表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/45

新たな装備

 地下市の外れ。軋む鉄扉と煤けた煙突が目印の鍛冶場に、私は無言で足を踏み入れた。


 蒸気の吹き上がる音と、金属を叩く重い衝撃音。

 だが、工房内に漂うのは油と煤の匂いだけではない。

 どこか“誇り”のような空気が、場を満たしていた。


「──来たか、嬢ちゃん。約束通り、仕上がってるぜ」


 奥から現れたのは、鍛冶職人バステン。

 いつも通り、無骨な腕まくり姿に、焼けた革手袋を装着している。


「……悪いな。無茶を言った」


「へっ、こっちも腕が鳴っただけだ。

 じゃあ見せてやるよ、世界に一着しかない《戦場仕様》をな──」


 バステンが厚布を剥ぎ取ると、そこに現れたのは一式のボディアーマーだった。


 灰鉄色のマット塗装が、光を鈍く吸い込む。

 無駄な装飾は一切なく、まさに“機能美”の塊。


 外装は繊維強化蒸気布と軽量金属プレートの積層構造。

 肩から腰にかけては、露出した補助骨格が蒸気圧で駆動し、可動時にシュウッと蒸気が漏れる仕組みになっている。


 胸部には、散布式の戦術カートリッジユニットが2基。

 急な戦況変化にも即応できるよう設計されていた。


 脚部にはスーツ一体型の蒸気駆動サポーターが組み込まれ、補助スプリングと外骨格が膝から太腿を守る。


「背中のホルスターはお前の好みに合わせて調整済みだ。スレッジ・リミッターでも、ラプチャーでも背負える。カートリッジの自動再装填機構も組み込んである」


 私は無言で手を伸ばし、胸部装甲を指でなぞった。

 表面温度、厚み、感触──申し分ない。


「……完璧だ」


「当然だ。ボルト一本まで手打ちだぜ。魔導蒸気圧のバランスは三度調整した。暴れ馬も御せるさ」


 私はそれを着込み、ギュッと留め具を締めた。


 蒸気が小さく鳴り、補助骨格が動作確認のように小刻みに震える。

 その瞬間──身体が“ひとつに組み上がった”ような感覚があった。


 ──これが私のための“戦う骨格”。

挿絵(By みてみん)


 この街で、そして遺跡で、生き抜くために必要な“殻”だ。


「……感謝する。これで、次も生き残れる」


「それはお前次第だ。こいつはお前の命を支えるが、戦うのはお前自身だ」


 私は小さく頷き、蒸気の漏れる静寂の中、工房をあとにした。


 次にこの装備が火を噴くのは──まだ誰も知らない地の底か、それとも……。


  *


──これは任務じゃない。あくまで、私の“準備”だ。


 街から北に二キロ。

 木々に覆われた丘の奥、地図にも載らない名もなき遺跡。


 数百年前の戦争遺構で、今では魔獣や流れ者の隠れ家として放置されている。

 ギルドの管理下にも入っていない、いわば“空白地帯”。


 私はその石造りの崩れかけた通路を、一歩一歩ゆっくりと進んでいく。


 ──装備、異常なし。蒸気圧、安定。温度上昇範囲、許容内。


 バステン工房から受け取ったばかりの《戦場仕様ボディアーマー》の動作確認を兼ねた実戦テスト。

 街中では使えない出力や、制御限界のチェックもここならできる。


 そして、ちょうどよく──


 「……いたか」


 朽ちた祭壇の奥、音もなく蠢いていたのは、機械と生体の混成種《粘性の魔導獣》だった。

 半液状の身体の内部に、古代魔導機のコアが埋め込まれた奇怪な存在。

 腐蝕臭と魔力の波動が空間を歪ませている。


 私は背中のカートリッジを開放。両肩の蒸気バルブがシュウ、と熱を逃がす。


 ──こっちはテスト、そっちは餌。始めようか。


 魔獣がこちらに気づき、粘液の腕を振りかぶった瞬間、私は一気に前傾姿勢を取った。


 補助骨格が駆動。両脚の蒸気スプリングが爆発的に反発力を生む。


 「──接近戦、開始」


 地を蹴り、壁を蹴って宙に跳ぶ。

 蒸気駆動の勢いで重力を捻じ曲げ、空中から急降下。


 右脚の膝に内蔵された衝撃吸収装置が着地の衝撃を殺し、同時にラプチャーを抜き放つ。


 ──一射、二射、牽制用。


 ナイフを逆手に握り、粘液の隙間から内部の魔導コアを狙う。

 だが、敵もただの獣ではない。体を捻り、液状の腕を鞭のように振り回してきた。


 「……ッ!」


 私は蒸気を噴出しながら後方に跳ぶ。肩口を掠めた粘液が一瞬で装甲を焼いた。


 「ふうん。腐食属性か……いいデータになる」


 そのまま散布ユニットを展開。補助スパイクを地面に打ち込み、立ったまま腕を構える。


 ──ラプチャー、徹甲弾装填。


 「一撃、もらうぞ」


 銃口が蒸気を吐いた瞬間、コアを正確に貫いた弾が命中。

 粘性体が一瞬の膨張と共に、沈黙した。


 蒸気が静かに立ち上るなか、私は肩口の装甲を軽く叩いた。


 「初戦闘、終了。実用レベル……問題なし」


 ──これでいい。これで“戦える”。


 誰かの命令じゃない。

 これは、私が生き残るための選択。


 街に戻る頃には、装備に染みついた蒸気と血の匂いも、すっかり冷えているだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ