第1話 プロローグ①
「(うっ!?苦しい!?息が出来ない!?なんだこれ!?なにが起こってるんだ!?空気!?俺に空気を!?)」
その魂は苦しみから脱し目覚める。
「おぎゃあ!?おぎゃあ!?おぎゃあ!?おぎゃあ!?(プハー!?あぶね~!?死ぬかと思った~!?)」
男は危機を脱したことに安堵をし自身の身に起こっている出来事には遅れて気が付いた。
「おぎゃあああああ!?(って、ええええ!?なんで俺!?赤ちゃんになってんのおおおおおお!?)」
男は気が付いた。自身が赤ちゃんになってしまっていることに。そして転生してしまっていることに。
「おぎゃあ!?おぎゃぎゃ!?おぎゃぎゃ!?(これってまさかあれか!?全オタクが妄想する異世界転生ってやつ!?まさか俺は異世界に転生したのか!?魔法は!?魔法はあるのか!?)」
興奮気味の男。前世にて漫画が好きだった男は異世界転生を妄想した日は少なくない。しかしそんな夢は叶わぬ夢であり夢として持つことすら許されなかった。しかしそんな絶対に叶わないと思っていたことが叶ったことで男は部屋の様子を見えていなかった。
ガチャ
「ギャレ~ン?ママよ~?どうしたの?よしよ~し」
母親を名乗る女性に抱き上げられる男。どうやら今世の名はギャレンというらしい。
「(なるほどギャレンか。それが俺の名前だな。で?お母さん?魔法はあるんですか?それとも魔法が無い世界かな?)」
転生者=ギャレンが脳内にあるのは漫画などでよくある剣と魔法の中世風ファンタジー世界。馬車が走り魔物が人々を襲いそれを討伐する冒険者がいて。種族はヒューマンにエルフにドワーフにビーストなどがいて。その光景がギャレンにとっての理想。だが作品によってはそんなファンタジーがない世界もあるのでそれによってギャレンが考える人生プランが変わってくる。
「(仮に理想の世界だったら魔力を探して赤ん坊チートだな。で、ファンタジーが無いんだったら知識チートかな?大学も出てるし異世界で使えそうな知識は豊富にあるつもりだ。さあ!どっちだ!)」
ギャレンとしてはこの2択だったらしい。しかし世界とはその2種類しかないわけではなく地球と変わらない世界かもしれないし・・・ほかの世界かもしれない。
プルルルル
そんな音が鳴ったかと思ったら突如として空中にディスプレイが表示される。
「あら?バリーからだわ」
「(……うん?……あれ?……)」
その未来的な光景を見てギャレンは呆然とする。そして視界に映る部屋の内装が明らかに想像していた中世風の世界とは乖離していることに気が付いた。
「ほ~らギャレ~ン。パパよ~」
『ギャレンは今日も元気なようだな。そうでなくては我がノートン家の息子とは言えん』
「うふふ。ギャレンは元気よ。それでバリー?どうしたの?」
空中に浮かぶディスプレイには父親を名乗る男が表示される。そこでギャレンは確信に変わった。
「(未来に転生してんじゃん!?魔法チートも知識チートも出来ねえじゃねえか!?エルフは!?ドワーフは!?ケモ耳は!?俺のファンタジーは!?)」
ギャレンが転生した世界は理想とはかけ離れた科学が発達した未来的異世界だった。
/////
18年後・オルタシア帝国第三コロニー
『むか~しむかし、この宇宙に危機が訪れました。それは突如として全宇宙を影が覆おうとしたのです。このままでは宇宙に存在する全人類から完全に光が消えてしまうかもしれません。しかしそんなときにオルタシア帝国をリーダーとしヒューマン*エルフ*ドワーフ*ビーストの全種族がそれまでの過去を払しょくし互いを信頼し手を取り合い光を覆う影に抵抗しました。その結果として見事影は消え去り光が再び戻ってきました。これによって宇宙は救われたのです。しかしその後は裏切りの連続でした。エルフがドワーフがビーストがヒューマンをオルタシア帝国を襲い始めたのです。奴らは常に我々を滅ぼすことを考える恐ろしい種族だったのです。人々を守るため宇宙を守るため我々オルタシア帝国は強欲で残虐な種族と今日も戦います』
パタン
「……はあ……」
ギャレンは幼いころに読んでもらった絵本を定期的に読んでいる。しかしそのたびにため息をつくギャレン。
「いるんだよな~……エルフ・ドワーフ・ビーストが……宇宙を探せばどこかにいるってことだよな~……はあ」
この絵本からもわかる通りギャレンが転生したオルタシア帝国はヒューマン至上主義の国であり他種族を毛嫌いしている。毛嫌いというか滅ぼすべきと考えるものも決して少なくない。
さらに言えばギャレンの家であるノートン家はオルタシア帝国の貴族である。階級こそ一番下の男爵であるがだからこそ両親はそれ以上の高い地位への昇爵を目指しておりその期待をギャレンは背負っている。
それはギャレンが誰もが期待するほどに才能が高いから。それはいち男爵の息子が宇宙にいくつものコロニーを擁する世界最大最強のオルタシア帝国の皇帝に興味を持たれ召喚されるほどに。ギャレンはオルタシア帝国全土で期待されていた。
「……逃げるか……」
しかし前世のオタクだったころの記憶を持つギャレンの心のうちは前世から変わらない。ただひたすらに"エルフ・ドワーフ・ビーストに会いたい。ファンタジーに会いたい"。絵本のようなことは一切信じていなかった。
「歴史は勝者の歴史だからな」
ギャレンは"ファンタジーに会いたい"という思いを胸に18年間ずっと努力を続けてきた。そして今日・・・ギャレンは脱走する。
/////
今日は第三レギオン校の卒業式。この世界は各国が宇宙進出を果たして数百年。ギャレンの前世よりも桁違いに発達した世界。そんな世界で戦争兵器としてまたは荷運びや工事など一般的にも使われているのが機体兵器アンドアーマー。
第三レギオン校とはそんな機体兵器アンドアーマーのパイロットを育成するオルタシア帝国の第三コロニーにある学校。そしてギャレンはそこを首席で卒業する。史上最優秀の成績をおさめて。
「ああ…まさかこのような日が訪れるだなんて。誇らしいわギャレン。 あなたは我がノートン家の誇りよ」
「卒業式を終えればお前は正式に軍人となる。しばらくは頻繁に会えなくなるだろう。だから今言っておこう。 国のため・人類のためにたくさんの下等種族を殺すんだぞ。期待しているからなギャレン」
家の門の前で両親よりそう言葉をもらう。それにギャレンは表面上では笑顔を維持して最後の言葉を向ける。
「…行ってきます!お父様!お母様!」
そう言ってギャレンは用意された車に乗りこむ。扉が閉まり車が出発する最後まで笑顔という擬態を忘れない。
「シュッパツイタシマス」
ヴィー
出発したことで表情を擬態する必要のなくなったギャレンは本来の嫌悪の表情に戻す。
「……反吐が出る……」
前世の大人としての記憶を持っているためにギャレンはオルタシア帝国のヒューマン至上主義で他種族を下等と見下すその姿勢に嫌悪していた。それは両親のことも同様に。
この世界の車は反重力で浮きAIの操作で移動する。
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