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地下工房

 蒸気リフトが甲高い駆動音を上げながら地下階に沈む。

 クロウズ・ネストの地下工房は、武装ギャングの拠点とは思えぬほど整然と管理されていた。空気に混ざるのは、油と熱せられた鉄の匂い。整備用の照明に照らされる作業台に、私はふたつのケースを置く。


 ひとつは、灰銀色の金属筒。

 もうひとつは、魔導蒸気兵から剥ぎ取ったパーツの詰まった鞄。


 「ほら、拾い物。稼げるやつかどうか見極めてくれ」


 手を拭きながら現れた老技師グラーフは、私を一瞥すると無言でゴーグルを下ろし、蒸気測定具を持ち出した。


 まず灰銀の筒。グラーフは数分の検査の後、静かに口を開いた。


 「……これはな、“熱導式心核ユニット”。おそらく《死者の鉄路》の基幹系統で使われてた制御装置だ」


 「稼働する?」


 「奇跡的に内部の魔導導管が生きてる。補助電源と外部接続さえあれば、再起動も不可能じゃない」


 「値は?」


 「正規ルートに流せば金貨30枚以上、だが……内容次第じゃ“目”をつけられるかもな。帝国もこういうのにはうるさい」


 続いて鞄の方を開く。中には──

 黒く焼けた装甲板。半壊した動力管。溶断されたマニピュレーター。関節駆動輪。


 「数は?」


 「中型蒸気兵3体分。損耗はあるが、関節と駆動系は一部再利用可能。コア圧縮機も割れてない」


 グラーフがひとつひとつ丁寧に確認していく。


 「この関節制御リング……古いが、独自設計だな。ギルドの市販機にはないタイプ。魔導兵器特化の戦闘用と見ていい」


 「使えるか?」


 「加工すれば……《スレイヴ・ラプチャー》に組み込む強化部材として有効だろうな。バレル加熱処理や冷却回路の強化に転用可能」


 私はニヤリとした。


 「ふふ、いい匂いがする。金の匂いだ」


 「まったく……傭兵上がりの考えることは金勘定ばかりだな」


  *


 工房の片隅、人目のない場所で私は《ユグド》と通信を再開する。


 「この“心核”──私の体内にある機構と似てないか?」


 >「解析結果:外装材質・魔導刻印・蒸気導管構造──三項目において高い一致率を確認。君自身の身体構造の一部と同等の技術体系で作られている可能性が高い」


 「じゃあ……私は、これと同じもので“動いてる”わけか」


 >「推測される。つまり君も“古代の産物”の一端ということだ」


 私は皮肉気に笑った。


 「傭兵からギャング、そして今は“遺物”扱いか。上等だな」

  

   *


 グラーフが最後に一枚の紙を手渡す。そこには、解析された魔導刻印の断片と、設計図のような輪郭。


 「この心核には“対になる装置”が存在する。つまり……まだ、遺跡の深部に“何か”が眠っているということだ」


 私は紙を受け取りながら、ラゼルを振り返る。


 「次の仕事の準備をしておけ。まだ稼ぎ足りない」


 「……お前ってやつは」


   *


 蒸気工房の奥、立入制限区域。

 そこで《スレイヴ・ラプチャー》は、新たな“形”を得ようとしていた。


 グラーフの手によって外装が解体され、蒸気導管と魔導刻印の配列が露わになる。

 私の突撃銃──いや、“相棒”と呼んでもいいその兵器は、単なる工業製品の域を超えていた。

 そして今、それが“進化”しようとしている。


 「まず、銃身。大口径にする。従来の10mmから、13.5mmへ変更だ」


 グラーフは新造のバレルユニットを掲げた。冷却フィン付きの多層構造、厚みのあるマズルブレーキ。

 「リコイルはどうする?」


 「大丈夫だ。リコイルショック用の蒸気反動吸収ユニットを組み込む。これで連射精度もある程度維持できる」


 「……化け物じみてきたな」


 「もともとがそういう代物だろ?」


 次は冷却システム。


 「これは、お前が持ち帰った“圧縮導管”を加工してな。内部循環式の冷却蒸気再分散構造を追加する」


 装着されるのは、新造の冷却インジェクターと、再構成された熱圧バランス制御刻印。

 これにより、オーバーヒートの危険性は大幅に低下する。連続射撃中でも銃身温度が安定し、暴発やジャムの可能性も抑えられるだろう。


 さらに、下部フレームに外付けカートリッジポートを追加。熱負荷が一定閾値を超えた際には、自動的に《冷却薬莢》が排出され、冷却効果を一層高める。


 完成した新型スレイヴ・ラプチャー──


 黒鉄色の大型突撃銃。

 銃身下部には増設された冷却フィンと、排熱孔が並び、発射のたびに熱を吹き飛ばす構造。

 薬室部には魔導圧制御の新型封刻が彫り込まれ、内部圧力を精密に管理する。


 「バーストモードで5連射までは熱量限界内。その後はユグドが自動的に冷却処理に切り替える」


 《ユグド》の音声が工房の片隅から応答する。


 >「最適化完了。新バージョンを《スレイヴ・ラプチャー Mk.II》として登録」


 私は新型を手に取り、その重量を確かめる。

 重く、しかし確かに“馴染む”。これはもう、ただの兵器ではない。私のために組み直された“牙”だ。

 しかし、この重さだとボディアーマーを着ていないとこの体じゃ扱えないな…


 「よし……次に地獄を開ける時が楽しみだな」


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