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第二十八章 お前ちょっと我慢しろ

 王おばさん家の虎子は運が良かった。川で泳いでいたとき、何年も前に死んだ二超に身代わりとして狙われたのに――


 足首についた手形がその証拠だ!


 だが、二超は相手を間違えたらしい。まさか虎子があんなに生命力の強い奴だとは思ってなかったんだろう。なんとあいつ、二超の手から逃れて、一緒に泳いでいた子供たちに助けられて帰ってきたんだ。


 うちの地域にはこういう風習がある――


 溺れた人を家に連れ帰ったときは、生死を問わず絶対にベッドに寝かせてはいけない。代わりに、ゴザやワラの敷物みたいなもので地面に寝かせる必要がある。


 この習わしにはちゃんと理由がある。ベッドは休むための場所、床は歩くための場所。溺れた者は意識が混濁していて、自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなりやすい。もし体をベッドの上に置いてしまえば、「あ、自分はもう安らかに眠っていいんだな」と錯覚して、魂が抜け出してしまうってわけだ。そうなったら、もう救う手立てはない。


 もちろん、別の説もある。


 人が死ぬとき、近くの物を一緒にあの世へ持っていくと言われていて――ベッドで死ねば、死後にそのベッドを背負って行くことになる。それがどれだけ重いか、想像つくだろう? でも、もしゴザだったら? 軽くて済む。


 どっちの説を信じるかは、ご自由に。ただ、俺は後者のほうが説得力あると思ってる。なぜって、このあたりの年寄りはみんな、亡くなる前はベッドに寝かせず、居間にゴザや藁を敷いて、その上で息を引き取るのが普通なんだ。息を引き取ったら、遺族が泣いて頭を下げてから、ようやく棺が家の中に入る――これが一連の流れだ。


 もちろん、病院で亡くなった人は別。そういうケースにはこの風習は当てはまらない。詳しくはあとで説明する。


 …っと、話が逸れたな。虎子に話を戻そう。


 あいつが未練たらしく魂を抜かさない理由も、分かる気がする。


 生前の二超とは仲が良かった。まるで兄弟のような間柄だった。


 その兄弟が――自分の命を奪おうとした。身代わりにしようとした。…そりゃ怒るだろ。誰だってキレる。


 他の人の顔色が青紫だったら、それは死にかけのサインだけど――


 虎子の顔が紫なのは、完全に怒りのせいだ!


 虎子って名前も、なるほどって感じだよな。小さいけど、気性は虎並みに荒い。


 でもまあ、そういう性格だったからこそ、命拾いできたわけで。


 魂が体から出なければ、俺がなんとかしてやれる。虎子、必ず助けてやる!



「親父、今から川に行って二超を探そう!」


 鈴を解くには鈴をかけた者——つまり、虎子を救いたいなら、二超を見つけなきゃならない!


 もし二人の間の怨みを解くことができれば、虎子の足首にある手形の痕も消える。封印さえ解ければ、虎子の命門は開き、三魂七魄も完全に身体と融合できる。そうなれば、虎子は生き返るってわけだ。


「虎子を連れて、あたしも一緒に行く!」


 王おばさんは、俺たちの計画を聞いて同行したいと言い出した。


 それは悪くない選択だ。もし本当に虎子と二超の因縁を解くことができれば、その場で即座に次の段階に進めるからな。


 ……が、よくよく考えた末、俺と親父は彼女の申し出を断った。というのも、もし二超が手強かった場合、王おばさんは現場で何の助けにもならず、むしろ足手まといになる可能性が高いからだ。


 俺と親父は川辺に向かった。川の水は静かで、邪なものは見当たらなかった。


 まさか、俺たちが来ると察知して、二超が隠れてやがるのか?


 その可能性も十分ある。


 俺と親父が川辺にしゃがんでいたその時――不思議な光景が目の前に広がった。


 何かが、俺たちの方に向かってふわりと漂ってきた。


 よく見れば、それは川の水面に浮かぶ、やたらとデカい秤の重りだった!


 秤砣ってのは、誰でも知ってる通り、中身の詰まった鉄の塊で、クッソ重い。普通なら水に入った瞬間にズブッと沈むはずだが……今日の秤砣は違う。水の上を、まるで生きてるかのように、ヌルヌルとこっちに漂ってきやがる!


「鉄男、来たぞ!」


 親父が言う“来た”ってのは、もちろん二超のことだ。この水面に浮かぶ秤砣こそ、あいつが身代わりを探す常套手段なんだ。


 こういうのに、興味本位で近づくヤツは多い。何だろう、って覗き込んでるうちに、気がついたら自分の身体がすでに水の中。自覚がないままズブズブ入っていって……気づいた時には、すでに溺死霊の代役、って寸法だ。やり方がマジで陰湿。


「虎子も、この重りにやられた口だな……」


 まだ十代のガキは、新しいモノとか、見たことない現象に、つい引き寄せられちまう。だからこそ、虎子もあれに手を出してしまったんだろう。


「下を見ろ……鉄男!」


 親父の言葉に促されて、俺は川の中を覗き込んだ――そこで、**“それ”**は現れた。


 目の前に、一つの頭が浮かんでいた。


 その顔は、死人みたいに真っ白で、触れなくてもわかる。たぶん、あの肌、めっちゃスベスベだ。


 水の中の顔は、黒い穴のような目でジッと俺を見つめてきて、しかも口元には、なんともいえない不気味な笑みを浮かべてやがる!


 額から垂れ下がった長い髪が、川の中でフワフワと揺れていた。まるで命を奪うために蠢く触手の群れみたいに、今にも飛びかかってきそうな勢いで!


 俺は二超のことを少し覚えてる。

 川の中に見えたその首は、間違いなく二超だった!


「親父、どうする?」


「ヤツを誘き出す!」


 親父の作戦に俺は大賛成だ。誰かが溺れたフリをして、溺死霊をおびき寄せ、その隙にもう一人が仕掛けて、ヤツを川岸に引きずり出すって寸法だ!


 夏の炎天下、水から離れた溺死霊は長くもたない。すぐに灰になって消える。そうなれば、こっちが主導権を握れるってわけ。交渉の場を作って、ヤツに立ち去らせるチャンスが生まれる!


 理屈は分かる。でもな、誰がその“溺れる係”をやるのかって話だよ?


 まさか俺じゃないよな?


 俺はまだ若いし、もしミスったらシャレにならん!


 でも親父はもう年季も入ってるし、色々経験してるし、息子だっている。万が一失敗しても、まあ…悪くない人生だったんじゃね?


 俺は親父の顔を見つめながら、目に涙を浮かべた。今回親父が潜ったら、二度と上がってこれないかもしれない。これが最後の親子の時間かもしれない…怖くてたまらなかった。


「親父、気をつけてくれよな! 俺、親父を失いたくねぇよ〜〜」


「心配すんな。ちゃんと気をつける。お前は安心して――行け!」


 ……は?


 親父は俺の躊躇を見て、突然思いっきり俺を川に突き落とした!


「このクソガキ、芝居が長ぇんだよ!」


 ちくしょう、これが“父の愛”ってやつかよ。山より重く、崖よりも急だな!


 水に落ちた俺は、泳げないフリをして「助けてくれ〜!」と叫んだ。

 すると案の定、溺死霊二超の目がギラリと光り、こっちに猛スピードで近づいてきた!


 そして、ヤツの細くて長い手が俺の足首をガシッと掴んできた!


「うわあああっ!」


 骨だけのその手は異様な力強さで、俺の足首に激痛が走った!

 まるで骨ごと握り潰されそうな感覚、痛みが脳天に突き刺さる!


「親父! まだかよ!? 早く助けてくれって!」


 俺は叫んだ。親父はなぜか微動だにしない。

 頼む、早くしてくれないと本当に死んじまう!!


「鉄男、お前ちょっと我慢しろ。こっちも手が離せない!」


 はあああ!?

 今この状況で他にやることって何なんだよ!?


 命より大事な用事があるってのか!?


 俺は絶望した。


 ……が、次の瞬間もっと絶望した。


 なぜなら、俺の方に向かって――

 さらに六体の溺死霊が這い寄ってきてるのが見えたからだ!!


 溺死霊一体でもうギリギリなのに、六体追加!?

 そりゃ親父も「ちょっと他の用事ある」って言うわけだよ!!

風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。


筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。


干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。




本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。


一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。




もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——


それもまた、偶然ではなく必然。


このご縁に、心より感謝いたします。

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