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オペレーションファントム

【帝都東部・帝国第七実験塔へ向かう高架列車内/夜】

 列車の揺れは穏やかだった。帝都を走る都市間高架線、その深夜便に乗る乗客はほとんどいない。

 私は官給ローブの襟を整え、窓の外に流れる街の灯を見つめていた。


 ("あの塔"の地下には、間違いなくM22の設計中枢がある……)


 クロウズ・ネストが欲しがる理由は明白だ。

 反応装甲、魔導力場シールド、神経伝達リンク。すべてが“次代の戦争”を変える要素。


 ──だが、これは奪取作戦であると同時に、境界線の試金石でもある。


 (国家と組織。規模と機密。情報と力。どちらがより速く、深く、静かに動けるか──)


 私はローブの下でナイフホルスターの感触を確かめ、荷物棚の上のツールバッグ(スレッジ・リミッター格納)に目をやった。


 気配の遮断、ID認証の突破、警備網の隙間。すべて、今夜限りの舞台装置。


 「……やるしかない」


 静かに呟いた言葉は、列車の騒音にすぐ掻き消えた。


【帝都南・クロウズ・ネスト隠密支援拠点(ルーン視点)】

 「……センサー誤差、確認完了。遮断波は正常に送信されてる」


 私は情報端末を操作しながら、モニターに表示された赤外線地図を睨む。帝国第七実験塔、最下層。

 わずか十数秒の誤差でも、センサーの死角は消える。


 「アイリスの位置、あと25分で侵入地点。補助信号投射準備──OK」


 背後で冷却ファンが回転音を立てる。

 この部屋は帝都の老朽配管層に潜む、クロウズ・ネスト第四局の臨時通信拠点。


 「……あとは、彼女が“いつものように”通すだけ」


 そう言った瞬間、端末がピッと警告を鳴らした。


 《帝国側の監視ノードが再スキャン準備中》


 「ダメよ、まだ早い……時間稼ぎが必要」


 私はタップ操作でクロック調整パケットを帝国の監視ネットに打ち込み、周期ズレを発生させる。


 「……あんたの進入ルート、もう一回分、無理やりこじ開けておいたわよ。礼は要らない」


【帝都北・鉄道補修ヤード内潜伏(ラゼル視点)】

 「……しっかし、毎回こんな綱渡りでよくやるもんだな、あいつは」


 俺は旧貨物車のシャーシの下に身を潜めながら、耳に付けた小型通信機を指で軽く叩いた。


 《ラゼル、北東監視塔の見張り交代完了。次の死角まで6分。ドローン飛ばせるぞ》


 「了解。こっちは地対空センサーの干渉値下げておく」


 背後の黒いツールケースを開け、魔導干渉波発生装置の出力を調整する。

 これで、監視塔の自動ドローンが一時的に視界を失う。


 (あとは、あいつが塔の下層まで潜りきれるかどうか、だ)


 ふと、自分でも笑ってしまう。


 ──ラゼル、お前は何やってんだよ。

 ただの支援? 裏方? それとも、あいつの背中を見て安心してるだけか?


 「……ま、答えは後でいいか。終わったら、メシでもおごらせよう」


 そう呟いて、俺は再び装置の波長調整に集中した。


   *


【帝国第七研究塔・正面ゲート前】

 夜の霧が薄く広がる中、私は静かに歩を進めた。帝都郊外にそびえる巨大なシルエット──帝国第七研究塔。


 重厚な金属製ゲート。その前には顔認証装置と魔導式IDスキャナ。二人の帝国軍憲兵が無言で立っている。


 (──ここから先は、一歩ごとに緊張の連続だ)


 私はゆっくりとポケットから身分証を取り出す。

 "帝国技術管理局エリス・ラインベル"

 偽造ではなく、クロウズ・ネストの“資料課”が帝国中枢に干渉して作った"正規記録"付きの偽身分だった。


 「帝国技術管理局のエリス・ラインベルだ。技術部門に今日付けで配属される。」


 私の声は冷静だった。憲兵の一人が無言でスキャナを差し出す。私はそれに身分証を通す。


 ピッ。


 《ID認証:完了》


 「……失礼しました。どうぞお通りください。」


 (通った……!)


 ゲートが静かに開く。私は揺れるスカートを気にせず、まっすぐに構内へ歩を進めた。


【研究塔内部・搬入口付近】

 中は静かだった。だが不自然な静けさだ。


 コツ……コツ……。ヒールの音がやけに響く。

 周囲の巡回兵はいない。カメラの配置も妙に偏っている。


 (これは──“隠してる”な)


 私は通路を曲がり、備品庫に身を隠す。懐から端末を取り出し、ユグドを介して周囲の魔導センサーと電波干渉パターンを調べる。


 「……おかしい。ここ、警備が抜けすぎてる」


 そして──次の瞬間、遠くから異様な金属音が響いた。


 ──ガシャン、ガシャン、ガシャン。


 (……これは、四足歩行型の重量兵装!?)


 私は即座に身を伏せる。暗闇の向こう、非常灯に照らされた廊下の奥から、禍々しい魔導光を纏った影が現れた。


 《魔導獣兵装:ランカー級──異常融合個体》


 ──“人造魔導兵”。

 旧魔導師団の失敗作、廃棄されたはずの兵装が、研究塔に再配備されていたのか?


 「……やってくれるじゃない」


 私はゆっくり背中のスレッジ・リミッターを構える。

 通常弾を装填。相手の関節部を狙い、撃ち抜くイメージを思い浮かべる。


 だが次の瞬間、別の気配が背後から迫った。


 ──ザッ!


 反射的に振り返ると、黒装束姿の男がこちらに飛びかかってきていた。

 無音で、冷徹で──プロの諜報員の動きだった。


 (もう一人!?)


 ギリギリで身を捻り、足払いで間合いを取る。男の手にはナイフが握られていた。


 (暗殺……!?)


 私は叫ばない。ただ静かに構え直し、ナイフを抜く。


 「──悪いけど、任務の邪魔をするなら容赦しない」

──左に魔導獣兵、右から刺客。


 一瞬で挟撃される状況に、私はナイフを逆手に握り、背後の壁へ飛び退いた。

 撃つしかない。そう判断し、スレッジ・リミッターを肩に担ぐ。


 「──炸裂弾、装填」


 薬莢が弾ける音と同時に、ショットガンの銃口が光る。

 魔導獣兵の関節部、青白く脈動する魔導炉露出部へ向けて撃ち込んだ。


 ──轟音。


 炸裂する魔導構造体の一部。だが完全には止まらない。


 (くそ……実験体でもこの防御か)


 その隙に、刺客が迫る。暗殺用のナイフを振るいながら無言で距離を詰めてくる。


 私は足元へスモーク・エミッタを投げ、即座に身を翻す。


 「ユグド、敵の動作傾向を予測」


 《了解。左へ3ステップ回避、その後体勢崩す傾向──次に来る。》


 私は煙の中、敵の動作パターンを読み、逆手に取った。

 刺客のナイフが届く寸前、私のナイフが逆に彼の肩を裂いた。


 呻き声。そして私は即座に彼を壁際に叩きつけ、右手に携えた短銃をこめかみに当てる。


 「……名乗れ。今すぐに」


 男は血を流しながらも、睨み返してくる。無言だ。


 私は一度だけため息をつき、短銃の銃口をそのまま肩へ押し付け、引き金を引いた。


 ──銃声とともに、肉が焼け焦げる臭い。


 「次は喉か、目か。どちらが先に壊れるか試してみる?」


 さらに追い打ちのようにナイフの刃先で太腿を浅く抉ると、彼の顔が歪んだ。


 「……っ、クソ女……!」


 「事実だけを聞いている。誰の指示で、何の目的で私を狙った?」


 男は歯噛みしながらも、ようやく口を開いた。


 「……《南方情報局》……任務は……“技術確保のための排除”。お前が邪魔だった」


 「理由を詳しく」


 「……帝国の兵器開発が急速に進んでいる。我々はそれを把握していたが、同時に……《クロウズ・ネスト》も動いていることを知った」


 「だから──私が“奪取者”と見なされた、か」


 「……ああ。兵器のデータを奪えるのは一人で十分。お前は排除対象だった」


 「なるほど。身内と見せかけて刺す。らしいやり方ね」


 私は冷ややかに言い捨て、ユグドに通信を送る。


 「ユグド、端末を解析して。アクセスログと発信元の確認も」


 《了解。構造は旧式暗号。数分で解読可能》


 「拘束しておきなさい。こいつのデータが、南方情報局の足取りの鍵になるかもしれない」


 私は立ち上がり、魔導獣兵の動作音に耳を澄ませる。まだ完全には沈黙していない。


 スレッジ・リミッターに弾を込め直し、私は銃口を魔導獣兵の胸部へ向けた。


 「──徹甲弾、装填。終わらせる」


 トリガーを引いた瞬間、魔導炉の核心に光の槍が突き刺さる。

 装甲が裂け、魔導反応が暴走。咆哮のような駆動音とともに──爆発。


 廊下全体が揺れ、私は衝撃波で壁に叩きつけられる。

 数秒、視界が霞み、聴覚が遠のいた。


 ──だが、任務の優先順位は変わらない。


 私は吐息を整えながら立ち上がり、制御室へと歩を進める。



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