第十八章 その言葉、気に入ったぜ
思った通りの展開になった。
朝日が昇ると、あの道士はすっかりイカれちまって、腹が減ったのか、なんと便所に突っ込んでいってウンコを食いやがった。
犬小屋を見るなり、中に潜り込もうとするし――
家を出てすぐ、女湯に突撃して、村の女衆に袋叩きにされる始末。
街に出れば、かつて被害に遭った連中が次々と現れ、腐った野菜、石、レンガの破片なんかを投げつけながら口々に怒鳴っていた。
「人を騙すからこうなるんだよ!」
「地獄に堕ちてろ、なんで閻魔様が連れていかねぇんだ!」
どうやらあのクソ道士、村じゃとっくに有名人だったらしい。悪名で、な。
「民の目は誤魔化せない」ってのは、まさにこのことだ。
長男のほうも目を覚ましたが――完全にアホになってた。
「お前、これやれ」って言えば、黙ってその通りに動く。
隣のガキに「跪いて足の指を舐めろ」って命令されても、何の抵抗もなく実行するレベル。
あの世のお爺さんも、そんな姿を見て複雑な顔をしていた。悲しいやら、笑いたいやらって感じでな。
でも、あいつの過去を思えば、誰にも文句は言えねぇだろう。
「先生よ、もう朝だ。頼んだこと、必ず果たしてくれよな……」
お爺さんからの頼みは二つ。
一つ目は、自分の棺桶を正しい向きに戻すこと。
二つ目は、次男――つまり俺の雇い主の世話を続けてほしいってこと。
まあ、実は三つ目のお願いもあった。自分をあの世へと見送って、永遠に成仏させてほしい、ってやつだ。
――だが、いまはその気が変わったようで。
どうやら隣村のばあさんに惚れちまって、猛烈にアタック中らしい。
次男の世話は当然やるさ。なんたって、まだ報酬をもらってねぇからな。
棺桶の件だって、俺は最初からそのまま放っておく気なんてなかった。
陰徳を積めるし、ついでにもう一稼ぎできるしな。
俺は家に戻って、ほどよい大きさの壺を探し出し、お爺さんに中へ入ってもらった。
壺には封印を書き込んで、棺桶と同じくらいの生活環境を整えてやった。これで昼間の太陽光にも怯えずに済むだろう。
ただし、壺の中は狭い。多少の不自由はあるだろうが、日干しになるよりはマシってもんだ。
「ゴホン、ゴホン……」
突然の咳に振り向くと、なんと雇い主が目を覚ましたのだった。
俺は慌ててコップ一杯の水を差し出した。
雇い主はそれを一気に飲み干す。「先生……俺の親父は、無事なんでしょうか?」――ほらな、やっぱり親孝行な奴だ。
目を覚まして最初の言葉がそれだもんな。
「安心しろ。もうだいたい片付いた。もう少しすれば、平穏な日常に戻れるはずだ。」雇い主はホッとしたような笑みを浮かべた。
身体を動かそうとした瞬間――「ぐあっ!」突如、全身に走った激痛にビクッと震えやがった。
「おいおい、動くなって。今はとにかく静かに寝てろ。いいか、お前の命は、ギリギリ拾った命なんだ。回復したら、あの診療所の先生にちゃんと感謝しろよ?」雇い主はコクンと頷いて、そのまま布団に身を沈めた。
棺桶を立て直す件は夜まで待たなきゃならねぇ。昼間に墓をいじるなんて、この業界じゃ大タブーだ。絶対にやっちゃなんねぇ。――ってことで、日が暮れるまでしばらくお預けだな。
昼頃、村医者が雇い主の家にやって来た。
顔色は良好。俺は内心でガッツポーズ。
よし、また一人助けたぜ。夜通し働いた甲斐があったってもんだ。
「先生……俺がまだ生きてるってことは、もう安全ってことなんですか?」
「その通りだ。これからは徳を積め。良心に背くようなことはするな。
そうしないと――またあいつらが戻ってくるかもしれねぇからな?」このセリフは完全に俺の作り話だ。
でも、少しでも善行を積ませて、あの両手の罪を洗い流させたい一心だった。それからもう一つ、大事なことを告げた。「本当に身の安全を得たいなら……自分の診療所を取り壊して、別の道を歩むんだな。」
冥界役人たちが本当に戻ってきたとしても、診療所が跡形もなくなっていれば、諦めて帰っていくはずだ。
逆に、今のまま放置してりゃ、あいつらはまた診療所ごとあの世へ連れていこうとするだろうな。
「……本当に、そんなことしなきゃダメですか?」
村医者は未練タラタラで、何とか両立する方法はないのかと俺にすがってきた。
「まあ、一つだけあるっちゃあるがな。診療所を壊さずに済む方法が。」
「ぜひ教えてください!」
「簡単だよ。お前がそのまま冥界役人たちに連れてかれりゃいい。」
――はい、最後の希望もバッサリカット。診療所を壊すってのは、絶対にやらなきゃいけない儀式みたいなもんだ。
あの連中、酒が冷めたら絶対「あれ、騙された?」って気づくに決まってる。
そうなったら――まず間違いなく、仕返しに戻ってくる。「……分かりました。先生の言う通りにします!」
村医者は診療所に戻ると、中の道具や家具をすべて運び出して、別の場所に一時的に保管した。
そのあと、隣村からショベルカーを借りてきて、自分の生活の糧だった診療所をあっさりと潰してしまった。その顔は終始無表情だったが――
心の中では、いろんな感情が渦巻いていたに違いない。
だって、自分を救ってくれた場所が、いまや瓦礫の山だ。でもな、彼はすぐに気を取り直した。
「診療所はまた建てればいい。でも命は一度失ったら終わりだ」と。その後、村医者は俺に一枚のキャッシュカードを差し出した。
中には五万元が入っていると言う。
少しずつコツコツ貯めてきた貯金で、俺への感謝の印らしい。
「先生……この金額、少ないなんて思わないでくださいよ。
本当は八万元渡したかったんですけど、ほら、診療所も壊しちゃいましたし……。
これからまた新しく建てるとなると、どうしてもお金が要るんです。
だから……三万元だけ削らせてもらって……ほんと、すみませんっ!」
……おいおい。ってことは何か?
俺の金でまた診療所建てるって話じゃねぇか。
なんかモヤっとしたが、よく考えりゃ俺も最初からはっきり説明してなかったし、まぁ仕方ねぇか。
それにしても――ポケットに五万元入ってるだけで、こうも人間って変わるか?ってくらい、俺の気分は上々。
歩き方も堂々として、風を切って歩いてる感じだ。やっぱ金ってのは、あると気分がいいもんだ。
持ってる人間が一番幸せ、マジで。
さて、そんなこんなで時は流れ、あっという間に夜になった。
俺は再び村医者を呼び出して、お爺さんの「扶棺」を手伝ってもらうことにした。この扶棺って儀式、見た目以上に重要な手順があって、ちょっとしたミスが大ごとに繋がる可能性がある。
だからこそ、しっかりと事前準備を整えた。墨縄、麻縄、藁、二羽の雄鶏、死者への供え物――
すべて用意した上で、俺と村医者は「正義を正す」旅路に出発した。
俺は壺の中からお爺さんの魂を解放し、彼の長男を連れて一緒に墓地へと向かった。この後の儀式では、お爺さんの長男が果たすべき役割が結構あってな、いくつかの作業はどうしても本人の手でやらなきゃいけない。
理由は二つ。
一つはこの業界のルール。
もう一つは、自分の過ちに対する償いだ。俺たちが歩くその道すがら、村人たちが続々と集まってきた。
好奇心まる出しで、俺らのことを指差しながら、あれこれ話してる。ちょっと耳を澄ませてみると――
なんと、全部俺を褒める内容じゃねぇか!
「見てよ、この子、まだあんなに若いのに、もうこんな術が使えるなんて!将来が楽しみだねぇ!」
「うちもさぁ、なんか最近ヘンなこと多いのよ……今度この子に見てもらおうかしら!」――おぉ……
その言葉、気に入ったぜ!ってことは、これから出かけるときは名刺を持ち歩かなきゃダメかもな。
せっかく知名度上がっても、連絡先がなかったら意味ねぇもんな?
風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。
筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。
干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。
本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。
一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。
もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——
それもまた、偶然ではなく必然。
このご縁に、心より感謝いたします。