第十一章 父と娘の再会
オジサンの様子を見て、俺は確信した。
昨日、村外れの小屋にいたあの女の子――間違いなく、オジサンが探していた娘さんだ。
まさか、こんな偶然ってあるか?
本当はこの件には首を突っ込みたくなかったし、何も知らない通りすがりのフリでもしておきたかった。でも、もう無理だ。ここまできたら逃げられない。
「オジサン、落ち着いてください。俺、あなたの娘さんがどこにいるか知ってます!まずはこの人(雇い主)を診療所に連れて行きましょう。それから一緒に探しに行きましょう!」
オジサンの手は震えまくり、歯を食いしばる音がギリギリと響いていた。
「……わかった、信じる!」
オジサンはロバ車のスピードを上げ、俺たちはすぐに村の診療所の前に到着した。
こじんまりとした診療所だが、中は煌々と明かりが灯っている。こんな早朝から開いているってことは、昨夜ずっと誰かの対応をしていたに違いない。
俺たちは雇い主を運びながら中に入り、村の医者が慌てて駆け寄ってきた。
「どうしたんだこれは!?ひどい怪我じゃないか!早く、ベッドに寝かせて!」
医者が雇い主の体を診ながら、ずっと首を横に振っている。これは、やばいパターンだな――と俺は直感で悟った。
「先生、この人まだ助かりますか?もし無理なら、もう連れて帰ります!」
オジサンは娘のことで頭がいっぱいのようで、医者の反応を見て早くも諦めモード。結論を急がせて、とっとと娘を探しに行きたい様子だ。
……ちょっと待て。
いくら娘さんが心配だからって、今ベッドに横たわってるのも一人の人間だぞ!?
しかも、俺はあの人の頼みでここまで動いたんだ。報酬もまだもらってないのに、ボランティアじゃねぇんだぞ~~~
「楽観視はできません。筋肉がかなり溶けています。いったい何があったのかは分かりませんが、でも安心してください。ここは俺、ワン様の診療所だ。俺の手にかかれば、絶対に助けてみせる!」
この医者、なんかすげぇ迫力あるぞ!? 一瞬、誰か別人に見えた。
いや、本当にただの村医者か?
なんか、三国志に出てくる華佗が現代に転生したかのような貫禄……というより、どっちかっていうと張飛に似てる気がするんだけど!
声も太いし、動きも豪快。何より、顔立ちと体格、しゃべり方まで張飛そっくりじゃねぇか。
ただひとつ違うのは……この医者、見事なスキンヘッドなんだよな~~
……こんな村医者で本当に治るのか?
正直、ちょっと不安ではある。
「疑ってるな?ふふん、いいか。こいつ、県都の大病院に担ぎ込まれても生き残れる保証はねぇ。でもな、ここなら……俺が治す。絶対に治す!十割の自信がある!」
村医は俺の表情を見て、何かを察したのか、さらに安心させるような一言をくれた。
その言葉に、俺もちょっとはホッとした。
「じゃあ先生、あとはお願いします。俺の友達のこと、ちゃんと面倒見てやってくださいね〜」
そう言って俺は、他に片付けなきゃならない用事があるから、一旦抜けると伝えた。そしたら村医が顔をしかめて、こう言ってきた。
「……お前、まさかトンズラする気じゃねぇだろうな?」
――ドカーンッ!!
雷でも落ちたかのように、その言葉が俺の脳天をぶち抜いた!
いやいやいや、ちょっと待て。
逃げる?俺が?
なんでみんな揃いも揃って俺を犯罪者扱いするんだよ!
こんなにイケメンなのに、これで三回目の濡れ衣だぞ!?
心がズタズタだよ……でも泣かない、俺、泣かないから……
「おい、お前、身分証明書持ってるか?あればここに預けろ。そしたら一旦行かせてやる。でもな――妙な真似すんじゃねぇぞ。俺には勝てねぇからな?」
そう言いながら、村医は白衣をバサッと脱ぎ捨てた。
――その下から現れたのは、筋肉モリモリの肉体と、背中一面のド派手な刺青!
ちょ、マジかよ!?
本当に医者かよこの人!?
むしろ山賊の頭領とかって言われた方がしっくりくるぞ!
たぶん武器を持って殴りかかっても、こいつには勝てねぇ自信がある……
うん、素直に従っとこ。
「身分証、ちゃんと持ってます。ほら、預けますけど、なくさないでくださいよ〜?」
俺は大人しく身分証を渡し、さらにポケットの中の最後の50元札をテーブルにバシッと置いた。
「先生、どうか俺の友達を……助けてやってください!お願いします!」
俺の真剣さを見た村医は、少し口元を緩めた。
さっきまでのヤクザみたいな顔が、だいぶ穏やかになってる。
それが俺の誠意に心打たれたからなのか、ただの金目当てなのかは分からないけど……
「よし、預かったぞ。お前の友達、俺の手にかかったら万に一つの心配もいらねぇ!」
その言葉に背中を押されて、俺はオジサンと一緒に診療所を後にし、再びロバ車に乗り込んで、小さな林の方へと向かった。
道中、俺の心はずっと落ち着かない。
頼む、無事でいてくれ――
昨日見たあの子が、何事もなく元気でいますように。
ほどなくして、ロバ車が林の前に停まった。
「本当にこの中に……俺の娘がいるのか?お前、俺を騙してないだろうな?」
オジサンの顔は緊張と疑念でこわばっている。
あいかわらず俺のことを信用していないらしい。
……はぁ?さすがにそれはムカつくわ。
こっちは、重傷の雇い主を置き去りにしてまで手伝ってるのに、ボロボロの体引きずって娘探しに付き合ってやってるのに――それでもまだ疑うのかよ?
「……もういいよ、信じねぇなら帰れば?お好きにどうぞ〜」
俺もキレた。
こちとら、仏じゃねぇんだぞ!
オジサンは、俺がそっぽを向いたのを見て、すぐに俺の手をぎゅっと掴んできた。
そして、しょんぼりとした声でこう言った。
「悪かった……さっきは、疑ってすまなかったな」
皺だらけの顔に、どこか哀愁が漂っていてさ……
そんな姿見せられたら、こっちも怒るに怒れねぇだろ。
「……行くぞ。前に小屋がある。うちの娘は、そこにいるはずだ」
俺が先導して歩き、おっさんがついてくる。
ほんの2分ほど歩くと、小屋が見えてきた。
その中から、声が聞こえる。
「先生よ、この娘、なかなかいいカラダしてるじゃねぇか。マジで俺にくれるのか?」
「嘘つくかよ。俺だってまだ堪能してねぇのに、譲ってやるんだ。義理ってやつよ」
「ハハ、さすが先生。でもなぁ……でもよぉ……俺、こういう無反応な女って、あんま興奮しねぇんだよ。もっとこう……刺激が欲しいんだよな。分かる?」
「へいへい、分かってるって!」
その直後、女の子の悲鳴と、男の下卑た笑い声が小屋の中から響き渡った!
クソッ、あの外道ども、やりやがったな!?
どうやら、術者のあいつが女の子にかけてた符を外して、もう一人にヤラせたってことか――
クズにもほどがある!
オジサンも声を聞いて、娘だとすぐに分かったらしい。
もう理性なんてどこかへ吹っ飛んでた。
大股で小屋に駆け寄ると、そのままドアを蹴破って中に突入!
――ヤバい!殺しちまうかもしれん!
俺は慌ててあとを追った。
オジサンが激情のままに、人を殺しかねない気がして。
だが、小屋の中に入ると、なんとオジサン――
すでにあの二人をねじ伏せていた!
うそだろ!?
このオジサン、実は武術の達人とかだったのか!?
そりゃあ怒鳴り声も迫力あるわけだわ……
「……お父さん……わたし……うわあああああん!!」
娘さんは、服もほとんど破かれた状態で、
目の前に現れたお父さんを見て、わっと泣き出した。
父娘は抱き合って、声を上げて泣いた。
「……ごめんな……辛い思い、させちまって……」
おっさんは、すべてを悟っていた。
だが、娘の心を少しでも癒すために、悲しみは顔に出さなかった。
――そのときだった。
床にねじ伏せられていた二人の男――
一人はあのクソ坊主の道士、もう一人は……俺の雇い主の兄貴!
アイツら、父娘が泣いてる隙にアイコンタクトを取り合い、
道士の方がこっそりと金槌を取り出し、
こっそりおっさんの後頭部を狙って――
「死ねやっ!!」
――ふざけんなコラァ!!!
俺は瞬時に飛び出し、左手でその金槌を受け止め、
右手で道士の面を思いっきりぶん殴った!
「てめぇ、俺のこと完全にナメてんだろうが!!」
風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。
筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。
干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。
本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。
一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。
もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——
それもまた、偶然ではなく必然。
このご縁に、心より感謝いたします。