黒衣の選択
「私服って、どう選べばいいものか……」
街の表通りにある組織の会議の帰り道、アイリスは黒いジャケットの襟を直しながら小さくつぶやいた。私服で行動することが増えてきた今、実用的かつ目立たない装備が必要だった。
「……目立たないけど、仕掛けられる服。都合のいい服が、そう簡単にあるわけ……」
そのとき、彼女の視線は路地裏の一軒の店に吸い寄せられた。深紅の壁紙と重厚な木製のドア。そして、ガラス越しに見える黒一色のドレス。高めのウエストに金属の留め具、立ち襟とふんわりと広がるアシンメトリースカート、袖には分厚いカフス──まるで「仕掛けがある」と言わんばかりの構造。
「……あれは、使える」
店に入ったアイリスは迷いなく試着室へ直行し、ドレスを手に取る。鏡の前に立った瞬間、彼女は自分の姿を見て眉をひそめ──そして少し口元を緩めた。
「なるほど。悪くない。これくらいのインパクトも必要だろう」
スカートの広がりは十分に深く、裏地にはナイフホルダーを縫い付ける余地がありそうだった。太腿部にスリングベルトを巻けば、短銃を二挺隠すのも不可能ではない。
「これにする。裾はそのままで。裏地は後で改造する」
店主は目を丸くしたが、アイリスは無表情のまま代金を置いて店を出た。
数日後、その服をまとったアイリスはラゼルにこう言った。
「スカートを選んだのは、女らしさのためじゃない。利便性だ。──あと、多少は“らしく”見えたほうが、騙しやすいだろ?」
そう言って微かに笑ったその顔に、ラゼルは思わず見とれてしまったという。




