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作戦準備

リヴィネス市街地下、クロウズ・ネスト本拠。

 暗い作戦室の中心で、ホログラム投影機が淡い光を放つ。

 映し出されたのは、IMC極東支部の交渉官──レイナ・ヴァルクだ。


「もう一度考えてほしいわ、アイリス」

 彼女は組んだ腕を解き、静かな声で告げた。


「クロウズ・ネストをIMC傘下に迎える用意がある。

 報酬は5,000BTC。さらに旧世界データベースの共有権限も付与する」


 私は短く息を吐き、ホログラムの向こうを真っ直ぐ見据えた。


「……悪いが、話は聞けない。

 クロウズ・ネストはどこにも属さない」


 レイナはわずかに口角を上げる。


「独立を貫くつもりね。

 けど覚えておきなさい、旧世界の遺物に手を伸ばすなら、どこかに後ろ盾は必要よ」


「後ろ盾なら、仲間がいる」


 レイナは薄く笑みを浮かべ、通信を切った。

 ホログラムが消え、作戦室は静寂に包まれる。


 ユグドの電子音声が響く。


「IMCとの交渉終了。

 取得資産:3,000BTC、ARK-NET接続用署名キー保持」


「よし……準備に入る。遺跡へ行くぞ」



  装備を整えた私は、仲間たちを集めた


 ラゼル、ルーン、アルス──今回選ばれた三名だ。


「今回の任務は《アーク・ゲート》への潜入だ。

 目的はARK-NETとの交渉。

 旧世界の遺物や装備を入手する」


 ラゼルは腰の《モノエッジ・ブレード》を軽く叩きながら頷く。


「交渉中は俺が前衛で抑える。何があってもお前は守る」


 ルーンは端末を開き、遺跡の断面図をホログラムに投影した。


「内部は三層構造。

 外郭は蒸気圧駆動の旧式防衛機構、第二層は魔導演算管だらけ。

 交渉室は最深部で、生体認証とウォレット署名が必要。

 アイリス、入れるのはあなただけ」


「分かってる。ルーンは外でバックアップを頼む」


「任せて。私の指示に従って」


 その横で、アルスが無言で《Vex-45》を分解し、再度マガジンを装填した。

 彼は新品同様の短機関銃を構えたまま、真っ直ぐ私を見た。


「……一つだけ言わせてください」


「なんだ」


「俺、クロウズ・ネストに入った理由は、あんたと一緒に戦うためです。

 オペレーション・ファントムの時、あんたが帝国部隊を潰したのを見た。

 正直、あれを超える奴はいないと思ってます」


 ラゼルが鼻で笑った。


「お前、相変わらず言葉が重いな」


「事実です」


 私は短く答えた。


「……期待に応えるつもりはない。

 だが、生き残りたいなら、勝手な行動はするな」


「了解しました、隊長」



 全装備を最終チェックし終えた私は、胸ポケットにあるウォレットを指でなぞる。

 冷たい金属の感触が、これからの交渉の重みを思い知らせた。


「遺跡は生き物みたいなもんだ。

 油断したら噛み殺される。

 今回は、突破じゃなく“接触”だ。覚えておけ」


 ラゼルが頷き、アルスが短く答えた。


「了解」


 ルーンは端末を閉じ、フェアリーを肩に装着した。


「じゃあ行こう。時間は限られてる」


 私は深呼吸し、仲間たちを見渡した。


「――出発する」



リヴィネス北方荒野へと続く街道。

 クロウズ・ネスト専用の蒸気圧魔導車クロウズ・ランナーが、濃い蒸気を吐きながら走っていた。

 外装は黒鉄で補強され、側面には魔導封鎖ルーンが刻まれている。

 車体後方の二基の魔導炉が唸り、車輪に伝わる振動が床を揺らした。


 運転席でユグドの音声が響く。


目的地アーク・ゲートまで残り32キロ。

 想定到達時間は約50分」


 後部座席に座るラゼルは、《モノエッジ・ブレード》を点検しながら淡々と呟く。


「遺跡周辺は魔導瘴気が濃い。

 防衛兵器よりも、瘴気に引き寄せられた“異形”に注意しろ」


「異形……?」

 アルスがわずかに身を乗り出す。


 ルーンは端末を操作し、ホログラムに簡易地図を投影した。


「遺跡近くは旧世界の魔導炉が地下で暴走してる。

 そのせいで蒸気に含まれる魔力濃度が異常に高いのよ。

 だから周囲では、動植物が変異した魔導異形種がよく出る」


 私は短く頷く。


「つまり、遺跡に近づくほど、モンスターの密度も上がるってことだな」



 クロウズ・ランナーの車体が急停止する。

 ユグドの声が低く響いた。


「警告。前方800メートル、魔導反応多数。

 推定個体数、十二以上」


 荒野の先で、蒸気が白く濃く立ち込める中──それは現れた。

 四足の異形獣スチーム・ハウンド

 体毛はなく、皮膚には黒鉄のような鱗が走り、関節部から蒸気を吹き出している。

 魔導瘴気で変質した骨格は歪み、顎は常軌を逸した長さに伸びていた。


「来たな……」

 ラゼルが刀を抜き、車体から飛び降りる。


 アルスが短機関銃《Vex-45》を構え、私に視線を送った。


「指示を!」


「ラゼルは前衛、アルスは右から援護射撃。

 ルーンは後方で魔導干渉を監視しろ。

 私が中央突破する」


「了解!」×3



 先頭のスチーム・ハウンドが低く唸り、突進してきた。

 ラゼルは刀を逆手に構え、蒸気を噴き上げながら駆け出す。


「──斬り伏せる!」


 金属音と共に、モノエッジ・ブレードが光を放つ。

 魔導振動刃が異形の装甲を切り裂き、血と蒸気が一瞬で霧散した。


 同時に、右から回り込んだ個体へアルスが短射三発。


 パンッ、パンッ、パンッ──

 低音の発射音が響き、弾丸が異形の肩を穿ち、動きを止める。


「命中、二体行動不能!」


 その報告と同時に、さらに三体が側面から接近。

 私は背部マウントのスイッチを叩き、短く構文を唱えた。


「《Veil-α》──展開」


 ゴウンッ!

 高圧魔導蒸気が噴出し、半球状の蒸気幕が前方に広がる。

 突進してきた異形獣の牙が幕に触れた瞬間、動きが一瞬鈍る。


 私はその隙に《スレイヴ・ラプチャー改》を構えた。


「Type-RX改、使用──撃つ」


 パンッ──!

 黒銀の弾丸が放たれ、最前の個体の頭部を一撃で粉砕した。



 背後からルーンの声が飛ぶ。


「待って、右後方の個体群、蒸気信号を利用して連携してる!

 魔導干渉コードを割り込ませる!」


 端末から放たれた小型ドローン《フェアリー》が高速で飛び出し、

 異形群の上空に小さな魔導撹乱フィールドを展開。

 接続していた個体群が動きを乱し、混乱に陥る。


「今だ、アルス!」


「了解!」


 アルスの《Vex-45》が唸り、二体がその場で崩れ落ちた。



 ラゼルが最後の一体を刀で両断し、蒸気が霧散する。

 荒野に再び静寂が訪れた。


「異形十二体、殲滅完了」

 ルーンが端末で魔導反応を確認する。


 アルスは銃を降ろし、息を整えながら私を見た。


「……やっぱりすげぇな、隊長。

 群れ相手にまったく迷わねぇ。

 俺、あんたに着いてきて正解だった」


 私は短く答えた。


「褒めてる暇があったら弾倉を交換しろ。

 まだ先は長い」


「了解!」


 クロウズ・ランナーに乗り込み、再び魔導炉が唸りを上げる。

 蒸気を吐きながら車体が加速し、夜の荒野を突き進んだ。

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