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第五章 大凶の家相

 出所した時、俺はもう二十五歳になっていた。

 世間とは噛み合わず、毎日が冷たい目と陰口の中で過ぎていく。


 もちろん、刑務所にいる間に覚悟はしていた。だが実際に、ドアの隙間から覗かれるようなあの視線には、どうしても慣れなかった。


 生活費を稼ぐため、いろんな仕事に応募してみた。

 だが、経歴に“服役歴あり”と知れた途端、どこもかしこも「君は年齢がちょっとね……」なんて遠回しに断られた。


 俺はもう、先の道が見えなくなっていた。


 そんな時、一人の男が俺のもとを訪ねてきた。

 曰く、「家に邪気があるから、どうにかしてほしい」とのこと。


 ありがたい話だったので、男の家へ向かった。


 道中、男が語ってくれたのは、こんな話だった——


 彼には兄がいる。

 その兄というのが、博打と女に目がなく、ろくに働きもせずに、あっという間に家の財産を食い潰してしまった。


 ある日、その兄はどこかの「高人」に言われたらしい。

「弟と家を分ければ、運気が変わり、ギャンブルで必ず勝てるようになる」と。


 兄はそれを本気で信じ、弟との分家を決意。

 さらにその「高人」とやらの指示で、弟にとって最高の風水の地を探し出し、そこに新たな家を建ててやったのだ。


 すると——


 本当に兄弟それぞれに変化が現れた。

 運の悪かった兄は、博打でほぼ勝ち続け、しかも若くて美人の嫁まで手に入れて、人生がバラ色に!


 だが、弟の方はまったくの真逆だった。

 新しい家に引っ越してからというもの、まるで厄災のデパート。

 一日として心安らぐ日がなく、体調も急激に悪化。病院で検査を受けたら、「助かっても時間の問題です」とのお墨付き。


 さらには、長年付き合っていた恋人まで、ある晩こっそり片足引きずった男と駆け落ち……。

 そりゃもう、弟は心身ともにズタボロだった。


 ただ、弟は頭の回転が速い。

「自分がこうなったのは、どう考えてもあの家に原因がある」と気づいたんだ。


 兄貴の運気が上がったのと引き換えに、弟の人生が転落したってことは、あの「高人」とやら、最初から弟を罠にはめた可能性が高い。


 その真偽を確かめるために、彼は本当に実力のある風水師を探す決意をした。

 家の風水をちゃんと見てもらって、もし本当に何かあるなら、兄貴に責任を取らせるつもりだったらしい。


 それでいろいろと探しまくった末、俺にたどり着いたってわけだ。


 道中、俺はあまり喋らなかった。

 その代わり、ずっと男の顔をみていた。


 こいつの鼻がまたすごい。

 鼻先は丸くて肉付きがよく、山根(目と目の間の部分)はがっしりと高く、鼻筋も通っている。

 これは典型的な「龍鼻りゅうび」というやつだ。


 大富大貴を意味し、権力と地位を持つ顔。

 将来は必ず名を成し、出世街道まっしぐらになるはずの面相だ。


 他にも、彼の目は「伏犀目ふくさいもく」と呼ばれるもので、目が大きく、天庭おでこはふっくら、耳毛もフサフサしていた。

 これは「大福のそう」で、一生裕福で長生きできる運勢を示している。


 ……こんなにも優れた人相を持つ男が、なぜ今のようなドン底人生を送っているのか?


 俺にはとても信じられなかった。

 これはきっと、何者かの邪魔が入っている。

 しかも、その「何者か」はかなりの実力者に違いない。


 男の家に向かう道のりは、とにかく険しかった。

 バスもカメのように遅くて、着くまでに四時間以上かかった。

 まだ家の敷地にも入っていないのに、俺はもう異変を感じ取っていた。


 家の外観をじっくり観察して、背筋がゾッとした。

 こんなに凶悪な立地の家なんて、見たことがない!


 その家はT字路の真正面に建てられており、背後は袋小路。

 しかも玄関の目の前には、やたらと生い茂った桑の木が!

 そして扉を開けた瞬間——目に飛び込んできたのは、あろうことか“幽霊拍手ゆうれいパチパチ”の異名を持つ梧桐の木だった。


「お客さん……もし私の勘が当たってれば、裏庭には柳の木が植えられてるはずだよな?」


「うわっ、マジで当たってる!さすが先生、すごいな……。

 あの三本の木は、家を建てたときに兄貴が自ら植えてくれたものでさ。

 俺、感動してしばらく泣いたくらいだよ〜」


 男は俺の腕を認め、尊敬のまなざしで見つめてきた。

「先生さえ助けてくれれば、財産なんて全部差し出しても構いません!」


 俺は素直にうれしかった。

 ——まあ、実のところ、裏庭に柳があるのを“占った”わけじゃないんだけどな。

 俺の目には、この家がどんな“地獄マップ”か、はっきりと見えていたのさ。


 俺の親父がよく言ってた。

「家は一家の命そのもの、建てるときは絶対に禁忌を犯してはならん」ってな。


 それに、俺は親父から秘伝の教えも受け継いでいる。


 前に桑、後ろに柳、真ん中に幽霊拍手ゆうれいパチパチ——これ、家相の三大禁忌なり!


 この三つのどれか一つでも揃えば、災いが止まらない。

 軽ければ病気、重ければ命を落とす!


 桑、柳、梧桐——どれも“鬼樹”と呼ばれる陰の気を持つ木。

 邪気を引き寄せやすく、悪霊の住処になりやすい。

 男の運の悪さは、間違いなくこの三本の木に起因している!


 田舎育ちのやつなら思い出すかもしれないけど、村の入口や川沿いに柳の木がよく植えてあるの、あれは悪霊を柳に泊まらせて、村に入ってこないようにするためなんだ。


 梧桐ごとうの葉は手のひらの形に似てて、夜になると風に揺れて“パチパチ”と音を立てる。

 まるで幽霊が手を叩いてるように見えるから、俺たちはあれを「幽霊拍手ゆうれいパチパチ」と呼んでる。


 俺が子どもの頃、梧桐の木の下で、首を吊った幽霊が四体、舌を出して俺に向かって拍手してたのを見たことがある。

 俺は笑顔で応えてやったら、奴らはびびって逃げていった。

 おかげで、あの四匹は一生俺の顔がトラウマになっている。


 ……でも、この男の家、まさかの三連コンボ。

 桑、柳、幽霊拍手——全部揃ってるって、どんだけ呪われてるんだ!


 しかも、T字路のど真ん前ってのも大問題。

 家の正面にまっすぐ突っ込んでくる道があると、運気がぶつかって不幸を招くってのが風水の基本だ。


 行き場を失った浮遊霊とか迷子の幽霊が、その道を通ってこの家に迷い込んできて、住みついてしまうこともある。


 ドアが閉まっていようものなら、門の前でこう歌い出す幽霊もいるんだぜ?

「ここで待ってるから、早く戻ってきて〜」……ってな。


 さらに、家の中には奴らが大好きな“鬼樹”が生えてるわけだから、

「お、ここの家主、俺たち歓迎してくれてんじゃん」って思われて、

 どんどん居着く。


 そうなると、家全体が“死気”に包まれていく。

 生気が完全に消されちまえば、そこに住む人間は……みんな破滅する!


 俺は家の外も確認した。

 狭い路地に面していて、その路地は途中で新しい工房にぶった切られていた。

 つまり、完全なる“袋小路”——またの名を「死路」。


 家をそんなところに建てるのは、絶対ダメ。

 災難に巻き込まれ、訴訟や争い事が絶えず、しまいには財産を失ったり、病気や事故に見舞われたりする羽目になる。


 ……誰だよ、こんなえげつないことしたやつ。

 心も良心も真っ黒じゃねーか。

 兄弟を仲違いさせて、凶宅まで建てさせるなんて……どんだけ業が深いんだ!


 夢と希望のマイホームが、一転して地獄の玄関口に。

 もし男の命運が人並みだったら、とっくにあの家に殺されてたはずだ。


 あの「高人」とやらは、何らかの手段を使って、弟の運気を丸ごとシャットアウトした上で、全部兄貴に流し込んだんだ。


 その具体的な手口までは、今の段階じゃ分からない。

 でも、男の兄貴に会えば、何かが見えてくる気がする。


 本来、弟が得るべき幸運を兄貴が盗み取り、

 それでいて悔い改める様子もない。

 金と女に溺れて、賭博三昧の毎日……まったく、情けない話だ。


「安心してください、お客様の人生、ここから一気に巻き返して差し上げます。

 この私に任せておけば、今後の人生は大富大貴、波乱とは無縁ですよ!」



風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。


筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。


干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。




本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。


一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。




もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——


それもまた、偶然ではなく必然。


このご縁に、心より感謝いたします。

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