表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/40

第三十六章 屍煞

 マイバッハに乗るってのは、やっぱり格が違う。


 車内はとにかく広い。特に後部座席なんて、自分が普段「やりたいけどできなかったこと」をこっそり実行できそうなスペースがある。


 周りを走る車も、うちの車を一目見てすぐさま距離を取る。そうか、金持ちがやたら高級車に乗り換える理由、今ならちょっとわかる気がする。きっと、この「俺様感」がたまらないんだろう。


 ……でも、俺は違う。もし道で高級車と鉢合わせしても、絶対に遠慮なんかしない。そっちが避けろ、ってなもんだ。


 1時間ほどで、車はある別荘の前に到着した。


 その別荘は、どこか気品とロマンを感じさせる雰囲気で、天井の高い玄関ホールに堂々とした門構え、丸いアーチ型の窓と角にあしらわれた石造りが、豪奢で気取った雰囲気を見事に演出していた。


 白い木製フェンスに、尖った赤褐色の屋根、青々とした芝生──異国情緒たっぷりだ。内部もヨーロッパ調のキャビネットやクラシックな隠し酒棚など、細部にまでデザインのこだわりが見える。


 中に入ると、まず目に入ったのは贅の限りを尽くしたホール。複雑なデザインの照明が冷たい光を放ち、高くそびえ立つ壁が柔らかい絨毯に重たい影を落としていた。広々としてはいるが、どこか冷ややかで寂しい長い廊下を抜けると、有名画家の絵が並んでおり、その中の人物たちの目がまるで心を見透かすように感じられた。


 室内の設計はもちろん一級品だったが、その豪華な装飾の下に潜む、息苦しいような冷たさと重苦しさまでは隠せなかった。


 クラシカルで開放的、尖塔型の屋根に、漆喰を塗った木造フレームと柱装飾、自然素材と絡みつく蔦がいい味を出していて、古風だけどダサくない。シンプルだけど洗練されていて、自然でリラックスできる雰囲気。中庭には水辺のデッキ、プール、回廊までついていて、まるで田園リゾートのような優雅な暮らしぶりがそこにあった。


「山もある、水もある、林もある~~チッチッチ……これはたまらん!」


 もうこれ、別荘なんて言葉じゃ足りない。まさに“桃源郷”だ!


 しかも、この別荘地の一軒あたりの敷地が、ざっと見てもサッカー場くらいはある。まったく、桁が違うってやつだ。


 高台から見下ろすと、青々とした芝生の中央に、なにやら妙な気配が漂っていた。


 その中心からは、うっすらと黒い煙が立ち上っている。その煙は、時にクネクネ、時にスッと真っすぐに伸びたり……ただの煙とはとても思えない。


「見えたか? あの場所だ。掘り起こさせろ!」


 俺は黒煙の中心を指さした。富豪は即座にうなずき、プロの作業員を呼んで掘削作業を開始した。


 約1時間後、作業員の一人が血相を変えて屋敷に駆け込んできた。そして富豪にこう告げた。


「大変です! 土の中から真っ赤な棺桶が出てきました! それに重機オペレーターが突然呼吸困難を起こして……意識を失ってしまいました!」


屍煞しさつだ……!」

 俺は高台に立って、そこから立ち上る黒い煙の筋を目にした。あれが「屍煞」だ。

 もし生きている人間が通りかかったり、暴力的に触れたりすれば、腐食される危険がある。

 あの重機のオペレーターは、まさに屍煞に侵されたのだ!


 富豪は作業員に救急車を呼ばせて、重機オペレーターを病院へ搬送しようとしたが、俺はそれをきっぱりと止めた。


「無駄だ。屍煞にかかった者は、医療ではどうにもならない。

 病院に送っても、待っているのは死体になるという結末だけだ!」


 俺は大げさに言っているわけじゃない。

 屍煞にやられた者の身体は氷のように冷たくなり、全身の自由が利かなくなる。まるでドロドロに溶けた泥みたいに。


 目は閉じていても、頭は冴え渡っていて、周囲で何が起きているのかはすべて見えている。

 それこそが、屍煞の最も恐ろしいところなんだ!


 ──かつて、京城に有名な打ち首執行人がいた。

 長年、首斬りで生計を立てており、囚人に死刑が言い渡されると、家族たちはこぞってその執行人に賄賂を渡し、少しでも楽に死なせてくれと願った。


 だからこの職業は罵られることも多かったが、実は結構儲かっていた。


 ただ、あまりにも業が深すぎる職業だったため、師匠は弟子にこう教える——

「打ち首執行人は、生涯で切っていい首は99個まで。もし100個を超えたら、天罰が下り、自分は即死するし、家族まで道連れになる」と。


 だが、ある執行人はその教えを信じなかった。

 彼はたった五年で99個の首を斬り、多額の貯金を手にし、妻子を持った。


 本来ならそこで引退すべきだった。だが、彼はあえて逆らい、引退せず、運命に挑んだ。


 ある日、新たに死刑囚の首を斬る任が舞い込んできた。

 彼はためらうことなく、それを引き受けた。


 家を出ようとしたその時、突如として空が暗転し、雷が轟き、土砂降りの雨が降り始めた。


 妻は「これは天の警告よ。行ってはいけない。首を斬れば天罰が下る」と必死に止めたが——


 男の決意は固く、雨の中、彼は刑場へと向かった。


 こうして、彼は第100の首を斬ったのだ。


 その日から、彼は悪夢にうなされるようになった。

 巨大な血の池の中に沈められ、周囲には頭のない死体がうようよいて、次々と彼の首を絞めようとする──そんな夢ばかり。


 やがて男は正気を失い、狂人となった。


 妻は耐えきれず家を出ていった。

 幼い息子だけを置いて。


 当然だろう。自分のことすら面倒見られない男に、子どもを育てられるはずがない。


 その後、まもなく息子も亡くなった。


 そして三日後、男の死体が発見された。

 なんと、墓地の中で冷たくなっていたのだ──!


 陰陽師が通りかかり、死体を調べたところ、彼は「屍煞しさつ」に侵されていたと断定した。彼の手にかかって死んだ多くの冤魂が命を奪いに来て、次々と彼の体に入り込み、魂識を貪り食った末に命を落としたのだ。


 屍煞にあたると、体は一切動かなくなるが、周囲で起こっていることははっきりと意識できる。百鬼が自分に何をしてくるのか、すべてを感じながらも反論も逃げることもできない。これこそが、最も人を苦しめる地獄のような感覚なのだ。


 そして、なぜ彼が墓地で死んでいたのかは、今もって謎のままだ。


 今、ショベルカーの運転手も同じく屍煞に襲われている。つまり、あの赤い棺の中には、赤い服の女幽霊以外にも、さらに凶悪な穢れた存在が潜んでいるということ!


 どうやら、あの二体の女の死体も、ただの厄介事では済まされないようだ。今回の除霊任務を無事に終えるには、奴らも始末する必要がある!


 だが、まずはショベルカーの運転手の命を救うのが先だ。


 俺は運転席に飛び乗って運転手を背負い、赤い棺から遠ざけた後、地面に仰向けに寝かせた。


 その時、運転手の顔色はすでに鉄のように青黒く、呼吸は荒く、口から泡を吹き、全身が激しく震えていた!


 もう、あの二体の女の魂が、彼の魂識を喰い始めている。今止めなければ、持って数分というところだ!


 俺は富豪に、大きな雄鶏一羽、茶碗一つ、白い蝋燭二本、紙銭をすぐに用意するよう指示した。


 間もなく、それらが目の前に揃った。


 俺はナイフを取り出し、雄鶏の首をスパッと切った。滴り落ちる血はすべて茶碗に受けた。


 白い蝋燭に火を灯し、体から符と朱砂を取り出して、朱砂で符に辟邪の印を描いた。


 描き終わった符を火で燃やし、すぐさま血の入った茶碗に投げ入れる!


「陽明の精、神威は心に宿り、陰魅を封じ、人の形を離れよ。霊符ひとたび、魔を崇めることなかれ。これに背けば、天兵現る。勅!」


 俺が唱えたのは、「六丁六甲誅邪符」、邪祟を退けるのに特効があるやつだ!


 符が血碗の中で燃え尽きた後、俺は運転手を抱き起こし、口をこじ開けて、符の灰ごと混ざった鶏の血を一気に飲ませた!


 すべて飲ませ終わると、俺は茶碗を叩き割った!


 あらかじめ用意していた紙銭を取り出し、空へと放る!


「太上台星、応変にして停まることなし。邪を祓い魅を縛り、命を護り身を守る。智慧は清らかに、心神は安らかに。三魂は永く固まり、魄は失われることなし。太上老君、急急如律令!赦!」


 俺が浄心咒を唱えると、空中に無数の見えない手が現れ、紙銭をすべて掴み取っていった!


「ゴホッ、ゴホッ……」


 ショベルカーの運転手が咳き込んで目を覚ました。よし、効いた!


「金稼ぐのも命がけだな……穴掘ってたら命まで落とすとこだった。今度は腹一杯に鶏の血まで飲まされてよ、くそ……マジで割に合わねぇ!」


「もっと金よこせ!」

風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。


筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。


干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。




本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。


一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。




もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——


それもまた、偶然ではなく必然。


このご縁に、心より感謝いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ