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第十章 俺は本当に悪いやつじゃない

 正直に言うと、木杭を抜くのに機械を使うことも考えたことがある。クレーン車でもあれば、たぶん簡単に引き抜けたはずだ。


 でも、すぐにその考えを打ち消した。


 だってな、杭は人の手で打ち込まれたもんなんだ。だったら――抜くのも、打ち込んだ本人じゃなきゃダメなんだ!


 世の中のルールってのは、最初から人に逃げ道を残す気なんかないんだよな。今目の前にある状況が、まさにそれだ。

 仕方なく、雇い主に自分で杭を抜いてもらうことにした。さすがは土から生まれた農民だな。もともと力持ちだってのに、今は傀儡符まで貼ってる。そりゃもう、パワー全開ってわけだ!

 ゴツゴツした手のひらで木杭をがっちりと抱え込むと、雇い主の全身の筋肉がビクンビクンと波打ち始めた!

「うおぉぉぉぉ——!」

「ギギギギギギ……!」棺の中から、木杭が軋むような音を立てはじめた。本当に動き出したんだ!……でも、それも長くは続かなかった。


 雇い主の力が目に見えて落ちてきた。これには俺にも責任がある。実は、あまりにも彼の身体が心配で、傀儡符の力をそこまで強くしてなかったんだ。


 雇い主の服は汗でぐっしょり。にもかかわらず、手は一向に離そうとしない。歯を食いしばって、限界を超えて踏ん張ってる。


 手から流れ落ちる血が木杭を染め上げて、ただでさえ真っ赤な杭がさらに血々しくなっていく――……もういい、天命を待つとしよう!


 俺はもう一枚、傀儡符を彼の額にバチンと貼りつけた!すると、雇い主の力が一気に跳ね上がる!あのゴツい木杭が、肉眼ではっきり分かるスピードでズズズッと引き上がっていく!


 あっという間に、半分まで抜けた。だけどな、全然嬉しくねぇ。


 だって――見たくなかった光景が、目の前に広がってるんだ。


 雇い主の筋肉が、ところどころ裂けてる。背中の皮膚からは血が滲み出て、まるで身体全体が無理やり限界まで引き伸ばされてるみたいだ。

 ……胸が痛え……

 携帯をチラッと見たら、もう朝の五時半だった。あと三十分で夜明けだ。すでに東の空がうっすら明るくなってきてる。つまり――もう止まれねぇ!

 雇い主の額からも血が滲み出し、木杭の上にポタポタと垂れてる。それでも止める気配はない。

 俺もルールとか言ってられなくなって、棺の上に飛び乗って、一緒に杭を引き抜こうとしたんだけど――ズドンッ!

 とてつもない力に跳ね飛ばされてしまった!……やっぱり、あの噂は本当だったらしい。

 今の俺にできることなんて、せいぜい「がんばれー!」って応援するくらいだよ……


 雇い主は、その期待を裏切らなかった。午前五時五十三分、ついにあの木杭を完全に引き抜いたのだ!


「ふぅ〜〜」


「ドサッ!」


 雇い主はその場にバタリと倒れ込み、大きく息を荒げたかと思えば――二秒後には意識を失っていた!


「ここからは俺の仕事だな。」


 俺は雇い主の額と胸に貼っていた二枚の傀儡符を剥がすと、骨になった爺さんの遺体のそばへ向かい、その遺骨をそっと抱えて棺の中に戻し、蓋をきっちり閉じた。


 あの時代の農村ってのは、基本的にどこも貧しくて、埋葬に使う棺桶も安い桐の木で作られてるのが普通だった。軽くて安上がりってわけだ。


 この爺さんの棺も桐材だったおかげで、俺一人でもどうにか持ち上げることができた。


 もしこれが楠の木だったら? いや、俺の体が何個あっても無理だね、マジで。


 俺は埋葬用の穴から飛び出し、携帯の時間を確認した――午前五時五十九分!


 すぐさまスコップを手に取り、鬼の形相で土をかき集め始めた。もはやこの時の俺は、感情ゼロの作業ロボット。エンジン全開でフル稼働!


 あっという間に墓穴を埋め終え、携帯をもう一度見てみると……ピッタリ午前六時!


 空が少しずつ明るくなり始め、東の空から朝日がゆっくりと昇ってくる――


 本当なら、墓の盛り土もちゃんと仕上げたかったんだけどな……でも、振り返ると重傷の雇い主が横たわってるのを見て、それどころじゃねぇと判断した。今一番大事なのは、雇い主の命を助けること!


 俺は雇い主を背負って、村の方へと向かった。でも、少し歩いただけで……腰がもう限界!


 雇い主って、本当に重いんだよ……体重だけでも90キロはありそうだし。


 しかも今の状態じゃ、三魄が抜け落ちてるから、普通の人間より何倍も重く感じるってもんだ!


 どうしたもんかと途方に暮れていたら、向こうからロバ車が一台トコトコやってきた。四、五十代くらいのオジサンがロバを引いてる。俺はすかさず手を振って、車を止めた。


「おっちゃん、ちょっと乗せてもらえませんか? こいつ、仲間がケガしちまって……」


 オジサンは一瞬ためらったが、ロバ車から降りて雇い主の顔を覗き込むと、ポツリと一言――


「うわっ……これはもう、死んでるんじゃね?」


 そりゃまぁ気が進まないのも分かる。朝っぱらから死人と遭遇するなんて、それだけでも縁起悪いのに、今度はロバ車で運べって? 冗談じゃないって顔してる。


 でもな、不自然に崩れたすぐそばの墓を見た瞬間、オジサンの顔色が一変した。


 瞳孔がガッと開き、体がブルブルと震え出す。


「命だけは勘弁してくれ〜! 乗せます!乗せますからぁ〜!殺さないでぇ〜!俺、何も見てませんから〜!」


 いや、このオッサン面白すぎだろ。


 ボロボロの墓に、全身泥まみれの俺と雇い主、横に転がる“死体”――ってきたら、どう見ても墓荒らしにしか見えねぇよな!


「違うんですよ、おっちゃん、俺ら悪い人じゃないんです。ただの善人なんです!とにかく村まで送ってくれたら、お礼にお金を払いますから!」


 俺はオッサンの誤解を解こうと、できるだけ優しい笑顔を浮かべながらポケットに手を突っ込んで、金を取り出そうとした――



 空が明るくなってきたとはいえ、まだ少し灰色がかった薄明かりの中だった。おっちゃんからしたら、俺の顔なんてハッキリ見えるわけもない。かろうじて見えてるのは――ほんのりと不気味な笑みを浮かべながら、じりじりと近づいてくる俺の姿。


 しかも俺がポケットに手を突っ込んでるのを、あろうことか「武器でも取り出す気か!?」って勘違いしやがった。


 次の瞬間、大叔おっちゃんは完全にビビり倒した。膝からガクンと崩れ落ち、その場に土下座!


「命だけは勘弁してください〜!お願いです〜!うちは親も子も俺の稼ぎにかかってるんです!俺が死んだらみんな終わりなんです〜殺さないで〜絶対に誰にも言いません〜!口は堅いんで信じてください〜〜!」


 ……ここまで来たらもう、弁解するのも無駄だな。よし、もう悪党ってことでいいや。


 どうせ目的は雇い主を村まで運んで、何としてでも治療を受けさせること。それさえ達成できりゃ、評判なんかどうでもいい!


 俺は無言で雇い主をロバ車に乗せ、自分もそのままおっちゃんの隣にどっかり腰を下ろした。


「おっちゃん、行きましょうか。」


 俺は、村の中で診察してくれる診療所に向かってくれと頼んだ。おっちゃんは余計なこと一切言わず、ロバの手綱を引き始めた。


 気まずい空気が流れたので、ちょっと場を和ませようと話しかけてみる。


「おっちゃん、こんな朝早くからどこ行くんですか? なんか用事ですか?」


 おっちゃんは少し沈黙したあと、ポツリと口を開いた。


「娘を探してるんだ。何日も前から行方不明でな……村の外で見たって人がいてな、それで今朝もまた探しに来たんだ……うぅ……まさかこんな悪党と遭うとはな……不運にもほどがあるわ……うぅぅ……」


 四、五十歳は過ぎてるであろうガタイのいいおっちゃんが、二十五歳の若造である俺の目の前で、まるで孫みたいに泣きじゃくってる姿は、さすがに胸にくるものがあった。


「俺、ほんとは悪いヤツじゃないんだって……」って言いかけたけど――ふと、さっきの言葉を思い出した。


 娘を探してる? ……まさか!


「おっちゃん、さっき娘さんを探してるって言いましたよね?」


「言ったよ。なんだ、お前……うちの娘を見たのか?」


「うん……髪はポニーテールで、ピンク色の服着てて、身長は……そうだな、百五十六センチくらい。肌が白くて、ちょっと丸顔で、八重歯が二本ある……そんな感じの子じゃなかったですか?」


 おっちゃんは、俺の言葉を聞いて数秒間フリーズした後――また号泣。さっきよりもさらに激しく!


「うわぁぁぁ〜〜! 娘に何したんだよぉ〜〜!うぅぅ……もし一指でも触れてたら、俺はお前を絶対に許さねぇ!」


 おっちゃんの体がビクビク震え始め、目には怒りの炎が宿り、まさに“ガチの殺意”ってやつが滲み出てた。

風は東に巡り、龍の気が動くとき——このページにたどり着いたのも、きっと「縁」の導きに違いありません。

筆者・蘭亭造は、大陸・龍虎山にて古術を学び、風水・命理・陰陽五行を長年研鑽してまいりました。

干支、八字、五行方位、九星気学など、古より伝わる術数を用い、多くの方の人生に光を灯すお手伝いをしてきました。


本作はフィクションの体裁をとっていますが、登場する風水理論や相術の多くは、実際に伝わる術理をもとに構成されています。

一部は、筆者自身の体験に基づいた内容でもあります。


もし、この物語の中に、あなたの人生に役立つ「何か」があったとしたら——

それもまた、偶然ではなく必然。

このご縁に、心より感謝いたします。


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