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主犯格

◇◆◇◆


 ────外部の介入について調べ始めてから、早一ヶ月半。

俺達は……というか、兄達はようやく主犯格を特定した。

あの写真の男である。


雨宮(あまみや)琉生(りゅうせい)。二十四歳。フリーター。天涯孤独で、友人や恋人も特になし」


 二番目の兄から貰った調査報告書を見下ろし、俺は一つ息を吐く。

外部の人間だからか情報は少ないな、と思いながら。

まあ、居場所と顔を突き止めてくれただけで充分だが。

『でも、これは……かなり引っ掛かるな』と考えつつ、俺は顔を上げた。

と同時に、車の窓から流れる景色を眺める。

無論、真白も一緒に。


「ねぇねぇ、若くん。そいつも生け捕りにするの〜?」


 俺の腕にピッタリくっつく真白は、こちらの手元を覗き込む。

恐らく、調査報告書にある雨宮琉生の顔写真を見ているのだろう。

『殺したいな〜』とウズウズしている様子の彼を前に、俺は腕を組んだ。


「生け捕りが好ましいな。こいつには、色々と聞きたいことがある」


 雨宮琉生のスペックとこれまでの所業が結びつかず、俺はどことなく違和感を覚える。

『まあ、主犯格というのは間違いないだろうが』と考える中、車は停まった。

どうやら、目的地に着いたらしい。


「行くぞ、真白」


「は〜い」


 俺の下車に合わせて真白も車を降り、目の前の建物を見上げた。

かと思えば、不思議そうに首を傾げる。


「な〜んか、どこにでもありそうな一軒家だね〜」


 もっと怪しい場所に潜んでいるとでも思っていたのか、真白は『想像と違う〜』と呟いた。

と同時に、玄関の扉を蹴破る。

閑静な住宅街なのでかなり音は響いたが、元々あまり治安の良くない場所だからか気にする者は居ない。

『こちらとしては、好都合だな』と思案しつつ、俺は真白を伴って中へ入った。

その瞬間、すぐそこの扉が開く。


「────やっと来たか、人殺し」


 そう言って、こちらを……真白を睨みつけるのは他の誰でもない雨宮琉生だった。

青く染めた髪をハーフアップにしている彼は、茶色がかった瞳に殺意を宿す。

見るからに敵意剥き出しな雨宮琉生を前に、俺はスッと目を細めた。


「まるで、俺達が来ることを分かっていたような言い草だな」


「そりゃあ、お前達が俺に辿り着くよう敢えて痕跡を残しておいたからな。いつかは来ると思っていたぜ。まあ、想定より少し遅かったけどな」


 『天下の桐生組が聞いて呆れる』と肩を竦め、雨宮琉生はパーカーのマフポケットに手を入れる。


「なんにせよ、“狂犬”を引き摺り出せたならそれで……」


 ────いい。


 続ける筈であっただろう言葉は、真白の急接近により遮られた。

いや、反射的に口を噤んだと言った方が正しいか。

ちょっと後ろに仰け反って身構える彼を前に、真白は


「君の目当てが、僕なのは分かったけど」


 少しばかり身を乗り出す。

と同時に、雨宮琉生をじろじろと見つめた。


「う〜ん……やっぱり、見覚えないな〜」


 『自分が狙い=過去に会っている』と解釈したのか、真白は怪訝そうな表情を浮かべる。

顎に手を当てて上体を起こす彼の前で、雨宮琉生は一つ息を吐いた。


「面識なくて、当然だ。こうして顔を合わせるのは、今日が初めてだからな。でも、俺はお前を知っている────お前が俺の母さんを殺した、あの日から」


 グッと強く手を握り締め、雨宮琉生は鋭い目付きで真白を睨みつける。

怒りや憎しみといった感情を露わにして。


「リビングの扉の隙間から、ずっと見ていた……母さんが死ぬところも、お前がトドメを刺すところも」


 グニャリと顔を歪めて涙目になる雨宮琉生は、歯を食いしばった。

まだ泣くな、と己を律するように。


「それから、ずっとお前を殺すことだけ考えてきた!母さんの仇を討つために!」


 そう言うが早いか、雨宮琉生はマフポケットから拳銃を取り出した。


「母さんが殺されたこの場所で、お前を討つ!」


 茶色がかった瞳に確かな意志と覚悟を宿し、雨宮琉生は引き金を引く。

と同時に、吹き飛んだ。比喩表現でも何でもなく、本当に。

なので、銃弾の軌道は大きくズレて天井へ当たった。


「っ……」


 床に背中を強打して縮こまる雨宮琉生は、痛みのあまり声も出せなくなる。

でも、決して戦いを放棄しようとはしなかった。

間違っても拳銃を手放さぬよう強く握り締め、ゆっくりと身を起こす。

が、体勢を立て直す暇もなく真白から蹴りを入れられる。


「がはっ……!」


 よりによって鳩尾に食らってしまい、雨宮琉生は再び倒れる。

もはや腹を抱えて蹲ることしか出来ない彼を前に、真白は日本刀を抜いた。


「待て。それ以上はダメだ。情報を引き出したらお前の好きにさせてやるから、今は我慢してくれ」


 俺は真白の肩に手を置き、思い留まるよう頼んだ。

────が、彼は気にせず刀を振り上げる。


「真白?」


 いつもならお願いすれば言うことを聞いてくれるのに真顔で追撃を行おうとする彼に、俺は驚く。

これまでもこちらの指示を突っぱねることは何度かあったが、こうやって無視されるのは初めてだったので。

『様子がおかしい』と危機感を抱く中、真白は刀を振り下ろした。

それも、雨宮琉生の脳天目掛けて。


 不味い……これは死ぬ。


 そう確信した瞬間、雨宮琉生は頭を斬られて動かなくなる。

結局宿敵に一矢報いることも出来ずに亡くなった彼の前で、真白はただ一言


「……お母さん」


 と、呟いた。どこか泣きそうな声で。

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