第二十三章 霊の縁探し
「親父、俺……あとどれくらい生きられる?」
「せいぜい2時間だな。それ以上は無理だ。」
親父のその一言は氷のように冷たく、鉄のように重かった。俺の胸にモヤモヤが広がり、一瞬で食欲が吹き飛んだ。さっきまであんなに香ばしかった角煮も、いきなり味がしなくなった〜
親父は俺の襟元をぐいっと引っ張って、首筋にびっしりとついた紫青色のキスマークを見ると、すぐさま問い詰めてきた。
「お前……何か妙なもんに関わったな?」
俺は、自分が見た夢と、その後に起きた不気味な出来事を包み隠さず話した。すると親父はテーブルをドンと叩いて、怒りに満ちた声で三文字を吐き捨てた。
「幽霊の縁探し(ゆうれいのえんさがし)だ!」
幽霊の縁探し――読んで字のごとく、あの世の女が人間界で婿を探す現象だ。男の意志なんて最初から関係ない。同意しようがしまいが、勝手に嫁入りしてくる。昼間はピッタリ後ろに付きまとい、夜は徹夜でご奉仕ってわけだ!
夢に出てきたあの“小倩”という古装姿の女……間違いなく今回の幽霊嫁候補であることは確かだ。だが、一体どういう理由で、よりによって俺を選んだのかは皆目見当がつかない。
いや、確かに俺はちょっとばかしイケメンかもしれんけど、だからって幽霊に惚れられても困るっつーの〜〜
しかも一言の相談もなしに、勝手に俺を相手に決めて、好き放題しやがって……この体のだるさ、まさに蛇に巻きつかれた後みたいな感覚だし、腰なんて空っぽの米袋みたいにスカスカだ!
今となっては、あの幽霊女は俺のテクにすっかり惚れ込んだらしく、夜だけじゃ飽き足らず、24時間ずっと俺を独占しようと必死で命まで狙ってくる始末!
だがな――
そいつは、完全に相手を間違えた!
俺はただの人間じゃねぇ。太歳様の頭の上で踊ろうなんざ、命知らずにもほどがあるってもんだ〜
……とはいえ、俺にとってもひとつ解せないことがある。
目的が「嫁入り」なら、なんでわざわざ“井戸の中から助けてくれ”なんて頼んでくるんだ?
俺が死んだら、もう助けるも何もねぇだろ?
完全に矛盾してんじゃねぇか?
その疑問を親父にぶつけてみたが、親父も首をひねるばかりで確信が持てない様子だった。
「事の本質を知りたければ、まず根本から探らねばなるまい。お前がどうしてそんな幽霊女に目をつけられたのかを。」
あれこれ考えを巡らせるうちに、俺はあることを思い出した。
――雇い主からもらったあの朝珠だ。
どうもあれが怪しい気がしてならない。
最初に見たときから、なんとも不穏な気配を感じていたし、その後の異常な執着も、たぶん“ヤられた”って証拠だろう。
俺はその朝珠を親父の手に渡し、様子をうかがった。
親父はしばらく真剣な眼差しで観察したあと、重々しい声でこう呟いた――
「こんな陰気なブツ……よくもまあ、受け取ったもんだな。」
やっぱり……あの朝珠、とんでもねぇブツだった!
なんと、あの珠にはとてつもなく強い「陰を呼び寄せる体質」が染みついていたのだ!
親父は真相を探るため、俺の部屋に戻って調査を始めた。もしや幽霊女の痕跡が残っているかもしれない……と、あちこちを調べまくった末、ついに“手がかり”を発見!
それは、ベッドの頭側――ちょうど真横にある窓の裏だった。
その窓は位置が低くて、いつもベッドの枕元とほぼ平行になってる。俺は寝るときに、部屋の空気がこもらないように、いつも窓を少しだけ開けておくのが習慣なんだ。
親父はその窓の外の空き地に出て、地面を見て言葉を失った――
そこには、小さくて可憐な足跡が、ぽつんと残っていたのだ。そして、再び沈黙……
「……汚ぇモンが、窓の前にずっと立って、お前のことを一晩中見てたぞ。」
……は?
俺の体がビクンと震えた。
ちょ、待て待て待て!
それ、ヤバすぎない!?
俺がグースカ寝てる間、正体不明の幽霊が窓越しに一晩中ガン見してたって……?
想像するだけでゾッとするわ!!
いやいや、俺は一応、陰陽師だぜ? でも、こういうのはさすがにご勘弁願いたい……
「見てみろ。この足跡、めちゃくちゃ小さいだろ? お前の夢に出てきた幽霊女とピッタリ一致する。しかもな……こいつ、ずっとつま先立ちで立ってやがった。かかとは一度も地面につけてねぇ。」
つま先立ちで……一晩中俺を見てた……だと……?
それってもう、殺る気満々じゃねーか!!
……ってか俺、歯を磨きながら、“あの子をどうやって井戸から助けようかな〜”なんて、めっちゃ親切なこと考えてたのに!
実際は、その子……いや幽霊女、俺を殺す気満々だったってワケかよ!
なんちゅう陰湿で、どスケベで、裏表のあるヤツだ!
……そういや、昔読んだことあるんだよな。一冊の古書に、似たような話が載ってた。
ある貧乏な書生が、科挙の試験を受けるために京城へ向かっていた。だが途中で空腹と疲労に襲われ、夜になった頃に偶然見つけたあずまやで一晩休むことにした。
周囲には山も水もあって、風も心地よく吹いていて、「ああ、ここなら宿代も浮くし、最高じゃん」って感じだったらしい。
でも、その涼亭こそがワナだった。
実はそれ、妖気で作られた幻影で、書生を足止めするための罠だったんだ。
なぜなら、その書生……肌は白くてぷにぷに、顔はそこそこ整っていて、ちょうど“婿探し”中の幽霊女のタイプど真ん中だったから!
女はその姿に一目惚れして、幻の涼亭を仕立てあげたわけよ。
書生は、「景色でも見てみるか〜」と涼亭に上がったが、急に頭がクラクラして、顔が真っ赤になり、全身が熱くてたまらなくなった。
服を脱いでも脱いでも、まったく熱は引かず、彼は苦しみ悶えていた。
そして最後の一枚を脱ぎ捨てたそのとき――
目の前に、ひらひらと現れたのは、曲線美あふれる美少女の姿。
その女は書生にそっと近づき、香り立つ肩を彼の胸元にすり寄せてきた。
書生の理性は崩壊し、鼻血は滝のように流れ、完全にアウトだった……
書生はすっかり心を奪われ、目の前の美女に恋焦がれ、あっという間に理性が吹っ飛んでしまった!
その女もまた、極めて従順。書生の手に任せるがまま、何ひとつ拒まず、全力で応じていた。
たとえ書生がその道に不慣れで、手つきもぎこちなくてアタフタしてようが、そんなことは女にとって問題じゃなかった。彼女は心に決めていたのだ――「この男、絶対落とす!」と。
こうして、書生は涼亭の中で女と一夜を共にした。
そして翌朝――
彼の体に異変が起きた。
全身がふにゃふにゃになり、目はくぼみ、肌はカサカサ、毛穴全開。昨日までピチピチだった青年が、一晩で六十〜七十歳のヨボヨボじいさんに……!
書生は状況が理解できず、フラフラと千鳥足で歩き出す。体がまるで他人のように重たい。
だが、それでも彼は諦めなかった。
老体にムチ打ち、そのまま都へと向かい、ついに科挙の試験会場に辿り着いた!
その姿はまさに“仙人”級のインパクト。試験場に入るや否や、周囲の受験者たちはざわつき始めた。
「うおっ……あんな年寄りも試験受けんのかよ……?」
まあ、科挙には年齢制限がなかったとはいえ、あの姿はさすがに前代未聞だった。
だが、書生は周囲の目など一切気にせず、堂々と席に座り、筆を走らせた!
その筆致はまさに龍飛鳳舞、文は流麗、気迫に満ちていて、まるで紙の上で雷が踊っているかのよう――!
……結果。
あえなく落選。
書生は大いに恥じ入り、「なぜこんなことに……」と頭を抱えた。
あの涼亭で一夜を過ごして以来、自分は老いぼれになり、夢も希望も砕け散った――そう思った彼は、絶望のまま再び涼亭に戻り、ついには首を吊って命を絶ってしまった……
それ以来、川沿いの堤防の辺りで、奇妙な噂が囁かれるようになった。
「夜な夜な、涼亭が突然現れる。そこには一人の書生がいて、美しい少女を抱きしめながら……その……やってるんだってよ……」
けれど、昼間にはそこに涼亭など影も形もない。現れるのは決まって深夜のみ。
そして、この怪談はどんどん尾ひれがついて語り継がれていった。
ある者はこう言った――
「本当に化け物なのは、あの書生の方なんじゃねぇの? 若い娘を騙して、自分のもんにするために、わざと幻影を見せてるんだろう」
また別の者はこう語った――
「そもそも、書生は最初から幽霊だった。ただ本人が気づいてなかっただけさ……」
……まあ、結局のところ真相は謎のままだけど、ひとつだけ確かなのは――
この話、今の俺の状況とヤバいくらい似てる!!
あの幽霊女、たしかに現れた! しかもだ、俺は確信してる――たぶん、もう“男女のアレ”をやらかしてる!!
だって俺、朝起きたら腰がスッカスカだったし、首には見覚えのないキスマークまでついてたんだぞ!?
しかも今、俺の顔には“黒線”がびっしり走ってる。これはもう完全に、命を獲りにきてるサインじゃねぇか!
「鉄男、お前の寿命……残り30分を切ってる。」
こうして俺の命は――カウントダウンに突入したのである……!。
風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。
筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。
干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。
本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。
一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。
もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——
それもまた、偶然ではなく必然。
このご縁に、心より感謝いたします。