第2話 プロローグ②
プロローグを2話で終わらそうとしたら長くなりました。
車が第三レギオン校に到着。
「トウチャクイタシマシタ」
「……ありがとう」
「ドウイタシマシテ」
そうして車の扉が開き外に出るとギャレンは再び擬態する。普通の一般的なオルタシア帝国貴族として。自身が毛嫌いするヒューマン至上主義者となり・仮初めの友人たちと楽し気に会話をし・女生徒に笑顔で手を振り・先生には態度よく挨拶をする。
「(だけどそんな苦痛も今日で終わる……今日しかないんだ)」
今日は第三レギオン校での卒業式。ギャレンの作戦は卒業式のセレモニーの1つである現役一等軍人vs主席卒業生での模擬戦闘。これをギャレンが行う手はずとなっておりこれが終了した後に行動に移す算段。
「(宇宙港までのルートは頭に入ってる。近くにバイクも隠してる。あとは小型宇宙船を奪取して宇宙に逃げるだけ。追手が来ない間にできる限り遠くに逃げる。 問題は後半だけど……それはなんとかするしかないな……)」
頭の中で今日の行動について反芻しているギャレン。本人もまた作戦に穴があることは重々承知している。しかし軍人となれば周囲の監視の目はより一層高くなり、なによりも戦争に駆り出されることになる。動くのなら力も付きある程度警備が手薄となるこの卒業式しかない。
「お~い!なにやってんだよギャレン!行くぞ!」
「ああ!いま行く!」
こうして卒業式が開始された。
/////
卒業式は恙なく進行。ギャレンの両親も他と同様に自身の子供の晴れ姿を見にやってきており、さらに今年はギャレンを一目見ようと多くの関係のない貴族も参加しているので卒業式が行われているその施設は大勢の人でいっぱいだった。そしてとうとうギャレンのセレモニーの時間となった。
パイロットスーツに着替えるギャレン。その間にあるのは終わった後の脱出のことばかり。そんなギャレンの控室がノックされる。
コンコン
「はい。どうぞ」
ウィー
扉が開くと今回ギャレンが戦う予定の一等軍人がやってきた。
「ギャレン君初めまして。俺はビル・ブールトだ。今日はよろしくな」
「よろしくお願いします。ギャレン・ノートンです」
そうしてお互い握手をする。もちろんギャレンは笑顔で擬態中。
「君の話は聞いているよ。その実力の高さは皇帝陛下が興味を抱かれるほどだと。噂ではすでに一等軍人のレベルを超えているというじゃないか」
「買いかぶりすぎです。私はまだ実戦も碌に経験していませんから」
「ははは!随分と謙虚なんだな。自信過剰でないだけいいのかもしれないな。 だが今回のセレモニーでは一等軍人のプライドとして全力で勝ちにいかせてもらうからね」
「はい。私も胸をお借りするつもりで頑張ります。よろしくお願いします」
「ああ!よろしく頼むよ!」
そうしてビル・ブールトは控室を出て行った。ちなみにオルタシア帝国の軍人の階級としては一番上から特等軍人→一等軍人→二等軍人→三等軍人→四等軍人。
「別に勝とうが負けようがどうでも良いけど……戦うからには勝ちに行くか」
そうしてギャレンのセレモニーが開始された。
【今宵始まるのはのちに伝説として語り継がれるだろう人物の第一歩!みなさまは幸運にもその歴史的な一戦を見ることができます!ご紹介いたしましょう!オルタシア帝国全レギオン校において史上最優秀成績で卒業し!卒業後は前代未聞の一等軍人からのスタートが決定しております!ギャレン・ノートン!!!】
プシュー!!
スモークが噴射されるとそこからギャレンが歩いて登場。
「「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」」
「「「「ギャレン!!ギャレン!!ギャレン!!ギャレン!!」」」」
大歓声が巻き起こりギャレンの名前が連呼される。それはまるでアイドルが登場したような盛り上がり。
「(これはいくらなんでも異常だろ。 もしかしてすでにイメージ戦略的なことが動いてんのか?)」
そう感じるほどにはギャレンはこの場がおかしいと感じた。しかしそれもこれももはやギャレンには関係なかった。
「(まあいいか。成功しても失敗してもオルタシア帝国のノートン男爵家としての俺は終わるんだ。いまさら裏でなにが動いていようが関係ない)」
すでに対戦相手のビルは訓練用アンドアーマーの隣に待機。中央にて改めて握手をして両者はアンドアーマーに乗り込む。
【念のためにご説明いたしましょう!今宵使われるアンドアーマーは訓練用となっております!機体は攻撃を受けると破損することなく使用不可となり!特殊なレーザーを武器として使用しておりますので仮に胸部に攻撃をくらっても戦闘不能となるだけ!怪我の心配は一切必要ありません!もちろん観客席の前にはバリアが展開されておりますので皆様はなにも心配せずにセレモニーをご堪能ください!】
ギャレンとビルがアンドアーマーに乗り込む。機体性能も武器もなにもかもが同じ。ゆえに試されるのはパイロットの腕。
搭載されている武器は一般的なレーザーソードとレーザーアサルト。左腕には盾が装備されている。こういう機体の場合は普通は盾で防御しながらレーザーソードとレーザーアサルトを持ち替えながらの戦闘。しかしギャレンはといえば、
【それでは両者準備はいいかー!!卒業式セレモニー!!ギャレン・ノートンvs一等軍人ビル・ブールト!!試合!!開始!!】
ヴィー!
開始の合図が鳴った。最初に動き出したのは全力で行くといったビルのほうだった。
『期待されてないだろうけど!ここは意地でも勝たせてもらうよ!』
ズギュン!ズギュン!
ビルはレーザーアサルトで撃ちながら前進。盾をいつでも構えられるように意識しながらあわよくばレーザーソードで一撃を入れる算段。しかしそれはギャレンの予想外の動きで破綻する。
『盾はいらないな』
ギャレンは迫りくるビルに対して身を守る盾をまさかの投擲。
『なっ!?』
それには驚きながらもそこは一等軍人として横によけて回避。しかしそこにはすでに右手にレーザーソード左手にレーザーアサルトを握って突撃してきたギャレンがいた。
『チッ!?虚はつかれたが!!』
ビルはすぐに武器をレーザーソードに変更。レーザーソード同士の近接戦にギャレンのレーザーアサルトが的確にビルの機体の脚を狙う。
ズギュン!ズギュン!
何度目かで左足にヒット。左足は使用不可となった。
『地上戦は不利か!?』
ビルは空へと上がり武器をレーザーアサルトに変更。盾のなくなったギャレンに連射される。
『……』
しかしギャレンには射撃は効果が薄かった。ギャレンはその銃口から射線を予測し指の動きで放たれるタイミングを察知。全力でビルを追いかけながらもレーザーアサルトの連射を無傷で避け続けるギャレン。
『なっ!?バカな!?』
迫りくるギャレンにビルはレーザーソードで対抗。ギャレンもレーザーソードのみで戦う。いつでも決められるがこれは時間稼ぎ。
『あまりにも早く終わったらシャワーとかトイレとか怪しまれる可能性があるかもしれないしな』
ギャレンの考えすぎのような気もするがそういったことを考慮して結果的に5分以上の空中での近接戦はギャレンの勝利で終わった。
【勝者!!われらがギャレン・ノートン!!みなさま!!ギャレンに大きな拍手を!!】
しかしギャレンの本当の勝負はここから始まる。
/////
卒業式のセレモニーも終了。ビルと握手をかわし少しの談笑ののちにシャワー→着替えに向かう。
「君がいるとオルタシア帝国の長年の悲願がついに叶う時が来るのかもしれないね。そのためにお互い頑張ろう!ギャレン君!」
控え室への別れ際にそう言って去っていくビル。オルタシア帝国の悲願とは裏切り下劣な他種族に天誅を下すこと。
「(結局は人の良さそうなビルさんもオルタシア帝国に染まっている1人か)」
ギャレンは着替えを済ませるとそこにスタッフが呼びに来る。
ガチャ
「ギャレンさん。こちらです」
この後のギャレンは壇上に上がり演説を行うスケジュール。
「すいません。その前にトイレに行っていいですか?ちょっと我慢していて」
「ええ。もちろんです。まだ時間もありますから」
そう言ってトイレに行くギャレン。特にスタッフが付いてくることもないのでトイレに入り窓から外へ。
ドサ
「よし。ここからはスピード勝負だ」
トイレの窓から出たギャレンは近くの林へ移動。その中に隠しておいた服に素早く着替えバイクに乗り込む。
頭に詰め込んだルートを辿り宇宙港へ急ぐ。
「(落ち着け。スピードを出し過ぎると目をつけられる。速度はギリギリで最短ルードで)」
何度もシミュレーションをし確認したルート。ギャレンは間違えることなく数十分かけて宇宙港に到着した。
「(確かここから……)」
表の港では人が多くギャレンの顔は知られすぎれている。故にもう一つの関係者専用の港に侵入する。
「(警備がザルいことは調査済みっと)」
貴族の権力を使い何度か見学に訪れたことで最適なルートは把握済み。人が行き交うそこでは帽子を深く被り顔が見えない人物が1人いたところで怪しむものはいなかった。
「(ここだな。 さて、どれにするか)」
少し歩いてたくさんの宇宙船が止まっている港へ到着。その中からちょうどやってきた小型宇宙船に決めた。
「ふう。やっと休憩できるぜ」
「今日は第三コロニーで泊まって明日首都惑星でしたっけ?」
そんな会話をしながら2人の男たちが出てくる。ロックされる前にギャレンは行動に移る。
「(覚悟は決まってる!)」
ギャレンは駆け出して宇宙船へと乗り込む。その行動は2人の男にもバレることになる。
「あ!?お前なにしようとしてんだ!?」
「やめろ!?それには国家機密が!?」
そんな声はギャレンには届かず捕まえようと動いても遅かった。
「よし!行ける!」
ギャレンは宇宙船を起動。即座に宇宙へと飛び出した。操作に関しては学校にて授業を受けているので問題なく動かせる。
こうして小型宇宙船を強奪し宇宙へと飛び出したギャレン。しかし当然ながら追っ手はやってくる。しかも向こうのほうが速度が早かった。
「やっぱりそう簡単にはいかないか!だったらプランBだ!」
ギャレンはこのままでは追いつかれると判断。プランBに移行した。それは近くにあるワープホールが発生しやすいエリアに移動。
ワープホール群へと入り現れたそれに意を決して入る。ワープホールとはその先がどこに繋がっているか観測不可能であり誰にもわからない。
しかしそんなワープホールのおかげもありギャレンは逃亡に成功した。
「よっしゃー!やっとだ!待っててくれ!ファンタジー種族!今から会いに行くぞ!」
そうしてギャレンは国家機密を乗せた小型宇宙船を強奪し宇宙を行く。
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