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C級昇格試験

 帰還用の蒸気トラックの荷台。

 燃え残りの匂いと血の鉄臭さがまだ鼻を刺す。


 私が工具で装備の締め直しをしていると、突然、名前を呼ばれた。


「おい、あんた。──アイリスだろ?」


 声をかけてきたのは、ギルドの職員らしき男。胸元には識別用の蒸気バッジがぶら下がっていた。


「今回の任務、戦果報告はすでに本部に届いてる。

 討伐数、支援行動、ダメージ処理……いずれも高評価だ。とくに魔獣との接近戦での決定打──

 戦狼団の推薦付きってのも大きいな」


 私は目を細めた。


「……それが?」


「ギルドとしては、Cランク昇格を検討してる。

 もちろん正式な査定は別日にあるが、次回任務の前には決定されるはずだ。覚悟しといてくれ」


「──そうか」


 私は淡々と答えたが、胸の奥が微かにざわついた。


 Cランク。

 ようやく“下位”を抜けるということ。


 依頼の幅が広がり、報酬も増え、実力者として見られる側になる。


 ──つまり、次は死に方にも責任が伴う立場ということだ。


 背後から誰かが声をかけてきた。


「いいじゃねえか、昇格。Cに上がれば、本気の戦場に呼ばれる」


 振り返れば、さきほどの男──レンだった。

 彼はニヤリと笑って、私の肩を軽く叩いた。


「ようこそ、地獄の玄関口へ」


  *


数日後。ギルド本部の応接室。


 磨かれた蒸気ランプが天井で光を揺らし、厚い書類が積まれた机の前に私は座っていた。向かいにいるのは、ギルド査定官。


「戦果と推薦を考慮し、正式にCランクへの昇格を承認する……が、前例に倣い、“特別試験任務”を課すことになる」


「……内容は?」


「未帰還者多数の“腐蝕坑道群”への潜入調査と、異物回収任務だ」


 腐蝕坑道群──廃都市の下層に広がる、未踏の魔導廃棄路網。

 探索者でも足を踏み入れる者は少なく、“帰ってこられない”任務として知られている。


「同行者なし、単独任務だ。君がどこまで“C級の責任”に足を踏み入れられるか、見せてもらう」


私は無言でサインを書き、書類を机に返した。


  *


 廃都市ノル=ファルカの地下に広がる“腐蝕坑道群”は、かつて魔導列車の整備用に造られた巨大な導管網だ。

 今では魔導工学の廃液と蒸気が滞留し、そこに魔力結晶が溶け込み、“腐蝕瘴気”と呼ばれる毒性の霧が発生している。


 ──この任務は、魔導王政時代の遺物《制御核》の座標反応を受けての、極秘調査。


 スーツの内部で、自動気圧補正弁がプシューッと音を立てる。

 私は蒸気駆動の補助骨格を微調整しつつ、坑道入口の錆びついたゲートに手をかけた。


「……酸化が進んでる。ここまで酷いとはな」


 鋼の扉を押し開けると、内部からぬるりとした熱気と、鼻をつく鉄錆の臭いが押し寄せてくる。


 視界のほとんどがスモッグで覆われていたが、ゴーグルの魔導可視フィルターで、赤外反応と魔素残留を探知することはできた。


 10分ほど進むと、壁面に埋め込まれた旧型魔導案内パネルを発見。

 蒸気コンデンサを再接続して通電させると、かろうじて系統図が浮かび上がった。


 ──第五導管路、エネルギー抽出施設。

 その最深部に、高出力の魔素反応が記録されていた。


 私はその地点を目指す。途中、腐蝕した通路には幾度となく“落とし穴”のような魔導金属の崩壊があり、補助骨格のリニアバランサーで跳躍を繰り返しながら進んだ。


 廃棄された搬送ローダーの残骸、魔導ケーブルに絡め取られた死骸、そして……壁一面に張り付いた、魔導スライムの粘膜跡。


 ──魔獣が棲みついている。


【戦闘:腐蝕スライム《タールワーム》】

 静かに足を踏み出したその瞬間、ぬめり音とともに頭上から黒い液体が降ってきた。

 私は即座に補助骨格を収束状態から展開に切り替え、反動を吸収しながら横転回避。


 地面に落ちた液体が蠢き、人間大の粘性体へと姿を変える。

 ──《タールワーム》。腐蝕瘴気に適応した変異魔獣だ。


 蒸気駆動サポーターの一撃で懐に飛び込み、ナイフを突き立てる──が、刃が吸収されるように沈んでいく。


「クソッ……!」


 私はすぐに後退し、スーツの胸部ユニットからカートリッジを展開。

 「冷却薬液・仕様B」を散布すると、タールワームの動きが一瞬鈍る。


 そこに追撃──スレイヴ・ラプチャーで、中心核を狙い撃つ!


 バンッと蒸気が弾ける音とともに、スライムの身体が破裂し、残骸を壁に飛び散らせた。


 ──呼吸音が静寂に戻る。


 補助骨格が軽く震え、冷却蒸気を放出した。

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