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◇◆◇◆


 数年前のとある廃工場の片隅……部下の断末魔が上がった現場にて、俺は連続殺人犯と顔を合わせた。

と同時に、目を剥く。

何故なら、そいつが────俺と同じ顔をしていたから。

別に人相のことを言っている訳じゃない。

どちらかと言うと、表情や雰囲気に近いものだ。


 そうか。こいつも────空っぽなのか。


 何をしても感情が動かず、満たされず、興味を引かれない己の性に、俺は似通ったものを覚える。

が、直ぐに『それは間違いだ』と気づいた。

だって、彼はまだ足掻いているから。空っぽな心を満たしたい一心で。

もう全てを諦めた俺とは違う。


 こうやって、殺人を繰り返しているのも一種の反抗なのかもしれない……。


 何もかも馬鹿らしくなって手を抜くようになった自分との対比に、俺は嫉妬とも羨望とも言える感情を抱く。

と同時に、ハッとした。

未だ嘗てこれほど強く心を揺さぶられたことは、あったか?と。

『こいつはもしかしたら……』と僅かな期待を抱く中、彼はこちらを振り返る。

その際、瞼越しに目が合った。


「!」


 トクンッと大きく脈打つ心臓を感じ取り、俺は一瞬放心する。

というのも────自分でもよく分からない感情が、全身を駆け抜けたため。

まさに雷に打たれたかのような衝撃だった。

『これは一体、なんだ?』と内心困惑する俺を他所に、部下達が拳銃を構える。

それを見て、俺は言いようのない不快感と抵抗感を覚えた。


 ……俺はこいつに死んでほしくないのか?何で?自分の感情を揺さぶることの出来る人物だから?でも、それだけで『生かそう』と思えるほど俺はお人好しじゃないぞ。


 自分という人間をよく理解しているからこそ、俺は混乱する。

────と、ここで部下達が拳銃の引き金に指を掛けた。

その瞬間、胸に渦巻いていた不快感や抵抗感は怒りへ変わる。


 おい、手を出すな!こいつは俺の────。


 沸騰する頭から湧き出した結論(答え)に……自分の気持ちに、俺は呆然とした。

まさか、自分が他人にそのような感情を抱く日が来るとは思わなくて。

『人生、何があるか分からないものだな』と考えつつも、妙に腑に落ちる。


 恋とは落ちるものではなく、いつの間にか落ちているものなんて、よく言ったものだ。


 呆れ半分に内心苦笑を漏らし、俺はスッと目を細めた。

と同時に、思考を切り替える。

どうやって、彼を手に入れるか考えるために。

『このままお別れなんて、認めない』と奮起し、俺は早速交渉を持ち掛ける。

────その結果、何とかこちら側へ引き込むことに成功。


 まあ、自分の想いを告げることになったのは予想外だったが。

無駄に警戒心されないためにも、出来れば隠しておきたかった。

でも、あそこで嘘をついたり誤魔化したりするのは悪手だと思ったんだ。


 『信頼関係のない状態では、尚更』と考えつつ、俺は帰りの車に揺られる。

隣の席で眠る想い人を眺めながら。


「何はともあれ、手に入ったんだ。告白によって生じた損害は、少しずつ取り返して(挽回して)いけばいい。時間はたっぷりある」


 ────と、奮起した半年後。

俺はすっかり真白に懐かれ、寝床を共にするようにまでなった。

日々世話を焼いているおかげか、警戒心もかなり薄くなったように思える。

なので、そろそろ本格的に口説こうと画策していた。

『もちろん、嫌がることはしないが』と思案する中、


「ねぇねぇ」


 と、声を掛けられた。

何の気なしにそちらへ視線を向けると、同じ布団で眠る真白の姿が。


「君の好きな人がすぐ隣に居るのに、襲おうとか思わないの〜?」


 こちらの忍耐を試しているのか、それとも単純に気になったのか……真白はそんなことを尋ねてきた。

寝巻き代わりのバスローブから白い肌を覗かせる彼の前で、俺は一つ息を吐く。

『無防備にもほどがあるだろ』と呆れながら。


「同意の上なら迷わず襲うが、そうじゃないなら何もしない」


 おもむろに掛け布団を引っ張り、俺は真白の素肌を隠す。

と同時に、コツンッと額同士を合わせた。


「想いが通じ合っていないのに、ヤッたって意味ないからな」


 『俺が欲しいのは、あくまでお前の心』ということを強調し、そっと目を閉じる。

もう今日は寝よう、と考えて。

正直、かなりムラムラしているので。

『これ以上、性欲を煽られる前に』と思案する中、真白は


「……ふ〜ん」


 と、不満げに相槌を打った。

────その翌日、俺は一人で外出する。

あるものを買うために。


 思ったより、種類が多いな。この中から、一つを選ぶのはなかなか難しい。

出来ることなら、全て買いたい……が、そういうのはあまり良くないんだよな。

『悩み抜いて用意したもの』というのが、重要らしいから。


 テーブルに並べられた複数の商品を前に、俺は熟慮する。

真白の喜ぶ顔を想像しながら。


「……これにする。プレゼント(・・・・・)用に包んでくれ」


 ────と、店に頼んだ一時間後。

俺は購入したものを持って帰宅し、自室へ急いだ。

予定より、長く時間が掛かってしまったため。

『早くしないと、日付けが変わる』と危機感を抱きつつ、襖を開いた。

すると、部屋の片隅で丸くなっている真白が目に入る。


「……何でこんなに遅かったの?」

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