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第三十九章 浮気

 俺は冗談を言ってるわけでもない。

 断言できる——あの富豪の嫁の腹の子は、絶対に本人の子じゃない!


 普通、浮気してる女ってのは、わざとじゃなくても、どこかしらに「まともじゃないオーラ」が出てるもんなんだ。

 その気配は、気を張らなくても自然と漏れ出てて、見る人が見ればすぐに分かる。


 人相から見ると、眉毛が黒くてバラついてて、鼻が高くて細く、さらに人中(鼻と唇の間)が一本線のように真っすぐな女——

 これは満足を知らないタイプで、結婚前でも後でも、他の男と妙に距離が近くなりがちなんだよ。


 あの富豪の嫁はまさにそれ。人中がやたら深くて長い。

 人相学では、人中ってのは「妊娠能力」や「欲望」と深い関わりがあるって言われてる。


 で、欲望ってのは人の行動を支配する。

 つまりこの欲が強いってだけで、浮気に走る可能性はグンと上がるんだ。


 さらに言えば、人中が深くて長い女は、性格もなかなかに強気。

 そうなると、結婚生活で満足できなくなりがちで、自分の男が自分を満たしてくれないと、外に求める確率が跳ね上がる。


 彼女の額から山根(鼻の根元)にかけての相もまたひどい。

 額の生え際から印堂、山根にかけて、乱れたシワや横ジワ、斜めジワが出てる——これはつまり「身は曹操の陣にあれど、心は劉備にあり」ってやつで、つまりは心ここにあらず。

 私生活はグッチャグチャだ。


 結婚しても落ち着くわけじゃなく、家庭の外にもう一つ家庭を持ってるようなタイプ。

 しかもバレることを恐れない。

 生まれながらのモテ体質で、何人もの男を同時に手玉に取るような女だ。


 でもこういう女は必ずツケが回ってくる。

 晩年には孤独に泣く羽目になるだろう。


 俺は富豪の前に座ったまま、どうしたもんかと頭を抱えていた。


 富豪も俺の様子から、何か変だと気づいたらしく、気まずい空気が漂いはじめた。


「先生、体の具合でも悪いんですか? 遠慮せずに言ってください、どんな話でも俺、ちゃんと受け止めますから!」


 俺は咳払いをひとつして、こう答えた——


「ちょっと喉が渇きましてね……できれば“緑茶”を一本お願いできますか?」


 その瞬間、あの富豪の嫁が椅子からピョンッと飛び上がった。

 顔色がみるみるうちに青ざめていく。


 ……やっぱりな。俺の目は間違ってなかった。

 こいつ、やましいことがある顔だ。


 富豪はといえば、まったく気づいてなかった。

 俺が本当に緑茶を飲みたいんだと思い込んで、冷蔵庫へ取りに行っちまった。


 その隙を逃さず、女が俺の目の前までツカツカ歩いてきて——


「若い坊主、口の利き方には気をつけな。下手なこと言うと、ただじゃ済まないわよ?」


 完全に脅しだ。

 だが、それで俺の中にある“ある思い”が燃え上がった。


 ——ぜっっったいにこの女の正体を暴いてやる!


 こっちは生まれついての“気骨系男子”。

 甘い態度には弱いが、強気に出られると本気でムキになる。

 押せば引くと思ったら大間違い、こっちは根っからの戦闘民族なんでな!


「俺は揉め事は起こさねぇ。けど、いざとなりゃ絶対に引かねぇ」

 ——これが俺のモットーだ。


「先生、緑茶持ってきましたよ~!」


「ああ……いや、もういいや。急に喉乾いてる気がしなくなった。」


「えっ?」


 富豪は明らかに戸惑ってた。

 俺の機嫌が悪いことに気づいたらしく、気まずそうに緑茶のペットボトルを開けて、グビグビ飲み始めた。


 だが、飲んでる途中で何かに気づいたらしい。

 目がキョロキョロと落ち着かなくなって、最終的に女の方へピタッと視線が止まった。


 スーーーッ……


 彼は思わず息を呑んだ。

 嫌な予感が、身体中を駆け巡っていったんだろう。


「先生……ちょうどいい。地下の倉に百年物の酒があるんですよ。今日はちょっと、俺と一杯やりませんか? いや、酔い潰れるまででもいい!」


 まるで芝居じみた口実だけど、男同士、言わんとしてることは分かる。

 彼はもう俺の“サイン”を受け取ったってこと。

 酒を取りに行くってのはただの口実で、本当の狙いは——威厳の再構築ってやつだ。


 俺は富豪と一緒に階段を下り、振り返って女をチラッと見た。


 その表情はピリッと張り詰め、拳はギュッと握りしめ、歯を食いしばって「ギリギリ……」と音がしそうなほどだ。


 女の第六感ってのは案外バカにできない。

 彼女はもう、何かがバレたことを“察知”していた。


 地下室に着くと、富豪はいきなり俺の手をガシッと握って、焦り気味に聞いてきた。


「先生! 何か分かったんですね? 頼む、教えてください!」


「えーっと……いや、ちょっとそれは言いづらいなぁ……」


「大丈夫、ここには誰もいない。遠慮せずに全部言ってくれ! うちの嫁の腹の子……まさか、俺の子じゃないとか!?」


 うおおおお!?


 この男、なかなか鋭ぇじゃねえか……!

 まさかそこまで一発で読み当てるとは。


 俺は黙ってコクンと頷いた。

 すると——


「よっしゃああああああ!! よっしゃああああああ!!! 神様ありがとうううう!!」


 えっ?


 な、なに……この人……なんでそんなに嬉しそうなんだ……?


 嫁の腹の子が自分の子じゃないと分かった瞬間、飛び跳ねて喜び出した!


 こいつ、正気か? それともすでに何かがおかしくなってるのか?

 こんな事実を突きつけられたら、普通の男なら魂が半分抜けてもおかしくねぇ。

 だけどこいつ、飛び跳ねるほど喜んでやがる。そんなケース、滅多に見ねぇよ……


「お、お前……本当に大丈夫か?」


「先生、安心してください! 実はね、俺……前からちょっと怪しいと思ってたんですよ。でも、怖くて何も言えなかったんです。万が一、本当に俺の子だったらどうしようって、マジで震えてたんです。でも、今わかったんですよね? 俺の子じゃない! 最高です! 本当にありがとうございます!」


 ……いや、リアクションがおかしいだろ!


 俺の想像のはるか上をいく反応に、逆にちょっと引いたわ。


 こんな浮気されて、普通は怒るか、落ち込むか、黙り込むか……

 でもこいつは違う。まるでロト6でも当たったみたいなテンションだ。


 他の人がどう思おうと知ったこっちゃねぇが、目の前の富豪は明らかに“嬉しさ爆発中”だった。


「先生、ちょっと待っててください! 百年物の酒、今すぐ持ってきます! 今日はトコトン飲みましょう!」


 ……はは、こいつ、本当に飲む気満々だな。

 まあ、ここまできたら俺も腹をくくって、とことん付き合うしかねぇか。

 それに、富豪の“真の目的”も探れるかもしれねぇ。


 金持ちってのは、俺ら凡人とはやっぱ考え方が違うのか……

 その答えは、すぐに出るだろう。


 二階に戻ると、富豪の奥さんはさっきと同じ場所に座ったままだった。

 だが、背中はすっかり汗で濡れてる。

 そして、ジッと俺の顔を見つめながら……手のひらを広げて、口をパクパク動かしてきた。


「ご~~ひゃく~~まん~~」


 ……声は出してねぇが、ハッキリと読み取れた。

 そして俺はこういう“金の匂い”にめっぽう敏感なんだ。

 子供の頃からカネに関しては天性の嗅覚があるんでね。


 この女、なんと封口料として五百万……!


 はあ〜……

 さっき富豪が緑茶を取りに行ってる時に、こうやって優しくされてたら……

 もしかしたら、ちょっとは考えたかもしれねぇのに。


 でも今となっては、もう手遅れだ。

 全員、もう“分かってるけど言わない”っていう、不文律の茶番劇に突入しちまってるからな。


 富豪は、自分の子じゃないと分かってる。

 でも口には出さねぇ。

 女は、俺が知ってることも分かってる。

 さらに、旦那が俺から全てを聞いたことにも気づいてる。


 つまり……

 全員が“知ってるけど黙ってる”という最悪の構図だ。


 俺以外の二人は、もう腹の中でグルグルと裏を読み合ってる。


 三人揃って、まるで演技派俳優。

 誰が最初にボロを出すかっていう、まるで心理戦の舞台だ。


 でもよ……

 こういうの、正直キライじゃねぇ。

 もしさっき、五百万に釣られてさっさと帰ってたら——

 こんな面白ぇ劇場を見逃すところだった。


 ……いやぁ、残ってよかったわマジで。

風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。


筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。


干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。




本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。


一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。




もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——


それもまた、偶然ではなく必然。


このご縁に、心より感謝いたします。

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