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◇◆◇◆


 ────俺一人のタイミングを狙った襲撃から、早一週間。

組長(親父)の指示で本邸に戻った俺は、座椅子に腰掛けながら書類を確認する。


「めぼしい情報は特になし、か」


 情報収集のため生かしておいた敵の尋問結果に、俺は一つ息を吐いた。

『どうにも腑に落ちないな』と感じながら。


 あいつらの話によれば、自分達はただ雇われただけの集団で桐生組や俺に恨みなどないとのこと。

それだけなら別に珍しい話でもないが、他所と違うのは────依頼主が(・・・・)仕事達成の手助け……いや、お膳立てをしていたこと。

俺の居場所や一人になるタイミングを事前にあいつらに教え、拳銃などの物資も分け与えていたらしい。


 『大抵、そういう準備は雇われた側がするのに』と考えつつ、俺はテーブルに書類を戻す。

と同時に、背後から人の気配を感じた。


「若くん、僕が尋問を代わってこようか〜?」


 俺の両肩に手を置いて、顔を覗き込んでくるのは────他の誰でもない真白だった。

腰に下げた日本刀をプラプラ揺らす彼は、今日も白いスーツを赤く染めている。


 こいつ……また誰か切ってきたな。『程々にしろ』って、何度も言っているのに。


 『全く……』と呆れ返りながら、俺は額に手を当てる。


「却下だ。お前にやらせたら、尋問じゃなくて拷問になるからな」


「え〜?でも、僕ならちゃんと情報を吐かせられるよ〜?」


 掴んだ肩を軽く揺さぶり、真白は『理に適っているんだから、別にいいじゃ〜ん』と喚いた。

駄々っ子のように振る舞う彼の前で、俺はやれやれと(かぶり)を振る。


「とにかく、ダメなもんはダメだ。第一、もう尋問出来るような状態じゃないしな」


 『情報を引き出す以前の話だ』と告げると、真白は不思議そうに首を傾げた。


「なになに、どういうこと〜?」


 全く話が見えてこないのか、真白は俺の首に抱きついて軽く締めてくる。

『吐け吐け〜』とでも言うように。


 こいつ、本当にいちいち物騒だな。そんなことをしなくても、普通に答えるのに。


 『もっと他に聞き方はなかったのか』と思いつつも、俺は真白の好きにさせた。

どうせ、本気じゃないのは分かっているため。


「先日、捕らえた奴らが昨夜自決したんだ。一人残らず、な」


 テーブルの上にある書類を指さし、俺は『ここに書いてある通りだ』と述べる。

すると、真白は僅かに身を乗り出して書類へ目を通した。


「ふ〜ん?若くんがまだ『死んでいい』って言ってないのに、命を絶っちゃったんだ〜。どうしようもない奴らだね〜。てか、見張りの奴らは何やっていたの〜?」


 『使えないな〜』とボヤき、真白は日本刀に手を掛ける。

声のトーンや表情はいつもと変わらないが、苛立っているのは確かだった。

『こりゃあ、また血の雨が降るな』と確信する俺を他所に、真白は立ち上がる。

────と、ここで勢いよく襖を開け放たれた。


「おい、彰。帰ってきたなら、挨拶くらいしろよ」


 そう言って、襖の向こうから姿を現したのは我が家の長男である桐生(まこと)

自他ともに認める武闘派で、組の若い連中をまとめ上げている。

血気盛んなのが玉に瑕だが、桐生組を支える重要な人物であることは確かだ。

『俺からすれば、諸刃の剣だけどな』と思案する中、一番目の兄は少しサングラスをズラす。

すると、泣く子も黙る強面が露わになった。


 ある意味、誰よりもヤクザらしい見た目だよな。

黒髪オールバック、瞳孔の狭い黒目、黒スーツで全身真っ黒だし。


 『その上、体格もいい』と考えつつ、俺はテーブルの上に置いた書類を片付ける。

と同時に、後ろを振り向いた。


「真白、茶」


「は〜い」


 俺から書類を受け取った上で、真白は一旦部屋を出る。

そして、直ぐに戻ってきた。

急須とコップが、載ったお盆を手に持って。


「お待たせ〜」


 当然のように俺の隣へ腰を下ろし、真白は急須を持ち上げた。

かと思えば、コップに中身を注ぐ。それも、一人分だけ。

『こいつ、まさか……』と嫌な予感を覚えていると、彼は俺の前にだけお茶を置いた。

兄のことは完全に無視。


「……彰、お前んところの側近は客に対して茶も出さねぇーのか?あ”?」


 案の定とでも言うべきか、一番目の兄は真白の態度に腹を立てる。

『ふざけているのか!』と憤慨しながらテーブルを叩き、こちらを睨みつけた。

眉間に深い皺を刻む彼の前で、真白は手に持ったままの急須をプラプラ揺らす。


「え〜?君を客だと認めた覚えは、ないんだけど〜?」


 『何でお客様気分で居るの〜?』と煽り、真白はコテリと首を傾げた。

これでもかというほど相手の神経を逆撫でる彼に対し、一番目の兄は目くじらを立てる。


「早瀬、てめぇ……あんま調子乗んなよ」


「それはこっちのセリフ〜。突然押し掛けてきた分際で、偉そうな態度取らないでもらえる〜?」


 『いくら兄弟と言えど、アポなしは非常識でしょ〜』と主張し、真白はやれやれと(かぶり)を振った。

まるで、駄々っ子を相手するような態度で。


「まあ、そんなにお茶が欲しいならあげてもいいけど。どっかの地方では、帰ってほしい客にうぶ漬け?出すんでしょ。だから────」


 おもむろに兄の背後へ回ると、真白は急須の口をそっと傾けた。


「────これが僕からのうぶ漬け、ってことで〜」


 急須の中身を兄の頭に掛け、真白はヘラリと笑う。

相も変わらずぶっ飛んだ行動を取る彼に、俺は目頭を押さえた。


「真白、食べ物を……いや、飲み物か?とにかく、資源を無駄にするな」


「あっ、は〜い」


 ハッとしたように急須を持ち直し、真白は『確かに勿体ないよね〜』と共感を示す。

と同時に、一番目の兄が勢いよく後ろを振り返った。


「殺す」


 地を這うような低い声で威嚇し、一番目の兄は立ち上がる。

流れるような動作で真白の胸ぐらを掴み、至近距離から凄んだ。

が、真白は実にあっけらかんとしている。


「『殺す』って、誰に言っているの〜?サングラスくん、僕に勝てたこと一度もないよね〜?」

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