第三章 ウサギが銅鑼を叩き、ゾウが竹馬に乗る
ひと目でわかった、こいつら、人間じゃない。
こんな子供騙しの術を俺の前で披露するなんて、笑わせるぜ……って言いたいところだが、今の俺はあの女の幽霊に縛られて身動きが取れない。仕方なく、この群れの中に紛れて、化け物たちと一緒に芝居が始まるのを待つしかなかった。
集まった化け物たちは姿形もバラバラで、腕や足が欠けてる奴なんかざらにいる。十体集めてもまともな一体にならないくらいだ。中には頭すらないくせに、丼サイズの大きな瘤を頭にのせて舞台の前に蹲ってる奴までいる。まさか、瘤で音を感じ取ってるのか?
「カーンカーン~~」
やかましい銅鑼の音が二つ鳴ると、舞台の奥から一匹のウサギが跳ねて出てきた。手にはまさに、あの破れた銅鑼を持っている。
「皆さーん、今夜の大芝居、まもなく開幕でーす! お金ある人はお金で、お金ない人は笑顔でご応援よろしーく!」
出た、しゃべるウサギ! 幻覚か? いや、この地に来てからの経験上、これくらいではもう驚かない。
ぼんやりと次に何が出てくるか考えていると、舞台から二胡と木魚の音が聞こえてきた。すると、一頭のゾウが、なんと高下駄を履いて、優雅に舞台へと登場した。
まさかの宙返りを決め、観客を驚かせた!
それだけでなく、髪の毛ほどの細いロープの上に見事に着地し、チラッとこっちを見て……え、顔、赤くなってないか?
嘘だろ、ゾウが俺に惚れた? 照れてるのか?
なんてこった、この光景、もうカオスすぎる!
でもゾウの出番はすぐ終わって、次に登場したのは、ぽっちゃりどころかデブすぎるブタたちの集団。なんとそのブタたち、音楽に合わせて妖艶にポールダンスを踊り出したじゃないか!
俺はもう完全に呆けて、こんな光景、生まれて初めて見た。いや、これはもう伝説級のパフォーマンスだ!
「いいぞ! 最高だ!」
無意識に拍手して、つい叫んでしまった——
……これが命取りになるとは思いもしなかった。
ステージ上の演目がピタッと止まり、観客だった化け物たちが一斉にこちらを向いた。どいつもこいつも不気味な表情を浮かべ、あの女の幽霊だけがニッコリと笑っている。
ようやく悟った。こいつ、俺を芝居に誘ったのは、楽しませるためじゃない。
——ここに俺を「留める」ためだったんだ!
この女幽霊、最初から俺の命を狙ってやがった!
俺はこいつに何もしてないはずなのに、なんで殺されなきゃならない!? まさか……俺の肉体が目的か!?
あたりを見回すと、観客席には百体を超える化け物がいて、どれも凶悪な目で俺を睨んでいる。今の俺じゃ、逃げるどころか指一本動かせない!
「ここにいろ~~ここにいろ~~」
「この若いの、イケメンだねぇ、あたしゃ好きだよ! 旦那さんになってくれよ~」
どこからか現れた80歳も超えるシワくちゃのババアが涎を垂らしながら迫ってきた。どう見ても長年欲求不満のやつだ。
「誰がお前なんかと! 鳥肌をたつ!? 俺の童貞は、こんな老骨に捧げられるほど安くないんだよ!」
必死にもがいても、体はやっぱり動かない。
やっぱりあの女幽霊、俺が芝居に夢中になった隙に拘束を少し緩めて、俺が拍手して正体バレするのを待ってたんだ! そして今、目的を達成して、再び俺を拘束したってわけだ。なんて陰険な女だ!
その時——どこからか懐かしい声が聞こえてきた。
「おい、王鉄男さん、こんなとこで何やってんだ! 早く戻れ!」
目を上げると、そこには見覚えのある老人が立っていた。——村の王じいちゃんだ!
でも、じいちゃんって、五、六年前に亡くなったはずじゃ!?
「死んだあと、身分証明と戸籍謄本をなくしてな、手違いでこの村に送られちまった。お前も今後は物無くすんじゃないぞ! さあ行け、お父さんによろしく伝えといてくれ!」
生前から義理堅いじいちゃんだったが、まさか死んでもこんなに男前とは……涙が出そうになった。
じいちゃんは俺を思いっきり突き飛ばし、振り返って女幽霊の顔面に小便をぶっかけた!
おいおい……この歳でなんちゅう尿量だよ!? 女幽霊は地面を転げ回る羽目に。
俺は体の自由を取り戻し、急いで指を噛み切り、童貞の血を額に塗った。これで邪気を防げるはず!
「鉄男さん! 北に走れ! 十分でこの村から抜け出せる! あ、それから、帰ったら若い女の子を二人、俺に焼香代わりに焼いてくれ。若くてナイスバディで頼むぞ!」
「わかった、王じいちゃん! ご無事でな!」
どうやら、じいちゃんも長年独り身で寂しかったらしい。この願いくらい、命の恩人のためなら叶えてやらねば——二人と言わず、二十人でも送ってやる!
俺は全速力で北へ走り出した。もう命がけで! そして本当に、十分間もしないうちに、あの地獄みたいな村から抜け出して、現世に戻ることができた。
懐かしい村の風景が見えた時、心からホッとした。あの女幽霊、本気で俺の命を奪うつもりだったんだ……今思い出しても背筋が凍る。
家に戻ると、力尽きてベッドに倒れ込み、翌日の昼まで眠りこけた。
目を覚ますと、目の前に立っていたのは……親父だった。しかもめちゃくちゃ怒ってる。
「お前、昨日誰と一緒に行ってた!?」
俺は正直に、盗掘屋と一緒だったと答えた。親父は激怒し、すぐさま羽根ぼうきを取り出して、俺をぶっ叩き始めた。
心の中ではこう思ってた——大金が目の前にぶら下がってんのに、手出さない方がバカだろ? 家族のためを思ってやったのに、何でこんな目に?
けど親父は聞く耳を持たず、俺を物置に閉じ込め、「反省するまで出すな!」とまで言いやがった。
俺は意地っ張りな男だが、この場は屈してやるしかない。
すぐに膝をつき、甘えた声で懇願した:
「パパぁ~もうしません~許してよぉ~」
……この手が通用しなかったのは、俺が初めてかもしれない。
親父の顔色が一瞬で変わり、全力で俺を殴りながら叫んだ:
「キモすぎるんだよ貴様ァ! 俺の人生で、こんな気色悪い息子見たことねぇ!」
……なんでこうなった。
俺は心の中で呟いた、「親が親なら、子も子だ」。この性格は、きっと遺伝のせいでもある。
気まずい空気を変えようと、俺は昨夜の女幽霊の話を大げさに語って聞かせた。
「家に女の幽霊が現れてさ、めっちゃ美人で、俺のイケメンボディに惚れちまって、俺を婿にしようと企んでたんだ! そんで俺を幽霊村に連れてって、ゾウが宙返りして豚がポールダンス踊る芝居見せられて……あいつ、俺を騙して一生一緒に過ごそうとしてたんだよ!」
親父は真顔で黙って聞いていたが、やがて渋い顔で俺をジロジロ見回し、こう呟いた:
「おかしいな……お前みたいなツラで、なんで女幽霊に好かれるんだ? あの幽霊、視力弱いんじゃないのか?」
……え?俺ってそんなにブサイクなの? 俺って拾われ子だったのか? アイデンティティ崩壊寸前。
顔面蒼白になってる俺を尻目に、王じいちゃんの「嫁を二人焼いてくれ」って話をすると、親父はようやく笑った。
「はは、あのエロじじいめ……よし、息子を助けてくれた礼だ、ナイスバディのを二人、ちゃんと焼いて送ってやるか!」
風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。
筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。
干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。
本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。
一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。
もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——
それもまた、偶然ではなく必然。
このご縁に、心より感謝いたします。