心核
静まり返った路地に、まだ硝煙の匂いが漂っている。
私は周囲を警戒しながら、一歩ずつギャングの死体に近づいた。
>「警告:死体収奪行為は一部地域で法的リスクが存在」
「ここはスラムだ。通報する“市民”がいないなら、法も意味を持たない」
>「理解。最適行動選択:戦闘後資源回収。損耗補填を優先」
私は一人目の死体から小型の自動拳銃と予備マガジンを回収。メンテナンスはされていなかったが、弾は使える。
「……スライドがちょっと歪んでるな。サブにしてはギリ合格か」
二人目からは手製の爆裂グレネードを一つ、三人目からは金貨1枚と銀貨4枚が入った革袋を奪い取る。
>「金品回収:合計 金貨1、銀貨4。現在所持金に加算。推定市場価値:散布用中圧カートリッジ約2本分」
「ようやく補充できるか……もっと回るぞ」
そのまま、大型の突撃用ショットガンを持った敵の死体にたどり着く。
「こいつが一番厄介だったな」
銃は重く扱いにくいが、装薬式の連射型で、ドアブリーチングや近接戦に使える。肩掛けバンドごと剥ぎ取り、鞄に突っ込む。
>「推奨:重量過多に注意。装備優先度:ショットガン<弾薬/薬品」
「わかってる。売れるもんは売る。使えるもんは使う」
残りの死体からもいくつかの銅貨、安物のアクセサリー、そして焦げたメモ帳を見つける。
>「メモ帳スキャン完了。記述:次回搬入《心核》、指定地点『ドレイヴ下層区B12』──日付は明後日」
「……心核って単語、さっきの情報屋も口にしてたな」
私はメモを懐にしまい、足元の死体に目を落とした。
「悪いな。お前らの装備と情報、しっかり使わせてもらう」
──銃弾と煙と、血の代償。
私の歩む道は、もはや“平穏な探索者”のそれではない。
>「戦術支援機能:更新完了。戦闘データ記録・装備品プロファイル追加……戦力レベル:段階的上昇確認」
「そりゃあ、戦えば強くなる。私ってのは、そういうタイプだ」
私はポーチを締め直し、足元の銃声の名残を踏み越えて、静かにその場を去った。
*
翌朝、私はギルドの裏手にある武具整備工房を訪れた。
昨日スラムで拾った戦利品──血の匂いの染みついたショットガン、予備弾薬、そして小銭袋。全てを肩に下げて、重たい扉を押し開ける。
「よう、姐さん。顔が物騒な夜明けって顔してんな」
「そっちが物騒なブツを整備してくれりゃ、私は平和でいられる」
カウンターの奥で油にまみれた整備屋の親父が笑うと、私は背中からショットガンを外し、無造作に作業台へ置いた。
「これ、昨日拾った。状態はまあまあ。使えるように調整してくれ。できれば──蒸気カートリッジとの連動処理も」
親父がゴーグルを下ろし、ショットガンを覗き込む。しばらくして、ニヤリとした。
「ほう、連射は効かねぇが、こりゃ近接用にはうってつけだ。反動は凶悪だがな。ついでにバレル詰めて、衝撃フレームも付けとくか?」
>「提案:ショットガンを《近距離衝撃強化仕様》へ改造。バレル短縮、衝撃吸収フレーム追加、カートリッジ対応マウント装備。費用:金貨1、銀貨2。」
「やれる?」
「あぁ。預かり一日ってとこだな」
「いい。急ぐ必要はない。やってくれ」
支払いを済ませ、私は整備工房を後にする。
──次に向かったのは、カートリッジを扱う補給屋。入り口に吊るされた煤除けの布をくぐると、馴染みの店主が眉を跳ね上げた。
「……あんた、生きてたのか。昨日の夜、スラムでえらく騒ぎがあったって聞いたが?」
「おかげで手持ちは増えた。中圧カートリッジを2本。あとは、戦術用の散布型が残ってたら1本くれ」
「命を懸けて稼ぐやつは違うねえ……こっちだ」
並んだ棚から、私は中圧カートリッジを選ぶ。1本は【熱圧安定型:TC-α4】──内部圧が安定していて、散布ユニットによる精密展開に適している。もう1本は【噴出圧上昇型:TC-β2】──瞬間的に圧力を高めるタイプで、シールド系ガジェットや火力支援に向いている。
>「補給完了:TC-α4、TC-β2、SC-γ3(煙幕型) 各1本ずつ。
>残資金:金貨0、銀貨0、銅貨6」
>「蒸気カートリッジ:現在所持数6本(中圧型3、特殊型3)
>内訳:熱圧安定型、噴出圧上昇型、煙幕型、旧型補助圧力型など。
>戦術適正:近接~中距離制圧、奇襲支援、視界妨害、短期強化」
「これで、戦場での選択肢がもう少し増えるな」
>「推定戦力:接近戦火力23%、制圧展開効率17%上昇。火力偏重型構成。遠距離支援不足を補うには別ユニット導入を推奨」
「……知ってる。でも今は、目の前の“狩り場”に集中する」
私は懐から、スラムで拾った黒い手帳を取り出す。ボロボロの表紙には、血の染みが乾いたような跡があった。
ページの一角、鉛筆書きで走り書きされていた単語──
>『次回搬入《心核》、指定地点:ドレイヴ下層区B12』
「“心核”──実に金のにおいがする。調べる価値あり、だな」
>「補足:『心核』は、蒸気魔導機構の中枢を構成する希少素材である可能性。エネルギー変換・干渉制御に関与。高値取引対象。軍事・研究方面への横流し報告多数」
「つまり、金にもなるし、面倒事の種でもあるってことか」
私はカートリッジをポーチへ詰め込みながら、深く息をついた。
──武器は整い始めた。
次の戦場、《ドレイヴ下層区》へ潜る準備も、もう整っている。




