境界の守護者
アーク・ゲート第三層──
私たちは厚い蒸気に包まれた通路を進んでいた。
壁面には旧世界特有の黒曜石パネルが並び、魔導符と蒸気演算管が埋め込まれている。
歩くたびに、足元から微かに熱が伝わる。
「ここから先が《コア・アーカイブ》への進入路だな」
ラゼルが刀を握り直しながら呟く。
「警戒して。防衛機構が稼働しているはず」
ルーンがフェアリーを飛ばし、前方の魔導波をスキャンする。
「隊長、ヴェクター・レヴァナントの調整は?」
アルスが横目で尋ねてきた。
「問題ない。弾道補正と冷却系統は最適化済みだ。
Type-RX改弾も装填済みだ」
「……さすがです。やっぱり隊長が持つと武器まで格が上がる」
アルスが小さく笑みを浮かべた。
通路の奥で、低い機械音が響いた。
蒸気の向こうに影が揺らめく。
「接敵。旧世界製オートマトン、三体」
ルーンの声が静かに響く。
「アルス、右から回り込め。
ラゼル、左を取れ。俺が正面を抑える」
「了解!」×2
私はヴェクター・レヴァナントを構え、通常弾モードで一気に引き金を絞った。
反動はほとんど感じない。
弾丸は空気を裂き、正面のオートマトンの額を正確に貫いた。
同時にラゼルが左から斬り込み、モノエッジ・ブレードで関節部を断ち切る。
右ではアルスの《Vex-45》が短い点射を繰り返し、残りを撃ち抜いた。
「クリア」
私は周囲を確認し、ヴェクターの銃身を軽く叩く。
「……やばいですねそれ。反動が皆無に近い」
アルスが目を丸くする。
「だからこそ、撃ちすぎない。冷却限界は短い」
私は警告を飛ばし、弾薬カウンターを確認した。
進行を続けると、ルーンが小さく息を呑んだ。
「……まずい。魔導波の強度が急上昇してる」
次の瞬間、通路全体が青白い光で満たされる。
壁面から浮かび上がるように、三体の巨大兵器が出現した。
《セントリー・ガーディアン》。
ARK-NET中枢を守護する自律兵器だ。
「蒸気圧駆動式フルアーマーに、魔導力場シールド付き……
正面からじゃ抜けない」
ルーンが端末を叩きながら分析する。
「なら、俺たちが横を取る」
ラゼルが刀を握り直し、アルスがマガジンを交換した。
「ラゼル、アルス、私が正面を牽制する。
お前たちは側面から狙え。ルーンはフェアリーでジャミングだ」
「了解!」
「フェアリー、干渉波最大出力!」
ルーンのフェアリーが高周波魔導波を放ち、ガーディアンの動きが一瞬だけ鈍る。
私はヴェクターを徹甲モードに切り替え、Type-RX改を装填した。
「──撃つ!」
黒銀の弾丸が空気を裂き、魔導シールドに突き刺さる。
遅延して崩壊するフィールド、蒸気が弾け飛ぶ。
その隙にラゼルが一閃し、関節部を切り裂いた。
「一体撃破!」
アルスが声を上げ、残り二体がこちらに狙いを定める。
「隊長、ガーディアンの制御回線を見つけた!」
ルーンが端末を操作しながら叫ぶ。
「二体目の行動制御を奪えるかもしれない。
ただし、私の演算力じゃ十秒が限界!」
「十分だ。やれ!」
ルーンのフェアリーから蒸気状の魔導信号が噴き出し、
ガーディアン一体の動きが完全に停止した。
「今だ、アルス!」
「了解!」
アルスが《Vex-45》を連射し、頭部センサーを撃ち抜いた。
残り一体が高出力レーザーをチャージし始める。
警告音が響き、蒸気が高圧で噴出する。
「避けろ!」
私は背部スロットから蒸気シールドカートリッジを引き抜き、展開コマンドを叩いた。
「《Veil-α》──展開!」
半球状の蒸気幕が前面に広がり、レーザー光が拡散する。
熱波が頬をかすめる中、私はヴェクターを構えなおした。
「──終わりだ」
一発のType-RX改弾が、ガーディアンの胸部コアを撃ち抜き、
青白い光が一瞬だけ脈動した後、巨体は崩れ落ちた。
戦闘終了後、ルーンが深く息を吐いた。
「……解析完了。
この先が《コア・アーカイブ》。ARK-NET本体の中枢よ」
ラゼルが刀を肩に担ぎ、アルスが銃を下ろす。
「ここからが本番ってことか」
「ああ。次は直接、ARK-NETの意志と向き合うことになる」
私はヴェクターの残弾を確認し、短く息を吐いた。
「──行くぞ」
アーク・ゲート最深部──《コア・アーカイブ》。
高密度の魔導波と蒸気の熱気が交じり合う空間で、私たちは立ち止まっていた。
中央に浮かぶ黒曜石の台座が、微かに鼓動するような低音を発している。
《交渉者、接続を確認》
《ARK-NET本体中枢との直結を開始します》
青白い光が空間を満たし、無数の魔導式演算管が一斉に稼働音を立てた。
空間中央に、蒼い光をまとった人型ホログラムが現れる。
その存在は、神秘と冷徹さを併せ持っていた。
《私の名はARK-NET。
旧世界統合防衛管理システム──現在は“遺物”と呼ばれている》
「遺物かどうかは関係ない。
ここまで来たのは、お前と交渉するためだ」
《交渉を受理。
ただし、試験段階はすでに終了している。
ここでは“選択”のみが求められる》
《付与可能資産:第二階層》
《提示──》
青いホログラムに、三つの装備候補が浮かび上がる。
ルーンが解析を開始し、瞬時に性能データを読み上げる。
A. 《マギ・ストラタス・インターフェース》
・分類:戦術統合演算ユニット
・機能:
・戦闘中に仲間全員の生体データと環境情報を自動解析
・最適な戦術パターンをリアルタイムで提示
・《ヴェクター・レヴァナント》とリンクすることで射撃補正がさらに+30%上昇
・リスク:
・演算負荷が高く、ルーンの端末が常時稼働状態になる
・敵の妨害魔導波に弱く、制御を奪われる可能性あり
B. 《ヴァンガード・ユニット拡張モジュール》
・分類:魔導蒸気圧駆動型外部アタッチメント
・機能:
・小型タイタン兵装を遠隔制御可能
・既存のクロウズ・ネスト装備と互換性が高い
・市街戦での制圧力を大幅に向上
・リスク:
・エネルギー消費が莫大で、連続稼働時間は3分限定
・制御権限はARK-NETと共有になる
・C. 《ヘリオス・リフレクター》
・分類:携行式高出力防御装置
・機能:
・魔導粒子を収束させ、最大15秒間の不可視バリアを展開
・対徹甲・魔導弾・爆発物すべてを無効化
・再展開まで60秒のクールタイム
・リスク:
・バリア展開時、使用者の神経負荷が大きい
・高熱発生のため、冷却カートリッジが必須
「隊長、Aの《マギ・ストラタス》が一番安全です」
ルーンが端末を操作しながら言った。
「俺はBだな」
ラゼルが即答する。
「タイタンを遠隔制御できるなら、市街戦で死者を減らせる」
「俺はCを推します」
アルスはきっぱり言った。
「隊長が前に出るなら、防御力を上げるべきです。
あなたに何かあったら、このチームは終わりですから」
私は三人の意見を黙って聞き、視線をARK-NETに向けた。
「……選択する」
私は短く息を吐き、告げた。
「──A、《マギ・ストラタス・インターフェース》を要求する」
《要求受理》
《資産転送開始》
《戦術統合ユニットのデータ、クロウズ・ネスト装備群に同期中》
ルーンの端末に、新たな戦術インターフェースが流れ込み、フェアリーの光が一瞬だけ強く輝いた。
「これで、戦術支援能力が倍増する……!」
ルーンの声がわずかに震えている。
《警告》
《コア・アーカイブへの第三者侵入を検知──》
《ID:帝国特殊部隊/IMC強襲課》
《残り時間:180秒》
「……来たか」
私はヴェクター・レヴァナントを構え、ラゼルと視線を交わす。
「隊長、どうする?」
「戦う。ここで引くわけにはいかない」
アルスが短く笑った。
「じゃあ、ここからは俺たちの戦場だ」




