんなぁ」


 冒険してこいって言われたって、今まで研究ばっかりしてきた俺は、外に出て冒険なんてしたことない。


「で、でもさ外には危険だし、魔物だっていっぱいいるんだろ? ……俺一人で冒険なんて無理だよ」

「急に子どもっぽくなってもダメよ。あんたは特級魔法使いで、子どもじゃないんでしょ?」

「そ、それは、そうだけど……」


 魔法は使える。試験で人と魔法の対決はしたことあるけど、魔物との戦闘経験なんてほとんどない。


 そんな俺が一人で冒険するなんて……。


「心配はご無用よ。何も、一人で旅してきなさいって言うわけじゃないわ」


 そう言って、アストリアはローブの中から手紙を取り出した。


「オーネスの村にいる水色の髪をした——あんただったらすごく気になる魔力を持った女の子にその手紙を渡してちょうだい。その子があんたの同行者になってくれるはずよ」

「気になる魔力?」


 気になる魔力という言葉に、俺は少しだけ興味を惹かれた。困っている人のために魔法を使いたいって気持ちはあるけど、俺にはもう一つ好きなことがある。


 それは、魔法の研究だ。


 気になる魔力なんていうものがあるんだったら、すぐにでも調べたい!


「それに、冒険をしていく中であんたの力を必要としている人がいるかもしれないでしょ? 城じゃできない人助けの経験もできるかもしれないわ」


 そんなふうに言われると、駄目だってばっかりは言えなくなっちゃう。


 城にいれば色々な魔法の研究をしながら、困っている人のために魔法を使えるかもしれないけど、冒険に出れば気になる魔力を持った人に会えたり、冒険をしながら困ってる人の役に立てるかもしれない。


 城にいても、冒険をしても、あんまりやることは変わらないんじゃないか?


 それなら、別に城を出て冒険をしてもいいと思うけど、やっぱり魔物のいる外を一人でうろつくのは怖い。


「でも、やっぱり……」

「そういうわけだから、今すぐ行ってもらうわよ!」


 俺が何かを言う前に、アストリアが指を鳴らすと俺の足元に魔法陣が出現。青緑色の魔法陣は水と風属性を複合させた魔術だ。


 アストリアが展開した魔法陣から読み解けるその魔法は——


「転移魔法じゃないか!」

「オーネスの村まで飛ばしてあげるわ。荷物は、そのなんでも入れられるポーチがあれば大丈夫でしょ。全く、転移魔法なんて私からすれば、破格の措置なんだから、旅立つ弟子の餞別にはなるでしょ」

「……ならないよ。だって、この術式間違ってるもん」


 アストリアの転移魔法には魔法陣の術式にところどころミスがある。このまま魔法を発動されてしまったら、俺は怪我じゃ済まない。


 着ているローブの懐から杖を取り出して、一振りすると足元の魔法陣の術式が書き換わる。これで、完全な魔法陣となって転移魔法が発動する——


「って、もしかしてわざと間違えたでしょ! 俺が間違ってたら指摘するってわかってて」

「気づくのが遅いわよ。さっ、頑張ってきなさい」


 魔法陣が一際大きく輝いて——



 魔法陣の光が落ち着くと、ライズは部屋から姿を消した。転移魔法によってオーネスの村に到着したことだろう。


 天井にグッと腕を伸ばしていると、扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 返事をすると、王様が部屋に入ってきた。部屋の状況を見て、王様は嘆息した。


「……ライズは行ってしまったのか?」

「まぁ、そう言う筋書きでしたからね」


 私は立ち上がって、王様を見やる。


「あの子、生意気ですけど私以上に実力はありますからね。でも、部屋にこもって研究ばっかりで、外のことをあんまり知らないんですよ」

「だからといって、あのような健気な少年を泣かせて……。追い出すような形にするのは気が引けたぞ」


 王様は心底心苦しそうに、嘆息している。まぁ、私としても可愛い弟子をはめるような真似をするのは気が引けたけれど……。


「あぁでもしないと、あの子、いつまでも部屋にこもって研究してる、ただの魔法バカになっちゃうじゃないですか。だから、一芝居打たせてもらったんですよ」


 特級魔法使いの試験に受かった後で、宮廷魔法使いに任命させる。ライズは魔法の研究が大好きだから、王様の要求以上のものを作る——でも、求めているものはそういうものじゃないということを知らしめて、旅に出て色々と経験させる作戦。


「その上、あの気難しい勇者にあてがうなど……」

「あの子には悲惨な過去がありますからね——でも、何も考えていないわけじゃないですよ。ライズならあの勇者ちゃんの過去を払拭できると思うんですよね」

「魔法の解析ができるからか?」


 私は首を振る。


「それもありますけど、ライズの前向きなところが、勇者ちゃんを前に進ませてくれる——そんな風に思うんですよね」


 私が答えると、王様もフッと笑った。


「……十歳の少年に委ねるのも負担が大きかろうが、ライズならやり遂げてくれるだろう」

「もちろんです! 何せ、ライズは最年少特級魔法使いですから!」


 私がウインクをして言うと、王様もしっかりと頷いていた。


 それから窓の外に目を向ける。


 ……ライズ、あんたに任せたわよ。

隔日で投稿していきます。

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