うちの妹は悪役令嬢かもしれない
私は極度の人見知りで、人との交流ができない。だからこうして、物語の世界で交友も交際も堪能している。私ほど物語を読んでいる令嬢はいないでしょう。
今日は身分差恋愛の本を手に取った。かっこいいヒーロー、立場が弱いながらも芯のあるヒロイン、そして、そんな二人の仲を引き裂こうとする邪魔者。王道の良い物語──んん?
しかし、読み進めれば読み進めるほど、この邪魔者が妹のように見えてきた。自分本位で我儘なところも、格が下の者を見下しているところも、高笑いするところも、ずる賢いところも全部、妹にぴったりと当てはまる。
そして、妹のクラスには特待生として入学してきた平民の少女も、王子様達もいる。舞台背景ですら妹の悪役令嬢度を上げてしまっている。
もしこの作品のように、妹が断罪されてしまっては困る! 実に困る! 妹がいなければ、妹が間に入ってくれなければ、私は人と交流ができない! 妹を断罪させるわけにはいかない! 悪役令嬢、脱却させないと!
◇◆◇◆◇
妹を悪役令嬢から脱却させる為に、まずは妹の悪役令嬢度を測らなければいけない。なんか主人公みたいでワクワクしているのは気のせいでしょう。
今日一日妹を観測して、その後脱悪役令嬢の為に作戦を立てなければ。
「お姉様。一体そこで何をしているんですの?」
「ひょええええ⁉︎」
妹は睨みを効かせ、私を見つめている。普段は気にしていないどころか自分と似ているからアレだけど、悪役令嬢として見ると、金髪赤目がより悪役令嬢らしさを際立たせてしまっている。
「あまり変な事なさらないようにしてくださいまし。行きますわよ」
妹は悪役令嬢のように後ろ髪をファサーと掻き上げた後、二人の少女を引き連れて私の隣を通っていく。
二人の少女が私に挨拶しようとすると、妹は意味がない事はおやめなさいと、そのまま連れて行ってしまう。
……間違いない。妹は身分が、いや私の場合だから人としてだけど、劣っている人間を見下しているし、あの二人は取り巻きだ! やはり悪役令嬢なのかもしれない!
◇◆◇◆◇
お昼の時間になり、食堂の離れた席から妹を観測する。取り巻きと仲良さそうに談笑をし、特に悪役令嬢の気配は感じない。
ヒロインポジの平民の少女が妹の近くを通ると、視線を一瞬そちらに送るくらい。ヒロインを気にするのは悪役令嬢らしいといえばらしいけど、悪役令嬢判定するほどの物でもないし、スルーでもいいかもしれない。
妹も食事を終えたようだし、私もそろそろ教室に向かおう。
私が立ち上がった瞬間、ガシャんと鋭い音が食堂に響いた。
私ははっきり見た。妹が取り巻きの方を見ながらコップを床に落とした瞬間を。
妹が溢した水と割ったガラスを掃除している清掃員を、妹は笑みを浮かべて口を動かしている。
あれは、身分が下の者に強制労働させて悦に浸っている⁉︎ まさしく悪役令嬢!
うう、姉として、妹がこれほどまれに悪役令嬢だったという事実は結構重い。
我儘で自尊心高くて私を嘲笑うような妹だけれど、それでも会話を担ってくれたりと可愛げのある妹だったのに。きっと強く出られなかった私が妹を悪役令嬢と呼ぶに相応しい人物にしてしまったのだろう。やはり姉として、妹を悪役令嬢から淑女へと矯正しなければ!
肩を落としながら廊下を歩いていると、妹が殿下方と仲良くしている平民の少女を睨んでいるのが目に入った。
私ですら見た事がない鋭い表情。あれはまさしく嫉妬に違いない!
殿下との婚約話、幼い頃、私があまりに他者に対して拒否感示しすぎて泣き喚いて無くしてしまったから、あの表情を見て妹に対して強い罪悪感を抱く。
だけど、それはそれとして、ヒロインに強い嫉妬を抱くのは断罪までの道のりがぎゅっと短縮される危険な合図!
「ちょっとあなた。あとで少し時間を寄越しなさい」
ああああーーー! やっちゃったー! ついに悪役令嬢断罪回避不可展開への道筋が整ってしまったー! 物理的にも精神的にもヒロインである平民の少女を追い詰めて、それが原因で殿下方が直々に妹に断罪を言い渡してしまう! やめて! お姉ちゃんあなたがいなくなったらどうやって生きていけばいいの⁉︎
どうにかして、平民の少女に手を出すのだけは止めないと。
私は授業をサボり、ひたすらに妹の動向を観察した。
そして放課後、強引に平民の少女の手首を掴み、どんどん人気の少ない方へと向かっていき、整備されていない中庭のようなところまできた。
妹にバレないように行動したせいで、私は小枝と泥でボロボロである。
一体何をするつもりなのか。泥水をかけるのか、突き飛ばすのか、それとも髪や服を切り刻んでしまうのか⁉︎ 大丈夫だよ。私が妹の手を汚させはしない!
「誰もいないわね?」
「大丈夫です、いませんよ」
「そう」
妹は平民の少女の顎に手を添え、少し顔を上げさせた。
まず初めに口での攻撃から始まる物語の定石が染み付いていたせいですっかり反応が鈍ってしまった。
最初に物理攻撃なんて聞いてない!
私は止めようと立ちあがろうとしたけれど、服が枝に引っかかって動けなかった。
その間にも妹と平民の少女の距離は近づいていき、二人は唇同士を触れ合わせてキスをしてしまった! …………ん? キス?
もう一度よく二人を見る。うん、キスしてる。手指絡ませて握りながらキスしてる。一回口話して顔の角度変えてまたキスしてる。
────あら〜〜〜〜
え、何々そういう関係⁉︎ あの目、平民の少女じゃなくて殿下方に向けていたって事? 好きな子が男の子と仲良さそうにしてたから妬いてたってわけ? 何それ可愛い〜!
「あまり殿下方に近寄らないで下さいまし」
何そのセリフ〜! 悪役令嬢のセリフまんまなのに、恋する乙女のセリフに早変わり〜!
「急に距離を取っては殿下方のご厚意に失礼ですので」
「そんなの関係ありませんわ。あなたは平民よ。その理由を少しは考えてくださいまし」
妹の悪役令嬢セリフ全てが平民の少女が好きすぎるが故の言葉すぎてお姉ちゃんリアル物語展開に心臓持たないよ。
「身分差は関係ないと教えてくれたのはリスタルテ様なのに。それとも、私は今から公爵令嬢様に従わされてしまうの?」
「意地悪言わないで頂戴」
顔真っ赤にして押し負けている我が妹よ。ありがとう。身分差恋愛、それも下が上手なの大好物です。
それにしても、これはヒロインが悪役を絆して結ばれたという展開だと考えると、やはりうちの妹は悪役令嬢かもしれない。いやむしろ、悪役令嬢であるべきかもしれない。私の好み的に。
そして授業をサボったことにより、後日妹に怒られる姉が存在します。




