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事件の真相

「だから、警察(九条)に頼んで爆弾処理班の女を何人かこっちに向かわせている。ただ、到着まで時間が掛かるから、先に話を聞きたかったんだ」


 『その方が効率的だろ』と述べる俺に、二人は同意を示す。

特に真白は『絶対そうして!』と強く強く主張していた。

桐生律子と関わる時間が増えるどころか、はだけた姿を見ないといけないなんて、耐えられないのだろう。


「お前もそれでいいか?」


 一応本人の意思も聞いておこうと思い、俺は彼女へ確認を取った。

すると、桐生律子は


「はい、構いません」


 と、即答。

どうやら、俺達を危険に晒してしまったことにかなり罪悪感を覚えているようだ。

『少しでも力になって、罪滅ぼしがしたい』と、積極的な姿勢を見せる。

とてもじゃないが、爆弾を仕込まれている状態の人間には見えない。

『やっぱり、こいつ肝が据わっているな』と感心しつつ、俺は黄色がかった瞳を見つめ返した。


「じゃあ、まずハッキリさせておきたいんだが────お前に爆弾を取り付けたのは、八神組のトップである八神哲彦で間違いないか?」


 真っ先に核心をつく俺に対し、桐生律子は大した驚いた様子もなく首を縦に振る。


「はい、間違いないです」


 どこか自嘲気味に笑って肩を落とし、桐生律子は俯いた。

自分の父親のせいでこんなことになって、申し訳なく思っているのだろう。

すっかり縮こまってしまう彼女を前に、俺は首裏へ手を回す。


「念のため聞くが、爆弾を使ってどうするつもりだったんだ?」


 大体予想はつくものの、一応問い質すと、桐生律子は顔を上げた。


「桐生組の直系一族の抹殺です」


「やはり、そうか。俺達に『挨拶がしたい』と申し出たのも、そのためだな?」


「はい、父の指示で……桐生組の直系一族が揃うタイミングを作れ、と」


 確実にターゲットを屠るには、至近距離からの爆破が一番効果的だもんな。

着物の下に収まるほど小さい爆弾となれば、尚更。


 と納得する中、桐生律子は苦い表情を浮かべた。


「本当は父の言いなりになんてなりたくなかったんですが、『従わなければ殺す』と脅されて……」


「なっ……!?」


 二番目の兄は大きく目を見開き、険しい顔つきになる。

珍しく殺気立つ彼を前に、桐生律子は強く手を握り締めた。


「逃げ出す機会を伺っていましたが、監視の目が厳しく……桐生組にこの危機を知らせることも、出来ませんでした。本当に情けない限りです」


 直前になってこちらへ助けを求めることしか出来なかった現状に、桐生律子はそっと目を伏せる。

無力な自分を恥じるように。


「いや、律子はよくやってくれたよ!君の協力がなければ、僕達は全員消し炭になっていたかもしれないんだから!」


 『君のおかげで、助かったんだ!』と力説し、二番目の兄は桐生律子の罪悪感を払拭した。


「第一、悪いのは全て八神組の組長だ!自分の娘を巻き添えにして、こんなの……酷すぎる!」


 いつになく声を荒らげる二番目の兄は、眉間に深い皺を刻む。

『自分の子供にここまでする?』と憤る彼の前で、俺はおもむろに天井を見上げた。


 八神哲彦は無駄にプライドの高い人間と聞く。

多分、桐生律子が問題を起こして八神組に不利益をもたらした時から……自分の顔に泥を塗った時から、もう娘として見てなかったんだろう。

だから、爆殺することに一切躊躇などなかった。


 『むしろ、組の汚点を処分出来て良かったとすら思ってそうだ』と、俺は内心肩を竦める。

と同時に、桐生律子を見据えた。


「今回の事件の概要は大体、分かった。他に何か知っていることは、あるか?」


 『些細なことでもいいから話してみろ』と促すと、桐生律子は少し考え込むような素振りを見せる。


「……今回の事件にはあまり関係ないかもしれませんが、打ち合わせのとき父がちょっと気になる発言をしていました」


「具体的には?」


 発言の内容を話すよう求める俺に、桐生律子は悩ましげに眉を顰めた。


「一言一句覚えている訳ではないので多少ニュアンスは違うかもしれませんが、確か────『かねてより進めていたプランがダメになったから、こちらの思惑を暴かれる前に先手を打ちたい』と言っていました」


「なるほど」


 パズルのピースが嵌っていくような感覚を覚えつつ、俺はスッと目を細める。


 これでようやく分かった。いや、確信を持てたとでも言うべきか。


 『一応、想定内のことではあるから』と思案しながら、俺はすぐ傍に居る真白へ視線を向けた。


 俺の探していた敵は……雨宮琉生のバックに付いていた黒幕は、八神哲彦だ。間違いない。

そう考えれば、全て辻褄は合うから。


 『何故、大量の武具が用意出来たのか』などの謎が解け、俺は少しばかり表情を硬くする。

これでやっと真白を傷つけたやつに報復出来るな、と奮起して。


「八神組……いや、八神哲彦には必ず落とし前をつけてもらおう」


 ────と、宣言した翌日。

俺は早速抗争の準備に取り掛かるものの……今回の件を聞きつけた父から、呼び出しを受けてしまった。

『まあ、想定の範囲内だが』と思いつつ、テーブルを挟んだ向こうに居る黒髪の男を見据える。

と同時に、あちらが口を開いた。


「結論から、言う。八神組との全面戦争は、避けろ」


 案の定とでも言うべきか、父は反対する意向を示した。


 まあ、八神組と事を構えたくなくて跡取りの選定を先延ばしにしたくらいだからな。

こうなるのは、予想していた。


 『まさか、こんなに早く呼び出されるとは思ってなかったが』と内心肩を竦め、俺は腕を組む。


「────断る」


 八神組との全面戦争はもう自分の中で決定事項のため、迷わずそう答えた。

すると、父は眉間に皺を寄せる。


「お前に拒否権はない」


 鋭い目付きでこちらを睨みつけ、父はとんでもない威圧感を放った。

かと思えば、


「これ以上駄々を捏ねるつもりなら、若頭の座から下りてもらうぞ」


 と、脅迫する。

『あくまで決定権はこちらにある』と示す父を前に、俺は一つ息を吐いた。


「勝手にしろ」


 『そんなの交渉の材料にもならない』と吐き捨てると、父はピクッと眉を動かす。

黒い瞳に、僅かな焦りを滲ませながら。


「いいのか?お前はあれほど、若頭という立場にこだわっていたのに」


「ああ。今は昔と違って、俺に逆らう奴も居ないからな。たとえ、若頭という肩書きを失っても俺が跡取りという事実は変わらないだろう」


 言外に『兄達は跡取りの座を譲る筈』と述べ、俺は自分の立場が揺るぎないことを誇示した。

と同時に、人差し指でトントンとテーブルを叩く。


「それに、八神組との全面戦争には兄達も賛同している。俺を若頭の座から外したとて、もう衝突は避けられないだろう」

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