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新しい装備

街の喧騒が戻ってきた夕暮れ時。ギルド本部の裏手にある小さな露天商の一角、そこは探索者たちの“換金所”として知られていた。


 アイリスはフードを目深にかぶり、カイルと並んで露店の布製カーテンをくぐった。


 「……こいつらの装備、換金できるか」


 取り出したのは、先程倒した追いはぎどもの装備──軽量のボディアーマー、短剣、状態の良いリボルバー式拳銃、そして目玉となる光学迷彩マントだった。


 胡散臭そうな笑みを浮かべた中年の男が、手際よく品々を確認していく。


 「ふむ、これは市場に出せるな。合金ナイフは手入れすりゃ十分使える。拳銃も悪くない、古い型だけどな……おお、これは珍しいな。光学迷彩か」


 男はマントを念入りに裏返し、魔導線の通り具合を確かめてうなる。


 「出どころは怪しいが……まあ買ってやろう。合計──このくらいだ」


 机に置かれた革袋。アイリスが中を覗くと、銀貨と金貨が混じっていた。カイルが小声で「いい値段だな」とつぶやく。


 「……妥当だな。交渉する気もない」


 銀貨を受け取った瞬間、男の目が一瞬鋭くなった。だが、アイリスの腰元に見える簡易スリングと、彼女の目つきを見て、何も言わず黙って見送った。


 露店を出たアイリスは、夕闇に染まる街並みを歩きながら小声でつぶやく。


 「ユグド、次は装備の強化だ。リストは?」


 >「優先度:高──突撃銃本体(多用途モデル)、対人用ボディアーマー貫通弾、対機械用魔導徹甲弾、暗視および熱源探知機能付き戦術ゴーグル、整備用ツールキット、防御強化スーツ」


 「……まずは工房だな」


 「俺もついていく。銃のことは多少わかるからな」


 カイルが肩をすくめて笑う。


 金属を打つ音が遠くから聞こえてくる。アイリスとカイルは新たな戦いへの準備を胸に、足早に路地を抜けていった。


 ◇  ◇  ◇


 路地を抜けた先、街の片隅に位置する武装工房バルデン・ワークス。鍛冶場のように熱気がこもったその場所では、銃職人たちが火花を散らしながら魔導兵装の修理やカスタムを行っている。


 「いらっしゃい──って、そこの嬢ちゃん……探索者かい?」


 店主の初老の男は、アイリスの姿を一瞥し、すぐに目つきを変えた。探索者のそれと分かる目をしていたからだ。


 「新顔だな。何を探してる?」


 「多用途型の突撃銃。対人と対機械、両方対応できるやつ」


 「ふむ、なるほど。こっちの棚だ──おい、カイルの坊主じゃねぇか。あんたが連れてきたのか?」


 「まぁな。この子、ちょっと特殊なんだよ」


 工房の奥から持ち出されたのは、やや旧式ながらも実用に耐える突撃銃《ヴァルハルトAR-C》。高圧蒸気圧と魔導触媒を併用した、現代でも数少ない“混合式”の汎用モデルだった。


 「これが在庫の中で一番マトモだな。魔導徹甲弾とボディアーマー用貫通弾、どっちにも対応してる。切り替えは手動だが、整備性は高い」


 「視界支援装備もほしい。暗視と熱源探知、両方搭載したゴーグル」


 「こっちは少し値が張るが……」


 店主はニヤリと笑いながら、棚の奥から黒い革製の箱を取り出す。中には銀の縁取りのゴーグルが収まっていた。


 「《ナイトアイ・スコープ》。夜目も効くし、魔導熱源にも反応する。軽量で扱いやすい」


 アイリスは無言でうなずき、銀貨を差し出した。


 ──こうして、新たな装備が整っていく。


 銃を携え、視界支援も手に入れた彼女は、次なる戦場に向けて着実に歩を進めていた。


「……これで、全部だな」


武具工房から出たアイリスは、革製のポーチを手にしていた。中には、売却した装備の残り金がいくばくか――主に、追いはぎから奪った装備の価値によるものだ。


横にいたカイルが首を傾げる。


「それ、残しておかなくていいのか? まだ備品も――」


「足りてる。突撃銃、弾倉、ゴーグル……あと最低限のメンテ用品。今の私には十分」


アイリスは言って、ポーチをカイルに差し出した。


「これは預けておく。次の装備補充にでも使え。お前、回復薬もろくに持ってなかったろ」


「え、でも……!」


「貸しだ。返さなくていい。次にまたピンチの時、助けに来い」


その言葉に、カイルは少しだけ目を見開いた。


「……お前って、ほんと変なやつだな。でも、そういうの、嫌いじゃない」


「じゃあ、行く」


夕暮れの空に、少女の銀髪が揺れた。新たな突撃銃を背負い、腰には新品の装具。だがその表情は、変わらず無表情だった。


──それでも確かに、そこには“決意”があった。


この世界で生き抜くために。再び戦場を歩むために。


そして、自分の過去に――けじめをつけるために。




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