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第二十四章 俺を狙ったのか

 親父が教えてくれたんだ——

「“霊の縁探し”ってのは、なにも女の幽霊だけじゃない。男の幽霊だって相手を探すんだぞ」


 でもな、そこには決定的な違いがある。


 幽霊女の縁探しは、一生に一度きり。

 一度誰かを選んじまったら、もうそれ以降は二度と相手を変えられない。

 だからこそ、幽霊女はめちゃくちゃ慎重になるんだ。ちょっとやそっとの男じゃ、絶対に首を縦に振らない。


 つまりだ、俺が今回ターゲットにされたのは——

 それだけ俺が“魅力たっぷりのイイ男”って証拠ってことよ。もう、どうしようもないほどな!


 で、男の場合はというと——

 なんと、毎年一回まで縁探しができる。回数制限なし。


 ただし、誰でもってわけじゃない。

 あっち(あの世)での“預金残高”がある程度ないと、そもそもエントリー資格すらない。

 つまり、金がなきゃ縁なんて探せないってこと。まるで現世と一緒だな、嫁さんもらうにはまず金、ってヤツ。


 男に選ばれた女の子は、たいていロクな目に遭わない。

 早死にするか、突然の事故か、重病になるか——

 とにかく、どんな死に方をするかは、その男の幽霊の“趣味”次第ってわけだ。

 サッパリ系の幽霊なら安らかに終わらせるけど、変態気味のヤツだと、最後の一瞬までしっかり“楽しませて”から命を取る……とか。


「鉄男よ、この幽霊女もな、実はけっこう不憫な身の上なんだよ。俺の考えとしては、一回話し合ってみたらどうだ? もし、あいつが自分から身を引くってんなら、それで済ませればいい。……ただし、どうしてもお前に取り憑くってんなら、そん時は別の手を考える、ってことでどうだ?」


 親父が言うには——

 今、お前に取り憑いてるその幽霊女は、すでに百年も経ってる。あの世じゃ立派な“資産家”、いわば富豪だ。


 生前は、清の末期に宮廷に仕えてた“宮女”だったらしい。

 ある日、部屋の掃除中に、たまたまあの“西太后さま”の机の上にあったお菓子の箱をひっくり返してしまったんだと。

 そしたら、なんと井戸に放り込まれてそのまま殺されたって話だ。


 ……そりゃ、可哀想にもなるわ。

 たかが菓子をひっくり返しただけで、冷たい井戸の中に百年も沈んでるなんてよ……


 思い返せば、夢の中であの女が言ってたこと、全部本当だったんだ。

 たしかに、あいつは“助けてほしい”って必死だった。

 今の状況じゃ、向こうがこっちにお願いしてる立場なわけだから……交渉の余地、ありってことだろ。


 俺は、親父の提案を受け入れた。

 もしあの女が素直に身を引くなら、俺たち親子もそれ以上は追わない。

 だが、それでもしつこく付きまとうようなら——

 そん時は……容赦しない。


 親父は部屋のドアをしっかり閉め、カーテンもすべて引いた。

 部屋の中は完全な暗闇。まるで夜が丸ごと流れ込んできたみたいだった。


 親父は、部屋の中をまるで“夜”そのものにするような手順で準備を進めていった。

 そして、部屋の東北の隅に白い蝋燭を一本立てて火を灯し、ベッドの上にあぐらをかいて座り、ぶつぶつと何かを唱え始めた。


 ……その呪文のような言葉、俺は前に墓荒らしの連中の口から聞いたことがある。

 これは“陰陽の業界”で使われる“陰語いんご”ってヤツで、要するに——

 あの女を呼び出して、俺と再会させるための儀式らしい。


 親父はさらに、俺の額から毛根付きの髪の毛を三本引き抜き、自分の体に貼りつけた。

「このあと、何が起きても……ぜったいに見てないフリをするんだぞ」


 ……なんだその前振り、嫌な予感しかしない。


 まあ、言われたとおり快く頷いたけどさ、親父のこの奇妙な動きの裏に、いったいどんな“薬”が仕込まれてるのか、俺にはサッパリ見当もつかなかった。


 ところが、親父の呪文が始まってから三分も経たないうちに——

 外からゾクッとするような風が吹き込んできて、窓の向こうにぼんやりと人影が現れた。

 その影は、じぃっとベッドの上にいる親父のことを見つめていた。


 カーテンは閉まっているから、その顔までは見えない。

 でも、俺にはわかる……来たのは間違いなく、あの“小倩”って名乗った女だ!


 親父はまだ呪文を止めず、女を部屋の中に招き入れようとしていた。


 カーテンがほんのわずかに揺れ、すき間ができた瞬間——

 ふわっと甘く優しい香りが鼻先をくすぐってきた。

 まるで体の奥にまで染み込むような心地良さ、たまらねえな……これが、“女香じょこう”ってヤツか。


 そう、これは古の女たちが持っていた、天然の香り。

 言い伝えによれば、すべての女性の体にはそれぞれ独自の香りがあり、

 それが本当に心惹かれた男の前でだけ、ふわっと解き放たれるっていう——

 つまり、今のこの香りは“小倩”が……俺に夢中だって証拠、ってことか?


 ま、世間じゃこれを“フェロモン”とも呼ぶらしいけどよ。


 親父は、女が部屋に入ったのを確認すると、すっくと立ち上がり——

 ……って、あれ? 服を脱ぎ始めた……??


 ……え、いやいやいや!?

 親父、それマジでどういう展開!?

 さっきはたしか「説得して引かせる」って言ってたじゃん!?

 なんで今、脱ぐ方向にシフトしてんの!?


 あっという間に、親父は全裸になってしまった。

 部屋の闇の中で、白く輝くお尻が異様に目立つ。

 ……な、なんかもう、目のやり場に困るんだけど。


 おいおい、親父さんよ……あんた、ノリノリすぎじゃないか?


「さあ来い! どんな手を使ってもいい、全部俺にぶつけてこい! 息子には指一本触れるな!」


 はあぁぁ!?


 ……だから言ってたのか。「何があっても見なかったことにしろ」って。

 まさか、幽霊女と“そういう展開”になるつもりだったとはな……


 いやいやいや! どういう思考回路してんの、マジで!?

 しかもだよ? もしこの女が“離れません”ってなった場合、ある意味、父ちゃんの嫁ってことになるわけでしょ?

 そんな相手と、今……って、それどう考えても倫理的にアウトだろ!


 とはいえ、親父の体には俺の“毛根付き三本毛”が貼られてるし、

 さらに護符まで身に着けてるから、女から見れば“俺=親父”に見えてる状態ってわけだ。


 案の定、小倩もスルスルっと服を脱ぎ始めて、

 雪のように白く輝く肌を露わにしてきた。


 ……正直に言うと、スタイルめっちゃ良かった。

 丸みのあるボディ、ハリのある曲線——

 どストライクだ……思わずごくりと唾を飲み込んでしまった俺がいた。


 こんな美貌の女なら、今の時代にいたら間違いなく男たちに追いかけられるタイプだろうな。


 そんな女が、俺を選んだってんだから、そりゃあもう、誇らしい気持ちでいっぱいだよ~~


 女は親父の上に覆いかぶさり、身体をくねらせ始めた。見てるこっちが火照ってくるっての。


 親父は目を閉じたまま、口を動かし続け、ずっと女の耳元で何かを囁いていた。


 俺はすぐ近くにいたんだが、何を言ってるのかまでは聞き取れなかった。ただ一つ確かなのは、親父がとうとう切り札を出して、女に早く去るよう説得し始めたってことだ。


 案の定、女は動きを止め、何かがおかしいと気づいたようで、慌てて立ち上がり服を着直した。顔を真っ赤にして親父を睨みつけてる!


 その身体からは怒りに満ちた凄まじい煞気が噴き出し、目には殺意が宿っていた。


 あの時代の女は貞操を命より大事にしてたからな。たとえ百年もの間、幽霊になっていたとしても、その価値観は変わらないんだ。


 今や、別の男に裸を見られたなんて、まさに屈辱の極みってわけだ~~


 親父も分かっていたんだ。優しく説得しても、この幽霊女は俺から離れないって。だって、あいつには一度しか選ぶチャンスがない。もし今回諦めたら、もう二度と“再会”の機会はないんだから。


 だからこそ、親父はこんな手段に出たんだ!


「お前……お前は私の純潔を汚した! 一体、何が目的なのよ?」


 女はリンゴみたいに真っ赤になって、涙目で親父に問い詰める。


「簡単なことだ。俺たちで取引しよう。お前がうちの息子を諦めて、別の男を夫に選ぶなら、俺が井戸に沈んでるお前の魂を引き上げてやる!」


 親父のその言葉には一切の迷いがなかった。女が俺を諦めると約束さえすれば、親父は特別な術を使って、井戸で百年も漂っていた魂を引き上げ、別の相手と再スタートするチャンスを与えるってわけだ。


 もし俺が幽霊女だったら、迷わずその条件を飲むな。だって、どっちも欲しいものじゃん~~


 まさに一石二鳥、悪くない取引だろ?


「ダメよ。私はもう鉄男くんと夫婦の契りを交わしたの。一人の女が二人の夫を持つなんて、あり得ない。私はすでに王鉄男の幽霊妻なのよ!」


 ……やっぱりな。


 現代の女の感覚で、昔の女を扱おうなんて、通じるわけがなかったんだよ。こいつは冷たい井戸の中で百年でも千年でも我慢しても、自分の夫に背くようなことは絶対にしない。


 普通なら、こんな一途な嫁がいるなんて、喜ぶべきことかもしれない。けど、相手は死んで百年経った幽霊女だぜ? 俺にはどうにも受け入れられない。


 もし本当にこいつと一緒になるつもりなら、自分の命を手放さなきゃならない。それでやっと願いが叶うって……。


 どんな設定だよ!


 冗談じゃねぇ、こんなの罠じゃねぇか!

風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。


筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。


干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。




本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。


一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。




もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——


それもまた、偶然ではなく必然。


このご縁に、心より感謝いたします。

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