第六章 鎮めの呪物(しずめのじゅぶつ)
男は俺の話を聞いて、ようやく少し安心したようだった。
まだ問題が解決したわけじゃないのに、「もう体の腫瘍は消えたんじゃないか」とまで思い込んでいる節がある。
俺は村の麻雀部屋で、男の兄貴を見つけた。
奴は卓の上に立ち、札束を豪快に数え上げていた。やけにテンションが高い。
小さな村の、小さな賭場なのに、驚くほどデカい勝負が行われている。彼らの賭け金は、俺のような庶民の収入では到底ついていけないレベルだ。
俺はしばらく様子を見ていたが、兄貴の運はまさに神がかっていた。ほんの10分足らずで、なんと3000元近くを勝ち取っていた。「おかしいだろ、マジでイカサマじゃねぇのかよ!」ある賭け人が顔を真っ赤にして、兄貴に詰め寄る。
「おいおい、何言ってんだ?男だろ?まるで女みたいにグチグチ言いやがって。俺がそんなセコい真似するように見えるか?」その場にいた連中は一斉に静まり返り、ジロリと彼に視線を送った。
そして、みんな揃って首を縦に振る。「見えるね。お前、前はクソみたいにツキがなかったのに、急にこんなに勝つなんて、おかしいだろ。」その光景を見て、俺は静かに部屋を後にした。
ここまでくれば、もう確信に近い。あの陰で手を回したヤツは、どうやら“もう一手”仕込んでいたらしい。ただ家の中をいじるだけじゃ、運気は完全に変えられない。
俺の雇い主の家の玄関前には、何か「鎮め」の呪物が埋められているはずだ!俺はすぐに雇い主の家へ戻り、鉄のスコップを持たせ、玄関前の地面を掘らせた。
2尺ほど掘り進めたところで、古びた銅貨が姿を現した。
「止めて!見つけたぞ!」俺はしゃがみ込んで銅貨を拾い、じっくり観察した。
「やはり、そういうことか……」その銅貨には、真っ黒な物質がこびりついていた。見間違えるはずもない。これは人の血だ。しかも、この血は雇い主の“兄貴”のものだ。
俺の父さんが昔、こんな話をしてくれた。昔々、ある土地の大地主がいて、金持ちで毎日が贅沢三昧。だが性根は腐っていて、使用人を人扱いせず、畜生のようにこき使っていた。
重労働を課し、食わせるのは残飯。体の弱い使用人は次々と倒れ、恨みを残して死んでいった。
その中のひとりに、ちょっと知恵の回る若い使用人がいた。彼はある日こう思った。「どうせ死ぬなら、一か八か運命を変えてみるか!」
以前見た図解入りの民間術の書物を思い出し、運命を逆転させる儀式に賭けることにした。
ある夜、地主が眠っている隙に包丁と茶碗を持って忍び込み、地主の口を塞いでから頸動脈を切った!流れ出た血を茶碗に受け止め、すぐにその場を離れた。
地主は運よく一命を取り留めたが、命の危機に瀕していたのは確かだった。使用人はその血に銅貨を浸し、一昼夜経った後、こっそり村に戻って地主の家の門の前にその銅貨を埋めた。
翌日から地主の体調は急激に悪化、ほどなくして盗賊に財産を全て奪われ、ついには死んでしまった――
一方、あの使用人はというと、運が一変。わずか一週間で一生遊んで暮らせるほどの富を得たという。子供の頃、この話を聞いても信じなかった。でも、今この血塗られた銅貨を目の前にして、俺はようやく悟った。あの話は、作り話じゃなかったんだ。
この家の門は風水的にも極めて重要で、そこに血染めの銅貨を埋めれば、その家の“気”を吸い取ることができる。つまり、運気がまるごと他人に流れてしまうのだ。それに加えて、この家には陰を象徴する木が三本も植えられている。
そりゃあ、不運に見舞われないわけがない。
俺はすべてを雇い主に話した。彼は崩れ落ちそうなほどのショックを受けていた。あんなに優しかった兄貴が、まさか自分にそんな呪術を使うなんて。「先生、俺……どうすればいいんでしょう?」
「――やられたら、やり返す。」
彼は覚悟を決めたようだった。
俺は彼に案内させて、家の汲み取り式トイレに向かった。地獄のような悪臭の中、例の銅貨をトイレの中に放り込み、棒でグチャグチャにかき混ぜたあと、それを再び玄関の元の位置に埋め戻した。
「よし。じゃあ、もう一度賭場に行ってみようか。」雇い主は俺の行動に「???」状態だった。
だが、賭場に着いたとき、すべてを理解したようだ――
「おいおい、何だよこれ!?さっきまであんなにツイてたのに、今は全ッ然勝てねぇじゃねぇか!?お前ら、まさかイカサマしてんじゃねぇだろうな?」
雇い主の兄貴は、あまりの負けっぷりにブチ切れていた。
「おいおい、たかが二回負けたくらいでイカサマ呼ばわりか?都合良すぎるだろ。」「いや、違うんだよ!俺には“偉い風水師様”がついてるんだ!きっと何かの間違いだ!
もう一回だ、もう一回!」兄貴は勢いそのままに再戦。しかし、また負け。
「くそっ!?なんでだよ!?もう一回だ、今度こそ――」結局、10回以上勝負を繰り返して、兄貴は持ち金をすべてスッて、負け犬のように賭場を後にした。
その背中がまた見事に情けない。「くっそ!“風水師様”とか、全部嘘じゃねーかよ!ふざけんな、あの野郎、ぶっ殺してやる……俺の目の前でインチキしやがって……
今度見つけたら、先祖の墓まで掘り返してやる!」どうやら彼が言っていた“風水師様”というのは、彼に裏の術を授けた張本人らしい。
俺と雇い主は、こっそり兄貴の後をつけることにした――
風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。
筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。
干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。
本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。
一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。
もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——
それもまた、偶然ではなく必然。
このご縁に、心より感謝いたします。