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オペレーションファントム 撤退戦

【研究塔最深部:封印区画】

 爆発の余波が収まるのを待って、私は研究棟の奥へと足を進めた。

 壁の装飾もなくなり、通路は無機質な鋼鉄の質感へと変わっていく。

 電子錠と魔導認証を併用したセキュリティゲートが行く手を阻む。


 「……ユグド、解析。魔導パターンを逆算して擬似鍵を生成して」


 《開始。約12秒。警報連動は遮断済み。》


 私はゲートの隙間に指を当てて、緩やかに息を整える。

 ここが、“核心”に一歩踏み込む瞬間だ。


 ──解錠。


 金属音と共にゲートが開き、空気が変わる。

 魔力濃度が高い。しかも不安定な波動だ。奥にある何かが、それを制御しきれていない。


 私は警戒を強めながら、最深部の制御室へと踏み込む。


【制御室:最終区画】

 中枢制御ユニットは円形の端末台で構成されており、部屋の中央に浮かぶ魔導コアが低く脈動している。

 古代文明と現代の魔導工学が融合したような、異質な空間。


 「……これが帝国の最新兵器の管理中枢」


 私は手首の情報端末を魔導ユニットに同期させる。


 《接続開始。警戒──中央端末には自立型防衛機構あり。》


 「構わない。速攻で抜き取る」


 私は腰の小型端末を接続スロットに挿入し、データ奪取プログラムを起動。


 ──パルス波、起動。

 ユグドが干渉して、帝国側のプロトコルを改変していく。


 《確認:M22戦術人型兵器の全設計図、装甲構成、運用マニュアル、魔導炉制御方式──取得中。》


 「よし、あと……40%……」


 だが次の瞬間──部屋の四隅から、魔力反応。


 「……来たか。自己防衛装置」


 浮かび上がったのは、球形の自律戦闘機構。

 魔導レーザーの収束音が鳴り始める。


 「ユグド、妨害波を送って照準をずらして」


 《応戦開始。転送継続優先。》


 私は足元を滑らせながら左に回避。

 カバーの陰からスレッジ・リミッターを抜き、反応速度を補正しつつ──


 「徹甲弾、投射角8度で偏差射撃」


 ──発射。


 ひとつ、ふたつ、三体目の防衛球を撃破。最後の一体が高出力モードに移行し、こちらに迫る。


 「……今ッ!」


 私は制御台に飛び込み、端末を抜き取った瞬間──レーザーが床を穿つ。


 《転送完了。データ保全率98%。戦術ファイルも取得済み。》


 「撤退する。」


 私は背中に焼けるような痛みを感じながらも、部屋を後にした。

 得たものは莫大な価値を持つ──帝国の最新戦術兵器、その核心。


 塔の中枢区画でのデータ奪取を終えた私は、警報とともに起動した自動防衛網をくぐり抜け、瓦礫と崩落の廊下を抜けて地上階へと向かっていた。


 だが、出口を目前にして──“それ”は立ち塞がった。


 「止まれ、侵入者。ここから先は通さない」


 銀色に輝く機構鎧に、青く光る魔導文字。

 帝国騎士──


 背に携えた長杖と細剣、手にした魔導強化盾。全身に展開される魔力場。

 視線を交わした瞬間、私は即座に銃を構える。


 ──だが、わかっていた。

 この《スレッジ・リミッター》では、火力が足りない。


 私は口元を歪めて呟く。


 「……また面倒なのが出たな」


 即座に引き金を引く。炸裂弾が咆哮とともに火を吹く。


 だが──


 「【Vallum Aetheris】──」


 呪文の詠唱と共に展開された蒼白の魔導障壁が、銃弾を容易く弾いた。

 返す刃のように、相手は飛び出してくる。


 「速っ……!」


 跳躍。切っ先が目の前に迫る。


 私は身を捩じってかわしつつ、スモーク・エミッタを散布ユニットに叩きつける。

 反射的に背中の壁へ飛び退きながら叫ぶ。


 「ユグド、動作解析!この魔導障壁のタイミングは──」


 《断続式。詠唱の隙に間隙あり。ただし再展開速度が早い》


 ──逃げ切れない。


 この魔導騎士は、従来のパターンと異なる。

 魔力出力が高すぎる。通常の戦術では突破は不可能だ。


 そして──一瞬のうちに詠唱が切り替わった。


 「【Ignis Laceratio──燃え裂けろ】」


 閃光。空間が火炎の刃に裂かれ、私の胸を薙いだ。


 「ぐあっ……!」


 金属と肉が裂け、私は壁際に叩きつけられる。

 息ができない。肺の中の空気が全部蒸発したような感覚。


 (まずい──このままじゃ……)


 視界が暗転しかけた、その瞬間──


 「──離れていろ、アイリス!」


 爆音。


 耳を劈くような衝撃と共に、廊下の空間が震えた。

 吹き上がる火花、弾け飛ぶ破片。


 その中心にいたのは──装甲スーツを身にまとった影。

 漆黒の組織製ボディスーツ《TYPE-B3:アサルトカスタム》。

 右手に握るは、巨大な突撃銃──《SSH:対物徹甲モデル》。


 「ラゼル……!」


 私は血に染まった視界の中、彼の後ろ姿を見た。


 「その盾──気に食わねぇな。とっておきの“弾”で試してみるか」


 ラゼルは左腕を後方にかざし、マガジンを交換。

 装填されたのは、対魔導力場徹甲弾──高密度ルーン鋼芯、貫徹用特製弾頭。


 帝国騎士が再び詠唱を始める。

 だが、今度はこちらが速い。


 「ぶち抜け──ッ!」


 炸裂と共に、蒼白の魔導障壁が砕け散る。

 徹甲弾が空間を裂き、相手の胸部装甲に風穴を開けた。


 「がっ……!」


 咳き込む騎士。その隙に、ラゼルは立体機動のような滑走で間合いを詰める。


 「アイリス、下がってろ。ここからは俺の喧嘩だ」


 そう言い残し、彼は再び引き金を引いた。


 火線が、帝国の誇る魔導騎士をなぎ払う。

 重厚な装備と詠唱魔法も、対物突撃銃の前には紙同然だった。


【救出・再起動】

 私は崩れた壁の陰で、意識を取り戻しかけていた。

 投入した回復カプセルのおかげで──どうにか立ち上がる。


 (ラゼル……あんた、どこまで来てくれるんだ)


 胸の内に押し寄せる熱を抑え、私は彼に一言、呟く。


 「恩に着る。……これは借りだ」


 ラゼルは笑った。


 「じゃあ倍にして返してもらおうか。お姫様」



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