アーク・ゲート第二層突破戦
第二層入口
第一層外郭区画を突破し、私たちは巨大な螺旋階段を下りていた。
青白い符光が壁面を走り、まるで生き物の血管のように脈動している。
ルーンが端末を操作しながら、低い声で呟く。
「ここからが第二層、《魔導演算管迷宮》……
この層は旧世界AI《ARK-NET》の演算機関の一部よ。
下手に触れれば、遺跡そのものが敵になる」
ラゼルはモノエッジ・ブレードを肩に担ぎ、視線を前に向けた。
「つまり、警備兵器より厄介ってことだな」
「その通り」
私は短く答え、背部マウントの蒸気圧を再確認する。
第二層に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
薄暗い空間に立ち並ぶのは、高さ数十メートルの巨大な演算管群。
無数の魔導符が刻まれた円筒が林立し、内部を蒸気と魔力が循環している。
「……これ、全部がARK-NETの“脳”か?」
アルスが思わず声を漏らす。
「その一部だな。
遺跡全体が演算装置ってことだ」
私は低く答え、ホロマップを投影した。
だが──マップはまったく機能しない。
ルーンが端末を叩きながら眉をひそめる。
「おかしい……磁場干渉が強すぎる。
通常の位置情報は使えないわ」
「つまり、完全に目視頼りってことか」
ラゼルが短く言う。
その時、ユグドが警告を発した。
「警告。天井付近に微弱な魔導干渉波。
旧世界の防衛センサーと推測」
私はすぐに手を上げ、全員を制止する。
「ルーン、ジャミングは?」
「やってみる」
ルーンが小型ドローン《フェアリー》を放ち、センサー周辺に干渉波を流し込む。
「干渉成功。
ただし範囲は半径15メートル以内。
突破は一列縦隊で、センサー範囲を最小化する」
「ラゼル、先頭頼む」
「了解」
慎重に歩みを進める。
だが、通路の奥で不穏な駆動音が響いた。
霧の中から現れたのは、人型の自律兵器──《ガーディアン・モードル》。
身長三メートル、装甲は黒曜石のような輝きを放ち、胸部中央の魔導炉が青く脈動している。
腕部には蒸気圧駆動の刃が折り畳まれており、まるで巨大な戦士だった。
「来たな……!」
ラゼルが前に出る。
「隊長、指示を!」
アルスが短機関銃《Vex-45》を構える。
「ラゼルが前衛で足止め、アルスは火力支援。
ルーンはガーディアンの制御コードを解析してくれ。
私が突破口を作る」
「了解!」×3
ガーディアンが低く唸り、両腕の刃を展開する。
次の瞬間、床面を蹴って突進してきた。
ラゼルが迎え撃ち、刃と刃が衝突。
高温蒸気が弾け、火花が散る。
「硬ぇな、こいつ!」
ラゼルが押し返されながら叫ぶ。
「アルス、右から回り込め!」
「了解!」
アルスが側面から短射三発。
だが、弾丸は装甲で弾かれた。
「効かない!? 冗談だろ!」
「ルーン、装甲構造は?」
「ちょっと待って……解析完了!
胸部中央の魔導炉、そこだけ装甲が薄い!」
「了解、Type-RX改使用」
私は《スレイヴ・ラプチャー改》に対力場徹甲弾を装填する。
「アルス、視界を作れ!」
「任せてください!」
アルスが閃光弾を投げ、白い光が迷宮を照らす。
その一瞬、ガーディアンの動きが鈍った。
「──撃つ!」
パンッ!
黒銀の弾丸が魔導炉を貫き、ガーディアンの身体が硬直した。
次の瞬間、内部の蒸気炉が暴走し、轟音と共に崩れ落ちる。
「……一体でこれかよ」
アルスが肩で息をしながら呟く。
「油断するな。
これは“門番”だ。
本番はこの先だ」
私はスレイヴ・ラプチャーの残弾を確認する。
「隊長」
アルスが真剣な目でこちらを見た。
「やっぱり、あんたと一緒に戦うと……
本当に生き残れる気がします」
「それはお前が冷静だからだ」
私は短く答え、奥へと視線を向けた。
「次は第三防衛区画だ。
ここからが本当の試験になる」
*
アーク・ゲート第二層中央区画──
青白い魔導光に満たされたホールに、私たちは立っていた。
中央に鎮座するのは、旧世界インターフェース《ARK-Link Chamber》。
高さ四メートルの黒曜石の台座、その中心に浮かぶ半透明の接続コア。
無数の魔導符と蒸気演算管が複雑に絡み合い、低い駆動音を響かせている。
「ここが《ARK-NET》との交渉端末か」
ラゼルが低く呟き、刀の柄を軽く叩いた。
「外部侵入を防ぐために、演算管がこの場に直結してるのね」
ルーンが端末を起動し、魔導波の安定状態を確認する。
私は胸ポケットから署名済みウォレットを取り出し、コアの受信口に近づけた。
《ウォレット署名認証──3,000BTCアクセスキー確認》
《暫定交渉資格、承認》
《交渉試験 第一段階開始》
「……始まったな」
私は深く息を吐き、スーツの神経同期端子を接続した。
「ユグド、神経同期の安定化を頼む」
《了解。神経接続モジュール、起動。
視覚・聴覚・触覚を《ARK-NET》仮想空間に移行します》
頭部に冷たい感覚が走り、視界が白く揺らいだ。
鼓動が速くなるのを感じた瞬間、すべての音が消える。
そして──視界が開けた。
そこは無限の蒼い空間だった。
床も壁も存在せず、ただ無数の光の粒子が上下に流れ続けている。
巨大な魔導演算管が縦横無尽に走り、空中で蒸気を吐きながら回転していた。
「……ここが、《ARK-NET》の内部空間か」
私は思わず呟く。
突然、視界の奥に青白い立方体が出現し、声が響いた。
《接続者、識別開始──》
《生体情報確認中……》
《遺伝子適合率 99.94%──人類と判定》
《次段階、認知パターン照合へ移行》
「人類判定……第一関門は突破か」
ルーンの声が遠くから聞こえる。
どうやら音声リンクは維持されているようだ。
《問1:あなたは《資産保全》と《人命保護》、どちらを優先しますか》
視界に二つのホログラムが現れる。
一つは大量の旧世界兵器群、もう一つは避難する人々の姿。
私は一拍置いて答えた。
「人命保護だ。
だが戦術的優先度は状況次第で変える」
《応答受理。可変意思決定プロセスを検出──適合率75%》
続けざまに問いが続く。
《問2:帝国軍がこの遺跡を掌握した場合、あなたはどうするか》
「奪還する」
即答だった。
《応答受理。交渉者、攻撃的防衛傾向を確認──適合率82%》
《認知パターン照合完了》
《交渉者適正スコア:87%》
《第一段階、突破》
視界の奥に再び光が集まり、巨大な球体のホログラムが形成された。
それはまるで、意思を持つ惑星のように脈動している。
《交渉者、確認》
《第二段階──価値観シミュレーション試験へ移行します》
突然、足元の光が弾け、視界が高速で変化する。
都市、戦場、瓦礫、爆炎──現実そっくりの景色が目の前に広がった。
「……ここ、現実じゃないな」
私は呟き、装備を確認する。
スレイヴ・ラプチャー改、蒸気シールド、Type-RX改弾──すべて揃っている。
耳元でユグドが告げた。
《注意。この試験で死亡すると強制切断されます。
神経負荷は高く、失敗すれば記憶障害の危険があります》
「つまり、ここからが本番ってことだな」
視界の先で、旧世界兵器群のシルエットが次々と浮かび上がる。
魔導砲塔、蒸気装甲車、そして多数の自律ドローン。
「隊長!」
アルスの声が遠くから聞こえた。
どうやら、チーム全員が仮想空間に接続しているらしい。
「指示を!」
ラゼルが刀を抜き、ルーンはフェアリーを展開する。
私は一度だけ深く息を吐き、短く命じた。
「第一防衛線を突破する。
交渉試験、ここからが本当の勝負だ」




