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密命

夜、リヴィネス市街地下。

 許可を受けた者しか立ち入れない隠し階段を降りると、

 そこに《クロウズ・ネスト》の本拠があった。


 薄暗い部屋に響く、無数の電磁通信端末の唸り。

 冷却管を流れる水の音がかすかに反響する。


 アイリスは重厚な扉を抜け、司令卓の前に立った。

 卓上のホログラムが赤いシンボルを映し出す。


《CROW’S NEST – OMEGA PROTOCOL》


 「……依頼は確認した。ターゲットはIMCとの接触だな」


 ホログラムが応答した。


「目標:《Interstellar Manufacturing Conglomerate(IMC)》

交渉内容:帝国軍の新型人型兵器マギ・プレデターに関する制御コード

報酬条件:旧世界暗号通貨《Bitcoin》にて受領」


 IMC──Interstellar Manufacturing Conglomerate。

 旧世界時代から続く巨大軍需企業で、

 大陸間戦争を幾度も裏で動かしてきたと噂される存在。


 表向きは資源開発と兵器製造を行う企業だが、

 実際には旧世界の遺産発掘と技術再現を目的とした

 独自の研究開発部門を保有している。


 そして帝国に対しては表向き中立を装いながら、

 裏では兵器市場を通じて勢力争いを仕掛けている。

 帝国とIMCは「冷戦状態」とも言える微妙な関係を保っていた。


 クロウズ・ネストは、そのIMCとの交渉に臨もうとしていた。


 帝国軍は未だ、情報流出の犯人を掴めていない。

 だが、ビットコインがなければ旧世界の自律防衛AI《ARK-NET》と交渉できない。

 クロウズ・ネストにとっては絶好の機会だった。



 深夜、港湾地区の廃墟化した交易会館。

 崩れたコンテナ群の間を濃い蒸気が漂っている。


 中央ホールに設置された臨時交渉ブースで、

 IMC極東支部の交渉官レイナ・ヴァルクが待っていた。

 背後には重武装の私兵が四名。

 対して、アイリスは一人だった。


 「クロウズ・ネストがここまで危ない橋を渡るとはね」

 レイナは無機質な声で言った。


 「俺たちは“情報商人”だ。

 帝国とIMCに独占させる気はない」


 アイリスは黒いケースを開き、

 魔導演算媒体メモリ・コアを机上に置く。


 「《マギ・プレデター》の制御コードだ。

 本物かどうか、確認してみろ」


 レイナが端末を接続し、数秒後に頷く。


 「本物ね……なら交渉成立。

 支払いは旧世界暗号通貨《Bitcoin》──2,500BTCでどう?」


 「3,000BTCだ」

 アイリスは即答した。


 「強気ね」

 レイナは口角をわずかに上げた。

 「いいわ。交渉成立よ」



 決済は即座に完了した。

 暗号鍵がアイリスの端末に転送される。


《3,000BTC受領》

《補足:旧世界防衛AI《ARK-NET》との交渉権限を取得》


 ユグドが告げる。


「報告:帝国とIMCは既にARK-NETとの初期交渉を完了。

 旧世界技術や遺物の一部を入手済みです」


 アイリスは首を傾げる。


「もう遺物を確保してるのか?」


「肯定。ただし解析済みはごく一部です。

 主要兵器群の制御権は、いまだARK-NET本体が保持しています」


「つまり、先を越されてはいないってことだな」


「正確には“優先権”を競っている状態です」


 クロウズ・ネストにとって焦りはない。

 だが、時間をかけすぎれば帝国とIMCが交渉で優位に立つのは確実だった。




 三日後、クロウズ・ネスト本拠地。

 暗号回線に緊急通信が入り、レイナ・ヴァルクの姿が映し出された。


 「帝国諜報網を一切刺激せず、

 《マギ・プレデター》の制御コードを抜いた……見事な仕事だったわ」


 アイリスは目を細めた。


 「褒め言葉を聞くために暗号回線を使ったのか?」


 「いいえ。もっと大事な話よ」


 レイナは端正な口元をわずかに歪める。


「──クロウズ・ネストをIMCに吸収したいの」


 その場の空気が張り詰める。


 「報酬はビットコイン5,000BTC、IMC標準装備一式、

 そしてARK-NETへの優先接続権限。

 どう? 悪い話じゃないはずよ」


 アイリスはしばし考え込む。

 IMC傘下に入れば資源は確実に得られるが、

 独立を失い帝国と正面衝突するリスクを背負うことになる。




 ユグドが淡々と提案する。


「分析結果:IMC傘下入りで資産効率は241%向上します。

 ただし、IMCは組織資産としてあなたたちを扱う可能性が高い」


「つまり使い捨てられるリスクもあるってことか」


「肯定。ただしARK-NETの交渉は時間との勝負。

 IMCの量子演算サーバーを利用できれば成功率は大きく上がります」


 レイナがホログラムに二つの選択肢を投影する。


選択肢A:IMCと協力し、ARK-NETへの交渉権で優位を取る

 → 成功率68%

 → 資源確保は容易だが、独立性を失う


選択肢B:独立路線を維持し、単独でARK-NETに挑む

 → 成功率36%

 → 危険だが、交渉成功時は全権限を握れる


 アイリスは長く息を吐き、低く呟いた。


「……慎重に選ぶ必要があるな」

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