二人の出逢い。
江戸時代末期。かつて西の都から千歳家という平安時代から続く呪術を主とした家系が日本の裏から平和を祈り、護り続けていた。
時は20年以上も前。江戸に襲来してきた天人と呼ばれる宇宙人によって日本の鎖国時代は終わりを告げ、攘夷戦争と呼ばれる天人に武力で対抗すべく攘夷志士達が20年近く及ぶ戦争を引き起こした。
_遡ること20年前。
これは小さな寺子屋で出会う少年と少女の物語。
物語は2人を軸に回り、進んでいく。
鳥の囀りが聞こえる。それから見知った声もいくつか聞こえて、暖かな陽光に照らされながら坂田銀時は重い瞼を開く。
そこにはいつもの教科書を片手に授業をする松陽、手を挙げて松陽に質問しているヅラ、机に肘をついて授業を聞いている高杉達の姿が見えた。
いつもの光景、いつもの日常。俺は松陽から貰った刀を抱いて一番後ろに位置している場所に座り、壁に凭れて眠っていた。だが今日はいつもの日常ではなかった。そういえば2日ほど前に松陽が授業前に紹介したい奴がいるとか何とか話していて、今日がその紹介する回なんだろうな。実際に俺の周りで何人かざわついているし。
(てか紹介したい奴って誰だよ…まぁ、剣術とかなら誰にも負けねぇけど。)
眠たげに大きな欠伸をしていると松陽が教室に入ってきた。
「おはようございます。授業に入る前に先日話していた寺子屋に新しく加わる仲間を紹介します。」
松陽が引き戸の方へと顔を向けて「入ってきなさい。」と言えばガラガラと戸が開かれる音がして、俺は目線だけ音の鳴るほうへと向けた。そこには貴族と思しき白く美しい着物に簪やら装飾が華やかな俺達の同じ歳ぐらいの女の子が松陽の元までゆっくり歩いていた。
(随分と寺子屋に似合わねぇ奴が来たな。しかも女とは…。松陽のやつ、何考えてんだ?)
俺が悶々とそんな事を考えていれば女の子が松陽の隣にやってきて、松陽は女の子に微笑みかけながら俺達の方に顔を上げて口を開く。
「今日から私達と同じ学び舎に加わる杏奈です。さあ、君からも自己紹介をしなさい。」
松陽は女の子の肩に軽く手を置いて自己紹介を促すと寺子屋に鈴の音のような声が響いた。
「は、はじめまして。千歳杏奈といいます。不束者ですがよろしくお願いします。」
丁寧に自己紹介をして軽くお辞儀をしていれば周りの奴らは其奴に興味津々なのか目を輝かせていた。だが俺はそんなことよりもある事に驚いていた。
(千歳、だと…?)
彼女、杏奈の口からハッキリとそう聞こえた。
千歳…それは江戸から銀河まで名を馳せている有名な財閥だ。金、政治権力、社会的地位、全てを持っているであろうそんな凄いやつがなんで寺子屋に?てか、どうやって松陽と出会ったんだ?
ジッと杏奈を見つめていると彼女は俺の視線に気づいたのか少しだけ笑ってみせたが、俺はふいっと顔を横に逸らした。出会って早々、俺は彼奴が気に食わなかった。将来、詐欺師に高い壺でも買わされて騙されそうなあんなお人好しの女が寺子屋に訪れた事が俺は気に入らなかった。
「杏奈の席は…ちょうど銀時の隣が空いていますね。窓側の奥で刀を抱いている銀髪の子がいるでしょう?彼の隣に座りなさい。」
松陽が杏奈に教科書を渡すと彼女は「ありがとうございます、松陽様。」と言って受け取れば俺の方へと向かって歩いてきた。
うげっ!?しょ、松陽の野郎…!
「此処では皆が平等です。他の子と喧嘩をしたりすれば私のゲンコツで喧嘩両成敗です。まぁ、杏奈はそんな事しないと私は知っていますがね。」
ふんっ、そんなの分かんねーだろ。大人しい見た目とは裏腹に怪力ゴリラの可能性があるじゃねーか。
ああ、絶対にそうだ。あの女はきっとタチの悪いことを考える策を張る女だ。そうに違いない。
「銀時、杏奈に松下村塾について教えてやりなさい。それから彼女に道場の案内も頼みますよ。」
俺は松陽のその言葉に思わず「はぁ?」と不満に満ちた声を漏らした。
「こんな弱っちい奴に道場も教える必要あんのかよ。見るからに刀を握ったこと無さそうな感じだし。
それに…」
銀時、と松陽に呼ばれてピクっと止まる。松陽がジッと俺を見つめている。…なんなんだよ、松陽まで。
「人間は見た目で判断できるものではありませんよ。誰もが必ずしも秘めているものを持っているものです。」
「杏奈、銀時の言葉は気にしないでください。恐らく彼なりに女の子にかける言葉を探しているのでしょう。」
「ちっげぇーよ!!誤解を生む言い方すんな!!!」
本っ当になんなんだよ!此奴が来てから松陽まで変になりやがった、まぁ元々変な奴だけど…。
あーー本当に調子が狂う。こんな能天気でちんちくりんな女に何で俺がこんな役目押し付けられるんだよ。やるならヅラや高杉とかの方が適任だろ?隣の席だからって理由で任せやがって…松陽、絶対ぶちのめす。
「あ、あの。」
「…なんだよ。」
声を掛けられてぶっきらぼうに返せば杏奈は返事してくれた事が嬉しかったのか微笑みながら「お名前、聞いてもいいですか?」と小首を傾げて尋ねてきた。
「ふんっ、お前みたいな弱いやつはすぐ忘れると思うけど言ってやる。……坂田銀時だ。」
「銀時様ですね。これからよろしくお願いします。」
「様付けはやめろって。普通に名前で呼べよ。あと敬語も無しな、堅苦しいとこっちまで疲れる。」
俺の素っ気ない対応に驚くことなく寧ろクスッと笑いながら「わかった。」と頷いていた。
…此奴、顔だけはいいんだよな。背中まである色素の薄い金髪に毛先が淡い桜色…全てを見透かしているような綺麗な藤色の瞳に俺が映っている。
初めてみたかもしれない。こんな、こんなにも…
「綺麗だ…。」
「…?銀兄さん?どうかしたの?」
不意打ちで杏奈が俺に近づいて顔を覗き込みながら何処か心配げに見つめてきたからか、俺の心臓の鼓動は跳ね上がった。
なっ、ななな何してんだよこの女!!!?俺の心臓を捻り潰す気か?!
「銀兄さん、大丈夫?」
「…余計な心配だっつうの。てか何だよ、その呼び方。」
兄さん呼び…。なんかむず痒い感じがする、まぁ悪くはないけどな。
「松陽様から私以外は歳上だからって聞いたからね。だから銀兄さん。…もしかして、嫌だった?」
「…好きに呼んだらいいんじゃねーの。」
適当に返事をしていれば杏奈は顔を輝かせて「うんっ!」と人懐っこい笑顔で頷いた。
此奴、本当に騙されそうで心配になるな…。
(…まぁ松陽に言われたからには仕方ない。少しだけ面倒みてやるよ。)
…これが、俺と杏奈の出逢いだった_。
to be continued_。
《次回》
寺子屋で出会った銀時と杏奈。杏奈を連れて寺子屋や道場ついて教える銀時、そんな銀時を『銀兄さん』と呼んでついていく杏奈との不思議な関係性を築き上げていく。
そして道場で竹刀を見つけて手に取る杏奈を見つけた銀時は、試しに手合わせをしようと彼女に提案して試合をすることになる。




